【PEACE MAKER】   〜異邦人〜




さっきからずっと視線を感じる。


感じる、と言うか確信犯なんやけど。


さっきからずっと俺の事見てる奴がおる。


何なんや、一体?


見られてるだけって、かなりイラつく。



「何か用か?」

痺れを切らして、俺は監視者へ声をかけた。

ここは屯所内、怪しい者では無い事は確か。

「あ、こんにちわ!」

普通見ていた相手が自分に話しかけたら慌てるよなぁ…。

そんな素振りは微塵も無い彼女に、俺は一瞬引いた。

「新しく賄いの方に配属されたです!!」

ペコリ、大きな動作で彼女はお辞儀をすると満面の笑みを俺に向けた。


何やねん、こいつ。


あぁ、そう言えば。

副長から言われてたんや。

新しい賄い方のと言う女、未来から来たらしいがまだ間者の疑いが晴れない。

さり気無く監視しておいてくれ、との事だった。


…未来から来た?


えらい変わり者、拾ったもんやな。土方副長も。


「山崎くんだよね?」


相変わらず明るい笑顔を俺に手向け続けながら、奴は呼んだ。

名乗った覚えは無い。

沖田さんか、三バカ辺り(失礼か)が教えたのだろう。

初対面の相手が俺にこんな笑顔を手向ける事は、無い。

こいつが初めてや。

調子が、狂う。


「そうやけど」

「…関西弁?」

「関西弁?」

何やそれ。

俺の怪訝な声に気付いたのか、「あぁ」と奴は言い。

「訛り」

「…俺はその辺出身やから」

「その辺って…忍者なんだって?」

興味津々に訊いてくる。


鬱陶しい。


元々俺はこういうタイプ…市村みたいなタイプは好きやない。


「…」

「あたし、。あなた名前は?」

知ってるくせに、奴は俺に名乗らせる。

「山崎烝」

「よろしくね、烝」




ッ!!??




言い様に奴は俺に抱きついてきやがった!!


「な、な、何す…!?」


不覚、油断した!!


奴は俺から一端離れると、またにこりと笑んだ。


「あたしのいる時代ではこんな事普通だよ?」




どんな時代や、それは!!!!




「…驚いた?」

「当たり前やろ」

サラリと答えるが、内心無茶苦茶焦ってる。

「つまんないなー、ここの屯所の中であたしが抱き付いて驚いたのは市村兄弟ぐらいだもん」


いや、せやから。


驚いてるって。


「烝は顔色1つ変えないんだから」

むーっと頬を膨らませ、奴は拗ねた様に言う。

「沖田さんも永倉さんも、平助くんも原田さんも…笑って返すばかり」

つまんないよね、と奴は俺に言いかける。


確かにその情景が妙に現実的で納得した。


「それじゃぁ、またねっ!」

言って奴は廊下の奥に消えた。


その夜に久方ぶりにまともな飯が出た。


あいつか…。


変な女やけど、料理はできるんやな。


俺は椀を手にしたまま唸った。


変な女。


それが俺の奴に対する第一印象だった。



それから数週間経って。

「すっすむ〜」


がばッ!!


あれからというもの、は常に俺にまとわりついてきた。

どうやら、これを“すきんしっぷ”と言うらしい。


「いちいちくっつくな!!鬱陶しい!!」

「えーひっどーい」

ケラケラと明瞭に笑いながら、は飽きもせず俺に付きまとう。


「ねー烝、烝も忍者なら『ござる』って語尾に付けて喋ってよ」



は?



「何訳分からん事言ってんねん」

「あたしの時代では、忍者は大体『〜でござる』って喋ってたよ?」





だからどんな時代や!!!!!




俺は心中で精一杯突っ込む。


「今時…と言うか昔もやろうけど、忍はそんな喋り方せぇへん」

「えー!つまんない!」

「つまるつまらんの問題やないやろ、そんな忍独特の喋り方してみぃ。

 町中でいっぺんにバレてしまうやないか…」

呆れついでに溜め息もご一緒にどうや?

俺は盛大な溜め息とともに言う。


「それもそうだよね、じゃぁ『ニンニン』とも言わないの?」





言うワケ無いやろ…。





「何や、『ニンニン』て。何の意味があんねん」

「やぁーね、烝。そんな物事にいちいち意味求めてちゃ先に進めないわよ?」



お前だけには言われとぉないわ!!



そう叫びたいが、それはそれで大人気無いし疲れるだけや。

そんな事を思ったら全然違う言葉が口を突いて出た。


「俺は先になんて進めんでもえぇねん」

「そぉ?あたしは先に進みたいけどねー。間違って後ろに戻ってきちゃったけど」

あっけらかんとは言った。


そう言えば、未来から来た、とか言ってなかったか?


「なぁ」

「何?」

「お前、本当に未来から来たんか?」

「…初めてだねー、烝があたしに質問するの。えへへっ、何か嬉しいや」

快活な笑いが消えた。

浮かぶのは困惑と焦燥の笑み。


間違えたんか?


俺は焦った。

いつでも浮かんでいた笑みを消してしまった。


「未来から来た、なんて、誰も信じてくれないしさ。もう皆、その事を忘れちゃったのかと思った」

「いや、忘れたくても忘れれへんから」

「そうなんだ、ごめん」

「何で」


謝るんや?

何で。

泣きそうになるんや?


の表情や口調にいちいち俺の心は掻き乱される。


「本当だよ?」


「せやったら、新撰組がこれからどうなるかとかも、知ってるんか?」

「…うん、あたし詳しいよ、新撰組ファンだったから」

「ふぁん?」

「大好きって事。だからここにこれて何だかんだ言って幸せ」


沈黙が落ちた。


「100年以上経っても、新撰組はみんなに愛されてる英雄だよ」


たとえ、世界や運命が彼等の敵に廻ったとしても。


そうは続ける。


暗い。


沈む。


こんなの。


やない。




「止め。もうええぇから」


俺は関を切ったように言い、の細い体を抱き寄せて包んだ。


「烝?」


面食らったようにが呼ぶ。

黙れや。

悲しい顔なんて、に似合わへんから。




て言うか、それ以前に。





こんな行動俺やない!!!!!





な、何してんねん、俺!!!







烝…烝!止めて………やっぱり止めないで!







どっちや…。







そうは思ったが、さすがにヤバイやろ。

俺は腕の力を緩める。




「っはー…鼻血出てないかな!!??」




息を長く吐くと、はいそいそと確認した。




何してんねん――――……




「そない確かめんでも、出てへんから…」


「本当!?良かったー♪」


表情コロコロ変わるやっちゃなぁ…。


苦手やと思ってたの笑顔に随分依存している。



「烝ってば何呆けてるの〜?」

「阿呆、お前やあるまいし」

「ひどーい」

いつもの笑みがに戻った。


「て言うかさ、お前って言うの止めない?」


突拍子も無く、は言った。


「何や、お前…名前で呼んで欲しいんか?」


俺は意地悪く笑んだ。


「…良いもん、べつに」


拗ねたように言う。



そんな姿を初めて愛しいと思った。


笑顔を守りたい。


「冗談や、


呼ぶと、嬉しそうに笑う。


その笑顔が欲しい。


「そうやって、笑ってればえぇねん」

「え?」


きょとんと、は呟く。


「烝、知ってる?あたしのいた時代では、そういうのを口説き文句っていうのよ?」




あぁ、それなら。




「この時代でもそれは一緒や」


「…何、あたしの事口説いてるの?」

冗談めいた言い方。

「そうかも知れんへんな」

サラリと即答してみせる。

それは分かりきった事やったけど。



「あたし、未来から来た、変な女だよ?」

「関係あらへん」


お前が何者やろうとも。


「あたし、1人ぼっちだよ」

「俺が一生一緒におったるから」


その笑顔を俺のものにしたいと思ったから。

ずっと傍にいて、守りたいと思ったから。



時を越えて。



その想いは変わらない物だと。




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はい…反省。
何か、忍って考えた時に『ハットリくん』を思い出したのでw笑。
相変わらず山崎さんの関西弁難しいわ。
分からない〜w↓。
こんなんですいませんw
11111ゲッター、智恵さまにささげます!
ちょっとシリアス(?)入ってしまいましたが、
明るくしてみたつもりです…↓。
ヘボ作ですが愛してやってくださいw
それでは、ありがとうございました!!