物欲が無い。
これは本当に困ったことだと、最近気づいたのです。
彼のほしいものを、考えていました。
時間、サボらない副官、甘納豆、まぁつまりを言えば、

誕生日プレゼントには到底ならないようなものばかり、

そして到底不可能なものばかり、であるのです。
一度訊いたことがあるのですが、そのときは、

「おまえ」

と、さらりと答えられてしまったわけでして。
(そんなこと言っちゃいけません!)
その姿で、そんなえろい顔して!
けしからんと思ったわけです。
まぁ、それで婚約、結婚と相成ったわけですけども。
わたしが日番谷の姓を名乗るようになってからでも、彼はそんなことを言い出しかねません。
わたしがプレゼントなんてお粗末過ぎます。
こう何年も一緒にいたら、プレゼントなどアイデアも尽きます。
もともとあの人、冬獅郎は物を欲しがらない。
物持ちもいいほうだし、真面目なのでもらったものをしっかり使います。
誕生日の季節ともなれば、誰某からのプレゼントが山のよう。
あの人はあぁ見えてやさしい人だから、律儀にも受け取っては礼を述べるのです。
…とてもじゃないけれど、かぶらないのは不可能です。

「冬獅郎、」
「何だ?」
「明日、ってさ。…お仕事?」
「仕事だ、遅くなる」

ぱくり、と口に運ばれるブリ大根。
(今年は一緒に過ごす時間もない、か)
ふむ、とわたしは考え込むのです。
だがしかし、時は迫っています。明日なのです、誕生日は!

「…遅くなるが、必ず帰る」
「やっ、いえ、あの、無理せず、隊舎の自室でお休みくださいな」

疲れているのにそれは悪い。
あわてて首を振るわたしに、冬獅郎は小さく困ったように笑うのです。

「いや、帰ってくる。…だから寝ずに待ってろよ?」

ぽんぽんと、わたしの頭を撫でます。
ちいさな手から、伝わる、(まるでわたしの心を見透かしたような)やさしさ。
きっと本人は、自分の誕生日なんて、と思っているでしょう。
だけど、わたしのために、わたしのお祝いのために、彼は帰ってきてくれると言います。
既に大量に送られている誕生日プレゼントにげんなりするわたしの心を満たす、やさしさ。

「…はい、では待っていますね」

ふわりと零れる嬉しげな微笑に、冬獅郎もつられて笑ってくれます。

「…、」

ちょい、とおいでのしぐさ。
体を寄せると不意に暖かくなります。

「…どうしたの、冬獅郎」
「別に、したくなった」
「また、今年もわたしがほしくなったのですか?」

くすくすとわたしが冗談めかす。
冬獅郎は照れもせずに、しれっと言うのです。


「あぁ、何年一緒にいたって、何度も何度も思うぜ、お前がほしいってな」


肩口に顔を埋められた冬獅郎から発せられる言葉が、わたしの中心に響きます。
カチリと動く、時計の針。
(あぁ、)

「お誕生日、おめでとう、冬獅郎」

ぎゅうっと抱きしめると、少し照れ臭いような声が帰ってきました。

「………あぁ、ありがとう、」








二十日午前零時ちょうどの

ハッピーバースディ。



(この瞬間、わたしだけの特別タイム)













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いちばんに言いたい。
冬獅郎誕生日おめでとう!すきだ!愛してる!