わたしは猫である。
とりあえずニャーンと鳴いておくけれども、ちゃんとニンゲンの言葉も分かるわけで。
返事をする気もあるのである。

わたしは猫である。
名前は―・・・・・






にゃん、

名前を呼ばれるときは、「いただきます」か「いってきます」のとき。
そしてわたしの名前を呼ぶのは、この主ただひとり。

「飯、」

そう言われて皿を見下ろす。
(魚や…!!!!)


にゃーん。
(ご主人、せめて焼いてください!)


「…猫つったら魚だろ」

こくこくと納得しては、ご主人は脱ぎ捨てられた羽織をたたむ。
几帳面にも皺一つないそれを、わたしの視線から届かぬところへしまった。
あれは大層肌、いや、肉球触りがよくて、あの上で寝たら最高だろうに。
あの十の文字の上で寝てやりたい。
ふにふにと魚のにおいを嗅ぐ。
間違いなく生臭さの漂う獲物を目の前に、わたしは尻込みするわけで。
この魚の生臭さがどうも好きになれない。
焼いてほしい、頼むから。

はむ。

でも食べる。
ご主人に焼く技術があるかどうかと言われれば困るからだ。
ご主人は困らせない。
だから食べる。

むしゃむしゃ。

「散らかすなよ、」

困ったように眉を寄せて、ご主人は笑う。
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか、(手は使えんのだよ)

もしゃもしゃ。



かたりと置かれた牛乳。
ご主人の手にも同じ牛乳。

「何見てんだ」

照れ臭げに笑っては、わたしの頭を撫でる。
荒っぽいが優しい撫で方。

んにゃぁ。

「…飲め、でかくなんねーぞ」

ごくりと牛乳を飲み干すご主人。
それを見上げながら、思うのです。

(ご主人、これ以上大きくならないでほしいなぁ)













主人の思い、飼い猫知らず。

















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冬獅郎に飼われたいわけです。