最近仕事が忙しくて、帰るといつも夕飯時を過ぎている。
わたしは料理もあんまり得意じゃないし、すばやくそれを用意できないのだ。
帰ると大抵先に、あいつがくつろいでいる。

「ただいま」
「おかえりなせェ、、随分遅かったですねェ」
「もう仕事が忙しくっ「腹減りやした」

(仕事で疲れたって言ってるよね!?)
わたしは込み上げてくるげっそりとした気持ちを押し殺してはキッチンに立つ。
最近買い物も行ってなかったし、冷蔵庫の中はほとんど空。
どうしたらいいかも分からず、とりあえずご飯とみそ汁を机に並べた。
あと、卵を焼いた。
…あれ?何これ、朝ごはん?

「いただきます」

総悟は何も言わずにもぐもぐと口を動かした。
おいしいとかそういう問題以前に、大の男を目の前にして、(しかも好きな!!)
このメニューはないだろ…自分でもそう思うのだ。
食べ終わっては、総悟は言う。

「ごちそうさまでした、おいしかったですぜ」

くす、ときれいに微笑んで。
分かってる、分かってるんだ、(これはわたしを喜ばせようとしている!)
そんな魂胆は丸見えなのに、わたしの頬は素直に綻ぶんだ。


「あー疲れた疲れたー」

リビングでごろごろすれば総悟がわたしを足蹴にして、

「何してんでィ、邪魔くせェ」
「疲れたの!ちょっと!何足蹴にしてんの!行儀悪いっ」
「ごろごろしてるアンタの方が問題あると思いやす」

しれっと言う総悟が持ってるそれは…。

「あー!わたしのプリン!!」
「いただいてやす」
「いただいてやす、って何涼しい顔して言ってくれちゃってんの!これ食べるの楽しみにしてたのに〜!」
「あ、これ旨いですぜ」

(そんな報告要らんわ!)
キィ!と怒ると総悟は素知らぬ振りでプリンを食し続ける。
(もー何でかな、)
こういうところ、本当ムカつくのに、総悟を嫌いになれない、むしろ大好きな自分がいる。
むっすりとしては目を閉じる、すると総悟の声が降ってくる。

「んな顔しなさんな、一口やるよ」
「一口って、それわたしの…」

言い返そうとした口を塞がれる、ぽかんと弛緩した唇からどろりと何かが流れ込んできた。
(プリン…!)
一緒に入りこんでくる、これは、

「…ッ、ん…」

くちゅ、と水音を響かせてはわたしの口内を総悟の舌が行き来する。
(ちょ、ちょ…ちょっと!)
わたしは慌てて総悟の腕を引っ張る、ギブ!ギブ!

「おいしかったですかィ?プリン」

にっこりと微笑んではまたプリンを頬張る総悟、わたしはぽかんとしたままその背を見つめる。
総悟は基本的に悪戯好きなのだ、意地悪だ。
素直にわたしの言うことは聞いてくれないし、大体する事が乱暴だし。
さっきのキスだって…それを思い出しては恥ずかしくなり、うつ伏せる。
疲れもあってか、すぐにまどろみは訪れた。

「オイ、、んな所で寝んな」
「んー…総悟ぉ…」

もう眠さの限界だ、一歩たりとも動けない。
寝るなというならベッドまで連れて行ってほしい。
差し出す両手をぐいと引かれ、目を開けると総悟がわたしをお姫様抱っこしていた。

「総悟、大好き」
「寝ぼけてんじゃねェよ、バカ

どさりと乱暴にベッドに放り出された。

「ちょ、もっと優しくできないの!?」

飛び起きるも、眠さが勝ってか、ぼすんとベッドに崩れ落ちる。
(あーねむい…)
布団にくるまると太陽のにおいがした。
(あれ、しばらく布団、…干してなかったはずだけど)
ふかふかの布団に、さらに眠気は加速する。
心なしか、部屋もきれいだった気がする。
あぁ、あのプリンだって、元は総悟が買ってきてくれたんだっけ。
でももういいや、だって眠いもん。
目をつむる、意識はだんだんと沈んでいく。
そ、と体を抱き寄せられる感触。






「…好きですぜ、俺も」


(わたしも大好き、)






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なんだかんだで、総悟も彼女の事が大好き。
そんなの口が裂けても素直に言えないけどもね。