バレンタイン連動企画。
【血静の孤城と紅嗤の少年】
何で奴はいつも学ランを着ているのだろう。
「ねェ、アンタどうしていつも学ランなの」
だから試しに訊いてみたんだ。
「は?」
だって気になるじゃない、うちの学校ブレザーなのに。
「あ、聴こえなかった?だから、何でいつも学ランなの」
一言も喋った事無いけど、廊下でばったり会ったから訊いてみたんだ。
「僕はいつでも好きなものを着る主義なんだ」
そう奴は言い放った。
ここは応接室の前、奴はノックもなしにそこへ入ろうとドアに手を掛けていた。
「へェ、自己主義の塊だね、アンタ」
素直に感じた事を言ってみたら。
案の定、奴の気に障ったらしくて。
「…煩いね、君誰」
む、として、そんな興味無い事を訊いてきた。
「、アンタは」
「僕の名前知らないの?」
どこのセレブ気取ってんだお前は。
「気になってたけど知らない」
「雲雀」
「ひばり?」
「雲雀恭弥だよ、何なの、君」
不機嫌そうに眉を寄せて、奴は溜息まで吐き出した。
「何ってさっき名乗ったじゃない」
「僕が知りたいのはそんな事じゃない」
「…知ったことか。ひばりねぇ、可愛い名前」
「…ばかにしてる?」
してないってば、何でそう短気なのかな。
「だから!ただ質問しにきただけだよ、わたしは」
「…本能に忠実なんだね」
「…なんでそうなるのか分からないんだけど、とにかく有難う」
「褒めてない」
ぴしゃりと言われて睨まれた。
「あぁ、そうですかー」
大袈裟に言ってみせ、溜息をついてみる。
「で、質問に答えてよ」
意外にも奴はわたしの相手をしぶとくしてくれてる。
「答えたじゃない、訊いてなかったの」
気付いたけど、奴は疑問系で会話しない。
相手の事なんて御構い無しってか?
「…で、用は済んだ」
「釈然としない」
今後大袈裟に溜息をついたのは奴。
奴が額に手をやると、さぁっと紅い線が走った。
「…血」
呆然とわたしは奴を覗き込んだ。
「…あぁ、さっきのだね」
ごしごしと、奴は手をズボンにこすり付ける。
「案外粗野なんだね」
言いつつわたしはハンカチで奴の顔に付いた血を拭う。
「…何してるの」
「何って、拭いてやってんだろ」
さらりと言い放つ。
「余計なお世話だよ」
むすりと言うが、拒まない辺り何を考えているのか分からない。
「不満?」
「何が」
「こうしていられること」
「…興味ない」
何でそんな回答に繋がるのか。
わたしはただ、興味を持った。
奴の心を覗いてみたいと思った。
「ねぇ」
「まだ何かあるわけ」
「今日何の日か知ってる?」
「2月14日、バレンタインデーでしょ」
「何だ知ってんじゃ「興味ないけどね」
取り付く島も無い。
わたしのこの好奇心をどうしてくれるのか。
しょうがない、今日はこれで諦めるしかなさそうだ。
ゴソゴソとポケットをさぐり、たった一つの一口チョコを汚れたハンカチに包む。
「やるよ、お近づきのしるし」
「…いらないんだけど」
拒まれた。
だけどわたしはめげないで、奴の右手にハンカチごと押し込む。
何だかんだ言って、奴はわたしとの会話を続けてくれた。
案外優しい奴なのかなって思った。
「あぁ」
「まだあるの」
半分開けかけたドアの方を向きわたしに背をむけたままで。
「分かったよ、ひばりが学ランな訳」
「…そう」
訊こうともしない。
優しくて強くて、恐くて、だけどきっと弱いと思ってしまうのは。
「 学 ラ ン の 黒 の ほ う が 、 血 、 目 立 た な い も ん な 」
ぴくりと動いた腕が可笑しくて。
「ばかじゃないの」
そう否定するとは思ったけど。
「教えてくれないからそういう風にしておく」
「勝手にすれば」
言い捨てて応接室のドアをぴしゃりと閉める。
「 ね ぇ 、 ひ ば り 。
わ た し も っ と ア ン タ に 近 づ き た い 」
「勝手にすれば」
聴こえないようにとつむいだ言葉に、
ドアの向こう、返ってきた言葉や声が嬉しくて。
a Happy Valentine’s Day
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おい、やっと二作目かよ、みたいな(痛)
ほんま遅くなってしまってすみません…。
黒に溶けた紅の上で静かに嗤う少年。
戌年如月 蒼天。 泉。