「遅くなって悪い、」

息を切らせて、冬獅郎が控え室に入ってきた。
髪も乱れているし、死覇装のまま、駆け込んできたのだ。
式当日。
間に合わないんじゃないかと、は気が気ではなかった。
彼はこの数週間、家には帰ってこなかった。
結婚式の打ち合わせはすべて、一人と式場で済ませてしまった。
式や披露宴の行程、料理、音楽、席順、すべてをだ。
よほどのまとうオーラが恐ろしかったのだろうか、冬獅郎はをまっすぐ見られなかった。
申し訳なさからか、不甲斐なさからか。
ここ数週間の怒涛の仕事量は半端ではなかった。
あのふまじめな松本が一生懸命頑張っても、終わらなかった。
総隊長や他隊の隊長が気を遣って仕事を調節したにも関わらず。
『間に合わねぇ…!』
心の中で、何度も思い浮かんだ言葉だ。しかし、口に出すことはできなかった。
口に出したら現実にしてしまいそうで。

「冬獅郎」
「…」

何も答えられずにいると、が近づいてくる空気が伝わる。
俯いていた視界に、白い手袋をはめた腕が入った。
握りこぶしを握ったままの冬獅郎の手を、そっと取る。

「おかえりなさい、」

力の入っていたこぶしを包まれる、ふっと力が抜けるのが分かった。
「無事でよかったわ、」そう震える声で呟かれる。
ばっと顔を上げる、は穏やかに微笑んでは、

「さぁ、はやく着替えて」

冬獅郎が目を見開いて固まる、その様子には小首を傾げた。

「…どうしたの?」
、お前、…」
「なァに?」

何だこれ、反則だろ。
冬獅郎の脳内にはソレしかなかったのだ。

「…すっげ、キレーだぞ」

ロマンチックな言葉でも、ひねりの利かせた言葉でもなかった。
ただ、いつも通りの粗野な言葉しか出てこなかった。
純白のドレスをまとったは、いつもより派手目に化粧をしていた。
目がぱっちりと開かれ、薄く引かれた口紅もいつもより色っぽい。
あぁ、花嫁っていうのは、本当に輝くものなんだな。
本当に自分は損をしていた、こんなにきれいな、愛しいあいつを、見逃していたんだ。

「びっくりした、」

我に帰ると笑いがこみあげてきた。
反則だろ、冗談じゃねぇよ。
冬獅郎が急に笑い出すのにきょとんとしている
そのを尻目に言い放つ。

「見てろ、俺も一発キメてくるからな」