変わるものがあるとするならば、それは人の心である、と。 珍しく晴れた日だった。 このところ寒い日が続いて、雪もちらついていた、年の瀬、十二月。 この日ばかりは、静かな十番隊舎も活気づく。 彼のファンはこの十番隊に限らず、他隊にも多く存在する。 「今年もにぎやかねぇ」 「わっ、ら、乱菊さん、じゃない、副隊長!」 「もォー乱菊でいいって言ってるのに」 頬を膨らませて、やぁねぇと笑う。 乱菊さんはわたしの隣に腰掛けては隊舎を見下ろした。 そこは隊首室が見える、隊舎の屋根。 「んで?あんたはどうすんのよ」 「…何がですか?」 「…分かってるくせに訊かないの!!」 この!と頬を抓られて、痛い、と身を捩る。 この人の明るさは好きだ、人を明るくさせる振る舞いを、知っている優しい人。 「でも本当、何が、って感じなんです」 「?」 もう何年になるだろうか、何十年になるだろうか。 想い続けるには長すぎる年月のように思う、ただ、この場所からずっと。 この距離はずっと埋まらない、そんな気さえしていた。 「何よ、隊長と何かあった?」 「…何もないですよ、なァんにも。たぶん、何年も傍にいて、傍にいるのが当たり前すぎて、…」 わたしなど、取るに足らないと思っているのでは、蔑ろに、されているのでは、と。 ぽつり、とこぼして、しまった、と思った。 不満などないのだ、ただ、心のほこりを払っただけなのに、それは思わぬ方向へと舞った。 「ほぉ?」 後ろから声がして、びくり、と肩を震わす。 少々、いや、かなりの怒気を含んだ声に、恐る恐る振り返る。 「日番谷隊長!」 「誰が誰を蔑ろにしてるって?」 ニコッと見たことのないような笑顔で見下ろしてくる。 隣にいたはずの乱菊さんはどこかへと消えていた。 「よーく分かった、それじゃ、今日の隊務は終わりだ。俺は早退する」 意図の分からぬ宣言をされて、わたしはエッ?と声をあげた。 この年末、仕事は怒涛のように舞いこんでくるし、各所への挨拶、忘年会、と用事は多岐にわたるはずだ。 それを、早退? 「隊長、大丈夫なんですか、そんなことして」 落ち着き払ったわたしの声に、また怒気を強めた彼が、 「今日一日休んでるお前よりは大丈夫だと思うぜ?」 何で俺の誕生日なのにお前が休むんだよ、と溜息をついた。 「と、言うわけだ、あとは頼むぞ、松本!」 乱菊さんはとうに消えたと言うのに、と思っていると、どこかからか「ハーイ」とゆるい返事だけが返ってきた。 「ったく、俺が何のためにここ数日働いたと思ってんだよ」 ぶつくさ、と言葉をこぼしてはしゃがみこむ。 「帰るぞ、」 今日は俺の誕生日なんだろ?とニヤリと笑む。 そうして冬獅郎はわたしの頭をぽん、と撫でて、 「お祝いしてくれんだろ?」 ----------------------------------------------- 今年もあなたのそばにいる。 後半へ続く。 |