バレンタイン連動企画。
【そうまるで雪のように妖艶で甘美な】
「さむっ!」
わたしは腕を組みつつ寒さに耐える。
既に立春を遠に過ぎた頃。
時は戌の刻。
屯所中寝静まっている時間。
「屋根にでも上ろうかな〜?」
縁側に出て、夜空を見上げる。
「こないな時間に、誰やと思うたら」
ひょっこりと上から覗き込まれた。
「ひぃッ!!」
「ひぃて、何やねん」
「す、烝!だ、だってだって!」
「そない大声出すな、響く」
しぃっと口元に人差し指を寄せ、烝は言った。
てか、驚かない方が無理な話でしょうが。
「わ、ごめんごめん」
一応口元を手で覆ってみる。
「遅いわ、阿呆」
言いつつ、烝は手を伸ばした。
「何しとんねん、上るんやろ?引き上げたる」
わたしが嬉しそうに笑んだのが分かったのだろうか。
「…早うせい、引き上げたらんで?」
笑みの意味が分かっているのか否か、逸らした視線が何と無く可愛くて。
わたしはハイハイと手を握って、地を蹴った。
「う、わー…」
見上げた空は星が満天。
「、座っとらんと危ないで」
「…ちょっと烝さん?わたしを誰だと思っているのかね?」
ふふん、と手を腰にやりわたしはふんぞり返る。
「言いたいことはよぉ分かったから、座り」
呆れたように烝は溜息を吐いた。
吐き出された白い息が、紛れて消える。
「はぁい」
言われたように立つのを止める。
「だからって何で寝転がるん」
横目で見つつ、烝はまた眉を寄せた。
「もう、ススムンは文句が多いな!」
「…そないな格好して、俺に襲われたかて文句言えへんで」
さらりとそんな事を言ってしまう。
「あんた変わったね…」
遠い目しながら、わたしは身を起こす。
襲われちゃたまらない、わたしの方が我慢できないぐらいだ。
「起き上がるんか、残念やな」
ここでもまた悪態を付く。
でも前よりは、好きになれる感じだとわたしは思う。
「本当良い天気だねぇ」
夜空を見上げる。
「雪、もう降らないのかな」
「…は?」
「雪」
「降ってほしいん?」
「別にそう言うわけじゃないけど…今降ったら良いのになって」
「…寒いやん」
またこいつは雰囲気の無いことを言う。
「仕事も滞るしな」
欠伸を一つ。
「…そう言えばお前も任務終えたばかりか?」
「うん、そー。今回は骨が折れたわー」
苦笑。
わたしと烝は同じ監察方に配属されている忍。
「 ・ ・ ・ お 疲 れ 」
頭をポンポンと撫でてくれる。
何だかくすぐったくて、温かくて、ほっとする。
「ガキ扱いしないでよ」
「ガキやん」
くすくすと薄く笑う。
あぁ、笑顔だ。
爆笑することは滅多に、と言うか皆無と言って良いほど無い。
だけど、こうして薄くでも笑ってくれると嬉しい。
「失礼なー、烝だって同じ年じゃない!」
「俺は何年も前に思春期終えてんねん」
「何ソレ!!??」
こうやって冗談を言うのも、きっとわたしの前だけだと思う。
それが妙に嬉しくて、やっぱり笑ってしまう。
「何笑おてるん」
「…別に」
「ふぅん」
「いやね、嬉しいなって思ってさ!」
「何や、言うんかいな。…嬉しい?」
「そ!嬉しい」
へらりと笑う。
その仕草に烝は肩をすくめた。
「よぉ分からん」
「…そう?わたし烝の笑顔見れるの嬉しいよ」
「…は?」
盛大に間の抜けた声を出して、烝は怪訝な顔をした。
「だからね?わたしは烝の―…‥「ちょお待ち」
口元を手で覆われてわたしはぎょっとした。
「なに?」
「雪」
「うそ…」
わたしは空へと視線をやった。
ひらりひらりと小さな白い欠片が空から降ってくる。
「…ほんとう…だ!?」
視界に舞い込んできたのは白い欠片じゃなく、烝の顔。
「…っん!?」
一瞬、口付けされたのか、何をされたのか分からなかった。
触れるだけのそれが去ると、わたしの頭は必死に処理を開始した。
真っ白の脳が働きだす。
「な、に、して!?」
「…違った」
「は!?」
わたしの問いかけには答えず、烝は手を空へ伸ばす。
「…花びらやった」
烝の手に舞い降りた白い欠片は、溶けることなくそこに在り続けている。
「ちょ、それどころじゃなくて!」
「白梅か」
どこから舞ってきたんやろな、と烝はわたしに背を向けて寝転ぶ。
心なしか耳が赤いような気がする。
「…烝くん?」
「…」
「…そんな格好してると、わたしに襲われても文句言えないわよ」
「うっさい」
小さな返答が聴こえて、わたしは笑った。
誤魔化されたことはまた次の機会に問い詰めるとしよう。
白いゆきか、はなびらか、それともほしなのか。
それよりも確かで、甘く温かいもの。
「ま、嬉しかったけどね」
a Happy Birth Day
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え、烝さんってこんなんだっけ(ぁ)
触れたものが確かだとして、でも本当はあなたの言葉を聴きたいよ。
戌年如月 蒼天。 泉。
ハッピーバースディ、ソラ。