「結婚式、…だけどな、」

籍を入れて2年、幾度となく繰り返してきた会話である。
時は遡る事三か月前。
現世定点1007番北西3429地点、日番谷家の食卓。
は食べる手を止めた。
きょとりと黒目がちの大きな瞳を丸くさせて、向かいに座す冬獅郎を見つめたのだ。

「冬獅郎、もうそれはいいって言ってるじゃない」

人間と死神という不自然な成り立ちのせいで、式は挙げられなかった。
それをは何とも思わなかったし、冬獅郎もそれでほっとした面は確かにある。

『結婚式って言うのは女の子が一番輝ける日なんだよ、シロちゃん!』

冬獅郎は幼馴染が会う度に言ってきた言葉を思い出す。
“しなくても別にいい”など、そんな簡単な感情で済ませれるはずがない。
はあのように冷めてはいるが、れっきとした女の子なのだ。

「一年に一回は言うわよね、あなた」

笑っては再び食事を開始しようとする。
式などしなくても、幸せなのだ、現状は。それに満足している、は心の底からそう思っていた。
そりゃできれば嬉しいけれど、それに伴うアレコレが厄介すぎる。
そのような気苦労を冬獅郎にはかけたくないのだ、ただでさえ、この関係に頭を悩ませている、彼には。
お互いがお互いをだいすきで、こうして、二人でご飯が食べられる。それが一番幸せなのだと、思っていた。
一昨年は「結婚式、挙げられなくて悪い」
去年は「式、したかったよな…、」
それで今年は「結婚式、だけどな、」その続きを聞かなくても冬獅郎がどうしようとしているのか、には手に取るように分かった。
(わたしが一言いえばこのひとは踏み切れる)
だけど結婚式って大変なの!このひとは分かってるのかしら?
何より公の目に触れる、このひとは分かっているのかしら?(重要な事なので二回言いました)

、」
「なァに?」
「挙げよう、式」

今度こそ、は箸を置いた。

「…遅くなっちまって、悪い。現世では、式は大切な儀式だそうだな…俺たちのことを認めてもらういい機会だし、
 それから、お前が俺に気を遣ってんのが気に食わねぇ、」
「冬獅郎、」

嬉しいけど、でも。そんな言葉がの口から出た。戸惑ったように、言い淀む。

「何より、お前の花嫁姿を、楽しみにしてる人がいるだろ」

そうして、小さく、穏やかに笑むのだ。
今まで育ててきてくれた家族、一緒に成長してきた友人、

「…俺もその一人なんだよ」

穏やかに窄まる、翡翠の瞳。
ほら、やっぱりお前の花嫁姿ぜってーきれいだろ、見ないなんて損だろ、な!うん!
照れ臭いのか、冬獅郎はそんな感じを付け足した。
そうして、の手に己の手を重ねては、

「挙げようぜ、派手に」