あーねみぃ、総悟はあくびを一つこぼした。
すでに空は濃紺に染まっていて、町の方からおいしそうな匂いが漂ってくる。
今日は夏祭りで、面倒ながらも総悟はそこへ行くことを了承した。

「お祭り!!行こう!!」

何がそんなに珍しいんだか、アンタ生まれも育ちもここだろィ。
あんな人ごみに行って何が楽しいんですかィ。
総悟が呆れて返すと、「うるさいなぁ!暇でしょ?行こっ!」おい、何で暇って決めつけた。
暇じゃねぇよ、祭りの日は警備とか見回りとか真選組総出で仕事だっつーのに。
とか何とか言っては、結局付き合わされるのである。


「総悟!お待たせ!」
「おっせェ、バカ。俺をジジイにする気ですかィ」
「そんなに待たせてないでしょ、バカソーゴ!」

ばし、と後頭部を叩かれる。
何で俺が殴られなきゃいけねェんでィ。総悟は不服そうにを見やる。
明るい向日葵のような色をした浴衣に、髪を結いあげて、これまた夏らしい花の髪飾りをつけている。
かわいいとは絶対言ってやんねェ、そう心に誓う。せめてもの仕返しだ。

「ちゃんと浴衣着てきたんだね!」

頬に染めては嬉しげに笑むを見て、仕返しする気が薄れる。

「着てこねェとアンタがうるせェからな」

着てきてもうるせェけど、と言うともう一発飛んできた。
やっぱり前言撤回、仕返しを続行する。
総悟の濃藍の浴衣はによって選ばれたものだ。
「ほっとくとまたSなんて書いたもの選ぶんだから!」そりゃ作者のセンスでさァ、アンタ俺を何だと思ってんでィ。
濃紺の帯に差し込んだうちわに手を伸ばし、あおぐ。

「あ、総悟あたしもー!」
「アンタはダッシュでもして風に当たってきなせェ」

そう言っては歩き出す。
町は提灯の明かりに照らし出され、にぎわいを見せていた。

「ねぇねぇ、いちご飴食べたい!食べよ!」

総悟の返答を待たずして出店に駆け寄る。

「どれが良いと思う・・・?」

真面目な顔して何を言うかと思えばそんな事ですかィ。
どれでも一緒だろィ、そんなことを言っては視線を雑踏へと向けた。
一人の男のガキが人ごみを縫うように歩いてくる。
なんとなく、迷子か、と思った。

「これにしよ!って、あれ、総悟?」
「あー、旨そうじゃねェかィ、」

いちご飴肩手に覗きこまれ、我にかえった。目の前の間抜けヅラに悪戯心が疼く。
ぱくり、と一つ目を食ってやる。

「ちょ、あー!!」

声でけェよ、バカ。もぐもぐと口を動かしては、総悟はしてやったりな顔を向ける。

「あっめェ」
「だったら食べないでよ!!」

残り一つになった串を片手にが頬を膨らませた。
ぺろり、と口の周りについた飴を舐める、視線を感じては、

「何見てやがんでィ、バカ
「べっ、べつに見てないもん!総悟なんか!!」
「あーはいはい、今度から目隠しでもしてなせェ」

アンタの嘘はすぐ分かるんですぜ、総悟は肩をすくめて、再び歩き出す。
さっき向こうから歩いてきた男の子が、目の前まで来ていて、そして、ずべん、と転んだ。
案の定大きな泣き声が上がる。

「あっ、大変!!大丈夫?!ボク、大丈夫かな〜?」

が慌てて駆け寄る、やいやいと話しかけては泣いていた子供が徐々に大人しくなる。
まったく、子供が子供の相手してんじゃねェや。
総悟はの後ろから歩み寄ってはその様子を見下ろした。

「この子迷子なんだってー、どうしよう?」

そう言って見上げられる。
どうしようっつったって、総悟はジィ、と男の子を見下ろした。
えぐ、としゃくりあげては鼻水を垂らした。

「オイ、ガキ、男ならんなことで泣くんじゃねェやィ」

しょうがねェな、と抱き上げてはを置いて歩き出した。

「ちょっと、待ってよ!総悟!」

どうやらいちご飴は男の子にあげたらしい。
あやすように話かけて、泣きやむのを見届ける。

「ボウズ、俺の服に鼻水やら何やら付けやがったら承知しやせんぜ」
「もーまたそういう事言って!怖がるでしょ?」

「そんなことないよー?べっとべとにしても大丈夫だからねー?」とは笑いかける。

「それじゃァ、このおばさんに責任とってもらいやす」

しれっと言うと「誰がおばさんよ!」とツッコミが入る。
ツッコミの場所そこでいいんですかィ。
がじがじといちご飴をかじる男の子が、少し笑った。
しばらく歩くと真選組の詰め所がある。誰かしらはそこに居るはずだ。
テントに入ると、案の定山崎がイカ焼き片手にミントンラケットを振っていた。

「何遊んでんでィ、ザキ」
「あ、沖田隊長!と、彼女さん」
「どーも!」

が挨拶を返す。

「それと・・・あれ、その子どうしたんですか?まさか隊長のこど・・・ふ、副長ォオオオオ!!!」
「オイ、俺ァアホと会話する気ねェんですが」
「あ、なんだ・・・迷子か何かですか?」
「普通そっちだろィ、あと頼みやした」

そう言っては男の子を椅子に下ろす。
きょとんと見上げられて、が心配そうに言った。

「あたしたちも探してあげようよ」
「んなこと言っても、探しようがねェだろィ。こいつの親もいなくなったとわかりゃここ来るだろうしな」

ぽす、と男の子頭を撫でる。

「あとはこの冴えない奴に任せなせェ」

踵を返して出ていく、後ろから「お姉ちゃんいちごありがとう!」と聞こえてきて、が笑って手を振ったのが分かった。

「ねーねー総悟、子供可愛かったね!」
「そうですかィ?俺ァまだ子供をかわいがる余裕なんてありやせんぜ、子供はアンタ一人で十分でさ」
「ちょっと、それどういう意味よ!っていうか、こっちのセリフなんだから!!」
「・・・可愛がってやるのはアンタだけ、って事ですぜ」

そ、と囁くと耳まで真っ赤にしたが総悟を見上げた。


ちごみるくマーブル***

(そう、あまいあまいいちご飴のような)


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完全にリハビリである^^