んみゃぁ。


「何だ、

ご主人の足に体を巻きつけて、甘える。
いつも一日の内で最も耐え難い瞬間があるのです。
(行かないで)
にゃぁにゃぁとご主人の足に甘えては、困らせる時間。
袴に毛がつくから嫌な顔をするご主人は、それでもわたしを追い払おうとはしません。

「…、」

しょうがない奴だな、とご主人はわたしの頭をわしわしと撫でます。
ジィ、とその顔を見上げるのです。
ご主人のまん丸な目がわたしを見下ろしています。

「何見てんだ、そんなに見たって俺は仕事行くぜ?」

そうしてまた、ふにふにとひげの辺りを撫でながら、困ったようにはにかみ笑うのです。
(可愛いよ、ご主人!)
猫は猫でも、わたし萌えることができます。
ご主人の笑顔はたまらんのです。
でもでも、この耐え難い別れの瞬間。
毎朝毎朝訪れるこの瞬間が嫌いなのです。
いやいや、行かないで。
すりすりと足元に擦り寄ります。

「…袴に毛つけんな、…、………めっ!」

めっ、て、ご主人。
まじめな顔して、「めっ!」って。
きょとりとするわたしを尻目に、そ知らぬふりでご主人は羽織を羽織ります。
背中を向けられてしまいました。
わたし悪いことをしたようです。
叱られてしまいました。

みゃあ。

(大人しくするから、行かないで!)
さみしい、ひとり、寂しい、いやー!
擦り寄り地獄から開放してあげるからー!

にゃぁにゃぁ、

「お前は本当に寂しがり屋だな、、」

ぽんぽんと、宥めるようにわたしの頭を撫でるご主人。
顔には諦めが見て取れます。
でもご主人は仕事に行かねばなりません。
(ご主人が困ってる)
しょうがなく、わたしは黙ります。
涙を飲んでご主人を見送るのです。




「行ってくる、…いいこにしてろよ」




そう言い残しては、わたしに小さく笑いかけます。

んみゃぁ、

(いってらっしゃい!)
ご主人が帰ってくるまでこのお部屋の留守はわたしが預かります!





だから必ず、必ず、帰ってきてね。





遠ざかる十の文字。
締められた戸の向こう、ご主人の足音が聞こえなくなるまで見つめるのでした。














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切ないよねー、待ってるだけって。
何か駄!!な文章で申し訳ない。