全ての発端は、去年の誕生日。


「………キモチわりぃ…」









賽は投げられた。












浮竹隊長から貰ったプレゼントを尻目に、冬獅郎は呟いた。
それからその等身大の冬獅郎人形はとりあえず、十番隊舎の物置へと入れられることになる。
(ほかに置く場所ねぇし、しょうがねぇ)
何でこんなことで頭を悩ませねばならないのか、悩みの種など副官のことで充分である。
冬獅郎は大きな溜息をつきつつも、物置にそれをしまって、執務室へと戻った。







その姿を見つめる視線が、一つ。



「…すご、そっくり」



被された白い布を取り去って一言。
はまじまじとその人形を一望する。
日番谷冬獅郎そのままに作られた人形を見て、どこまで精巧に作ってあるのかが気になった。
(…脱がせるとか)


「そ、そんなはしたないことできるか!!!」


ばしこっと所構わず叩くと机の角で小指を強打した。


「い゛だー!!!」


何ともアホな行為に自分でもいやになった。
だがお陰で一瞬の興奮が冷める。
痛めた小指を押さえ、もう一度等身大日番谷を見た。
相変わらずそれは凛とした、の好きな表情のまま止まっている。
刀に手をやり、空を見つめた彼。

「…すきだなぁ」

ずっと眺めていたくなる。
あの眸も、手も、すべてを。
(やだなぁ、わたしストーカーみたいだ)
実際そうだ。違わない。

「持って帰りたい」

思わず呟く。
家に起きたい。
だが、日番谷サイズとはいえ人一人分の大きさ。
さすがに持ち帰るとなると大事だ。
しかしそれで諦めるではなかった!





「…?」
「あ。隊長」

翌日呼ばれて振り向くと、そこには彼の日番谷隊長。

「今日の現世行きだが、準備は整ってるのか?」
「はい、抜かりなく」

は十番隊第五席に名を連ねる女傑。
隊長にはよく目をかけてもらっている…と思う。
これは自惚れなどではなく。
他の隊士より声掛けてもらえること、多いし。
(それはわたしが常に隊長を見てるから分かることだけども)

「それでは失礼します」

話が済んだと思い、は一礼すると踵を返した。

「あ。ちょっと待て」

「ッ!!!」

制止とともに握られた手に激痛が走る。
昨日アレで痛めた右手小指。

「…?どうしたんだ、この指!」
「あ、あのですね、それは」
「赤くなってるぞ!?ちゃんと四番隊へは行ったのか?」

あの冷静な隊長が少し慌てた視線でを見た。

「どうしたらこんなとこ痛めんだよ」

ふわりと手を重ねられ、ひんやりとした隊長の霊圧を感じる。
ひんやりとしだす右手とは裏腹に、の頬が一気に紅潮した。
(あの、隊長がわたしの手を!)
怪我どころの話ではないのだ、実際。

「俺あんまり治癒系の鬼道得意じゃねぇんだ……聞いてるのか?」

眉を思い切り寄せたまま、隊長が見上げてきた。
だが、はそれどころではない。

!」
「う、わっ、は、はい!!」

名前をフルネームで呼ばれ、びくりとは我に帰る。
そこには眉間がくっつきそうなほどに寄った隊長。

「…どうしてこんな怪我をしたんだ?」

唸るような低い声で、隊長に問われる。
(そ、そんなの…!)
答えられるはずがない!
『あなたの等身大の人形がどこまで精巧に作ってあるか脱がせてみようと思ったんです☆』
なんて言ってみろ!
確実に引かれる。
だが、彼の霊圧に押されてとても嘘を上手くつく自信が無い。

「…ぶ、ぶつけて」
「どこでだ?」
「物置の机で」
「何で物置なんかに行ったんだよ」
「…見たくて」

殆ど尋問に近かった、だが、答えるしか道はない。
段々と追い詰められていく

「…何を?」
「隊長の、人形…」
「は?」

盛大に眉を寄せた隊長の顔が、の視界に入った。


「…隊長の人形に興奮してたらぶつけました」


(えええええ、何正直に言っちゃってんのわたし!?)
視線の先の彼が呆然とを見上げていた。
開いた口が閉まらないらしい。

「…ば、バカヤロウッ!何してんだ、人の…」

人形、と言うのも憚れるらしい。
隊長は呆然とした後、眉を寄せて、だけど確かに笑った。

「…馬鹿な奴、そんなに気になってたのかよ?」
「はい、だって隊長そっくりの人形ですよ!?」
「そっちじゃねーよ」

ぽん、と治療の終わった小指を叩かれる。
(隊長は何でもできちゃうんだなぁ)
そんなことに呑気に感心しながらも、は次の言葉を待った。

「…俺のこと」

あまりに静かに言うものだから、聞き取るのに苦労した。

「お前の目の前にいるのは、俺の本物だぜ?」
「…は、はい…」
「…もっとこう、ねーのかよ、言うことは」








「 脱 が し て い い で す か ? 」








「は!?」

恐らくは隊長の期待をゆうに裏切った質問だったのだろう。


「確かめたいんです、あの人形がどこまで精巧なのか!」

「なっ、お前脱がしたのか!?」

「…き、気になっただけです!」

「バカヤロウ、ッ!」


隊長の怒号が飛んできて、はひぇと肩すくめた。
怒りで打ち震える隊長。
乾いた笑いを浮かべるしかない


「隊長?あの、その…」
「…もういい、分かった」


眉間を押さえて隊長は溜息をつく。
何がいいのか?





「お前に付き合ってやろうじゃねぇか?」





口の端を上げながら隊長は意地悪く笑った。


「ほんとですか!?」

「あぁ、その代わりお前も脱げよ」


「え!?」









もうどうにも止められない!





(わたしにはもうどうすることもできないんだよ!)














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あほだ…!
まさかのカラブリネタ(笑)
とりあえずですが、八萬を踏んでくださった露さまへ!
ほんとうにありがとうございますっ。
これからもこんなアホな作品ですが愛してくださると嬉しいです!

泉。