【PEACE MAKER】   〜カケオチ大作戦☆〜





俺たちはきっと、華の様に散っていくんだろうと。

それならせめて。

華の様に咲けたらと。

そう。



一瞬でも。




でも、姉上が死んだあの日から、俺の時間は止まったまま。



咲く事も枯れる事も知らない。


ただ、踏まれ摘まれる事を待つだけ。



だけど。






「あら、烝じゃない?」

呼ぶと、あいつは振り返った。

月の明るい夜。

俺たちが出会った日と同じ。


「何してんねん、お前」


初めて会った日、、とそう名乗った女はくの一らしかった。

その日から約半年。相変わらずなのは。

綺麗な顔に、透き通るような声。

観掛けは半端じゃないくらい、大人しそうな女。


「女が1人、こんな屋根の上で仕事のほかに何するってのよ」


…可愛くない。


「烝は?」

「俺も仕事」

「お互い大変よねぇ」

くすり、と綺麗に笑んでみせる。

そんな姿に俺は見惚れる。



観掛けだけは、認めるしかない。



「烝、今すごく失礼な事考えたでしょ」

「…別に」

「そう?」

なら良いけど、とは笑う。

「でも、今回は敵同士ね」

フとした瞬間に心臓が止まりそうな事をサラリと言った。

「な、に、言ってんねん、お前」

「冗談じゃないよ、大マジだから」

本当や。

あいつの目が、笑ってない。

シィン、と静まり返る。


月が明るすぎて、星が見えない。


涼しい風が肌を撫ぜる。


「あのさァ、烝ぅー」

「…何やねん、気色悪いな」

次から次へと。



「…あたし、結婚するんだよね」




あたしぃー、結婚するんだよねー☆






「は!?」






「うん」



な、何言うてんねん。



敵方になる、の方が笑えた冗談やった。


いつも突拍子も無いが、さすがにこれは心臓に悪い。


「結婚する…明後日」


笑えへんで?


「そ、うなんや」

思わず言葉に詰まる。


何を動揺しとるんや、俺は。


別に、どうって事無いやんか。


ただの同業やろ?


は。


ただの、同業者。


今度は敵の。


「あのさ、すす「悪い」


俺はそれ以上の言葉を聞きたくなくて、思わず声をかぶせた。


「俺、もう行くわ」


「ちょ…」

の咎めるような視線が背中に突き刺さった。


鼓動が速い。

江戸まで走って行った後みたいな。


何で。





あいつは敵方。



今度会ったら、殺さなければならないかもしれない。


それより…。



結婚って何やねん!!!




…きさん…ざきさん…山崎さん!

沖田さんの声で、俺は我に返った。

「珍しいですね、あなたがぼーっとするなんて…大丈夫ですか?」


しまった。

今は打ち合わせ中やったんや。

昨日俺が持ちかえった情報を報告した後の明朝の会議。


「…標的は確実に捕える。が、その周りのネズミが鬱陶しい」

土方副長の目が、一瞬光った気がした。



やばい。


俺の本能が訴える。


このままやと、間違い無くやばい事になる。


「山崎くんには、そのネズミの始末を」

「…はい」

承知しました、まで声は続かない。


ネズミとは恐らくの事。


「決行は、3日後の深夜。それじゃぁ会議はこれで終いだ」

副長がまだ、俺を見ている。



くそっ…。



何なんや…。



「山崎さん」

畳を見下ろしていると、沖田さんの声が耳に入る。

「はい」

「…どうかしたんですか?ずっとうわの空ですよ」

「すみません。大丈夫ですから」

すくっと立ちあがる。

「あ…やま「失礼します」

またも俺は他人の言葉を遮って部屋を出た。


明後日にはあいつは他の男の物になる。


そしてその後には、俺はあいつを殺さなければならない。


何やねん、この状況。


俺はがりがりと頭をかいた。

屯所内にいるのが煩わしくなって、街へ出た。


そしてそれを3秒で後悔した。


目の前には、とその隣に男。

がっしりした体格に柔らかな表情を持つ、自分とは正反対な男。


急に苦しくなる。


何で。


「…烝?」

呼ばれて俺は弾かれたように顔を上げた。

「あ…」

自分がマヌケに全身さらして突っ立っていた事に気づく。


阿呆か俺は!!


ぐっと拳を握る。


「ちょっと、どうしたの?」

、この方は?」

野太い声。

聞き慣れぬ、不快な声だ。

「あぁ、友人のい、市村くん…」

名前を正直に答える忍は居ない。

当然、もウソをつく。

それがむしょうにイライラした。

「市村?」

が呼び慣れぬ名を呼ぶ。

それを俺は黙って流す。

、行こう」

男がそう言う。





お前やない。


その綺麗な名を呼んで良いのは、お前やない。


行こうとするの腕を掴んだ。


「え…?」


何してんねん…俺…。


そこまできて、俺はやっと確信する。


俺は、が好きなんや。と。


厭なんや、俺は。


が誰かに笑いかけるんが、厭で厭で仕方が無いんや。

他の男が“”と呼ぶのも、厭で仕方が無い。


伝えたくても、伝える術を俺は知らない。


「何?」





なぁ、何で伝わらへんねん。


こんなに近くにいるのに。


くそ…。


の怪訝な表情が目に入る。







あぁ、もうややこしいねん!





「ッ!」


俺はの腕を取って、走りだした。


「ちょ、ちょっと烝!!??」


咎める声を背で跳ね返し、走る。

京の雑踏を駆け抜ける。


「ちょっと…烝ってば!」


が俺の手を振り払うのが判った。

そこでやっと俺は我に返る。

大した距離も走ってないのに、息が上がっている。


「あんた、何してくれちゃってんの?」


あからさまに怒ってるな。


けど、今の俺に返す言葉は見つからない。




何してんねや、俺…。




「黙ってないで、何とか言いなさいよ」

「…

「何よ」

「悪かった」

「今更。良いわ、許してあげる。理由を教えて…」

言い終わらない内に、俺はを抱きしめた。

「!?」

びくっとの体が強張る。


言葉では、言えんねん。


何て言って良いか、判らんねん。


だから。


「お雇い忍なんて、止め。俺の敵になんかまわるな。

 そないにやりたいんやったら、俺専任になったらえぇ」


これが俺の精一杯やから。


「それって、烝の物になれって事」


かなわんなぁ…

…恥ずかしいから、遠回しに言ったんやで?

直に聞き返されても困るわ…。

しかも、疑問系やないやん。

判っとるんなら、訊くな。


「黙は是ととるわ」

それは裏世界に置いての暗黙の了解。

「…分かった、今の仕事が終わったら、忍は止める」

は俺を押し返す。

再びとの間に距離。


「あかん!!」


それじゃ意味ないねん!!


何が不満なの、とは眉を寄せる。


「今、止め」

「はぁ?」

「今、止めろや」

「何言ってんの?烝も分かってるでしょ?忍が任務を放棄して良いのは、死ぬ時だけよ」

分かるでしょう?とは訊き返す。

それも、そうや。

もし今の仕事を中途半端で止めれば、依頼人から追われるのは間違い無い。

だったら。

「このまま、逃げろ」

「はぁ?」

は更に眉を寄せる。

「何無茶苦茶な事言ってんの?」



「せやったら、俺も一緒に行くから!」



分かってくれ。

頼むから。



「一緒に、京を出る」


「ば、かな事を…」

「冗談やない」

「狂ってんじゃないの?忍の信条は忠義よ」


ぴしゃり、とは言い張る。


「それ投げ打って行動して、何の取得があるって言うの?」


「…っ!」


だから。




「局への忠義よりも、お前が大事なんや!」




俺の口を割って出てきたのは、そんな気が利かない言葉。



ほら見ぃ…がポカンと間抜けた顔しとるやないか…。



「最低」


あぁ。


終わった。



「でも、最高」



俺は弾かれたように顔をあげる。



視界に入ったのは、の笑顔。



「愛してくれるなら、一番じゃなきゃね」



局よりも仕事よりも。と、満足そうには笑う。



「は…?」


俺の間抜けな声を無視して、が「はい」と手を出す。



「するんでしょう?カケオチ」





  カ  ケ  オ  チ  。





楽しそうに笑む。


頭の芯は痺れたまま、俺は手を取る。


「行きましょう」


何処へ?


一歩、ニ歩、と歩き出す。


「山崎さん…?どこへ行くんですか?」


麻痺していた頭が、働き出す。


「お、きたさん…」

町の外れに、隊服の沖田さんが立っていた。



「あ、沖田さん♪あたし達、今からカケオチするんです♪」



あ、阿呆!!!


何言うてんねん!!!!



カケオチ=局を脱する。


切腹やで!?


勿論、土方副長は敵方であるにも容赦はしないだろう。

やっぱり副長は気付いていたんだ。

だから、沖田さんに俺を見張らせていた…?

最低や。

監察方の名折れ。



「へーぇ…そうなんですか…では、覚悟の方はできていらっしゃいますね…?」


沖田さんの手が刀にかかる。


額に汗が伝う。

これは、何や。

冷や汗。

は守らないといけない。


ここで、沖田さんを。

倒さねば、ならない。






「なぁーんてね☆冗談ですよ、冗談ー☆」



あははー、と沖田さんは笑いこける。








ハ?








「悪い冗談ですよねー、沖田さん♪烝びびりまくってましたよー」













「水臭いじゃないですかぁー、お2人さんカケオチする仲だったんですか〜?」

「そうなの!!聞いてっ!沖田さん!!さっき、烝ってばね!やっと言ってくれたの〜」



…聞いてますか、姉上。


聞いていたら、どうか教えてください。



これはどう言う事ですか?




姉上…。



「や、山崎くん、悪かった」

「局長…?」


何で局長まで出てくんねん!?

今日は仕事じゃなかったんですか!?


「歳が、やろうと言うものだからな…?その、悪いとは思ったんだが」


つまり?


「山崎さんを一発騙してやろうかと★」


沖田さんが「大成功でした!」と笑う。


「騙してやるとは…言い方が悪いんだが…その、あれだ。

 中々煮え切らない君を心配してだね…」


つまり。


「あんな会議をして、命を出して…」


ちょっと待て。


「て言う事は」

定める様に俺は呟く。

「あたしもグルだよ?」



待てーーーー!!!!



「全ては、歳の企てだ…ちゃんは悪くないぞ」


放心している俺を見て、局長はオロオロと弁解する。


「そんな事言っちゃって〜、近藤さんもかなり楽しんでたくせにぃ〜」

「そ、総司!」


全部、ウソって事か。


俺はやっと理解した。


本日二回目の思考麻痺。


「や、山崎くん?」  「山崎さん?」  「烝〜?」


まちまちに呼ぶ声。


なんや…そうか。



俺は、を殺んでえぇ。



なんや…。


俺は本気で、焦ったし、恐れた。


けど。


それは必要の無い事だった。


安心した。


それだけだ。


「良かった…」


俺は気無しに呟いた。

不意に全身の力が抜ける。




「…す、烝が笑った!!!!!烝が微笑んだよ、近藤さん!沖田さん!!」






「本当だー」


な、に、言って…。


俺、笑ってたか!!??


「きゃー!今度は赤くなってる!!照れてる照れてる〜」


「う、うっさい!!」




「じゃぁ私たちは戻りますね〜」


そう言って沖田さんと局長は去って行く…。


こないな事に付き合うなんて、お二人とも暇なんやなぁ…。


「俺だけ騙されとったんやな…」

「そうそう♪」

「そうそう、やない!!俺は本気で…本気で」

「うん、そうね」

でも、とは続ける。

「あたしは嬉しかったわ」

「さよか」

はぁ〜、と自然に溜め息がついて出た。

でも、何やろう。

この幸福感は。


と俺は手を繋いで来た方を戻る。





「じゃぁ何か?結婚も、ウソか?」

「え?あれは本当よ?」

「は!?」


その言葉と同時に、視界にあの男(結婚相手)が入る。

!やっと見つけた!!さ、怖かったろう!一緒に帰ろう」

場違いな言い分に、俺たちは笑ってしまった。


!?」

「ごめんなさい、あなたとは一緒に帰れない」

「何を言ってるんだ!?」



「あたし、この人と一緒になるの」



一瞬、誰の事を言っているのか分からんかった。



「な、何でそんな!?」

「あなたより100倍かっこよくて、頭良くて、素敵なんだから」

「なんッ!」


「それ以上下らない事を言ってみなさい…今度はあたしがあなたの口を糸で縫ってあげるわ」


冷ややかな笑顔では言ってのける。


男は何か言いたそうだったが、踵を返して走り去って行った。


「自慢じゃないけど、御裁縫は大得意よ」


にこり、と今度は温かい笑みを浮かべる


さすが忍…。


呆けている俺をは見上げる。


「さっき言った事は本当よ。あたしはあなたと一緒に生きたい」


「俺も。お前を大切に思てる」


「あなたしか、愛さない」


は繋いだ手を胸まで上げて、俺の目を、いや、その更に奥を見据えて言った。



「誓うわ」



「俺も、誓う。だけや」



にこり、と俺の好きな笑顔でが笑う。








誓うよ、永久に。






姉上、俺、もう少し歩いていける気がするよ。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

題名のワリに分かり難く、そして無駄に長い…。
すいませ〜ん↓↓↓。
ナギちゃんカウンタ、7777HIT!!
キリ番ゲッター正村さまに捧げます!
要らないでしょうが、貰ってくださいw
愛はバッチリ詰まってますのでw笑。