「式は現世で挙げる」

冬獅郎の言葉には驚いた。
てっきり尸魂界へ行くものとばかり思っていたからだ。

「お前はよくてもお前の家族とかが瀞霊廷にはこれねぇだろ」
「あ、そういえばそうね」

には尸魂界というものの成り立ちはよくわからなかった。
冬獅郎たち死神は義骸というものに入れば、現世でもその存在が認識できるというのだ。
もともとそれはそのための物ではないらしいが。

「こっちの式場の資料、あったら見せてくれ」
「あるわよ、えーっとね」
「…あるのか?」
「え?あ、違うの、友達がね、くれるって言うから断れなくて」

式を挙げろという催促だったのだろうか、そりゃそうだ、期待しないはずがない。
冬獅郎は資料を探すの背中を見つめながら、何とも申し訳ない気持ちになった。
(あいつはどんな気持ちで資料受け取ったんだろうな)
挙げられない式の資料など、見るだけ辛くなるだけだ。
でもあいつの事だからきっと顔にも出さず受け取ったのだろう。

「式も全部、現世の仕来たりに合わせる」
「ぇえ?それで良いんですか?」
「こっちで挙げるんだから当たり前だろ、俺何もしらねぇけど、よろしくな」
「わ、わたしもまだやったことがないので、」

おどおど、との資料をめくる手が早まる。
双方の家族へ、報せは済んだ。
の母親はびっくりしたような、やはり戸惑ったような笑顔を浮かべていた。
籍を入れる時だって、反対を口にこそしないものの、目ではそう言っていた。
当然だ、自慢の愛娘の夫が、外にも言えないような職業で、こんなナリなんだから。
そのことについても、は自分のことで色々言われたのだろう。

『良い子だね、大切にするといい』
『すごくきれいな人っすね!お幸せに!』
『こちらに来てもらえないのが残念ね』

自分も色々言われたことを思い出した。
が褒められるのはもちろん当然だ。
きっと、彼女は冬獅郎の事について『小さい』だの『何だあの髪は』だの『外国人か?子供じゃないか』など、言われ続けてきたことだろう。
やはり式を挙げるなど、無謀なことだったのだろうか?

「え〜っと、どうしよ、」

困り果て唸りながらも楽しそうに資料をめくるの姿を見たら、そんな思いは消え去った。
いっぱい迷惑かけるな、これからも、きっと。
ごめんな、でも冬獅郎は絶対にその言葉は口にしない。
謝ることはないのだ、一度謝っての怒りにふれたことがある。
そう、これでよいのだ。は今、楽しそうに笑ってる。

「ぜってぇ幸せにするからな」