【BLEACH】
「生まれた日のことを覚えてるか?」
「…そんなの覚えてるわけないじゃん」
寝てばかりいては気が塞ぐだろうと、お見舞いに行けばこれだ。
冬獅郎はいつも休むことを知らない。
目を離せば十番隊舎へ舞い戻って、仕事をする。
こうしてわたしが“見張っていないと”
「ところで、お前仕事は」
「有休です」
きらりと嘘らしい嘘を吐き出す。
どうせわたしのことも心配しだすんでしょう。
自分が抜けている十番隊も心配で、乱菊さんも心配で、わたしのことも心配で、雛森副隊長のことも心配。
この人が心配をせずに、心を休める時などあるのだろうか?
「心配、かけてるみてぇだな」
「…は?」
彼は小さな溜息をついて、包帯の巻かれた細い腕をわたしの頬へ寄せた。
「顔色が悪いぜ、ちゃんと寝てんのかよ?」
「…いやいや、寝てるし。確実冬獅郎より寝てるから」
「あ?俺は日の半分以上は寝てるぜ」
「やっぱりわたしのほうが寝てるね!」
「…それは仕事中も寝てるって言いてーのか?」
ぷ、と笑ってわたしの頬を軽く抓る。
(あぁ、やっぱりわたしはこの人の笑顔がすきなんだ)
そう思ったらへらりと頬が緩んだ。
「お前、俺の誕生日、覚えてるか?」
「…え、うん、もちろん」
「前、俺の誕生日に…藍染と雛森と松本が祝ってくれたことがあったんだ」
“藍染”、今回の騒動の首謀者であり、冬獅郎を傷付けた張本人。
もうその名前は善良で優しい五番隊隊長ではなく、悪の枢軸として知れ渡っていた。
「自分の生まれた日なんて誰も覚えてやしない、信頼する人が伝えてくれた日を信じるしかない」
「それで?」
「そういう人が、祝ってくれる人が、いるだけで幸せなことだと、藍染が言っていた」
もっともなことだと、思った。
藍染…隊長、が言ったとなれば、尚更に。…以前ならば、そう。
ぎしりと、ベッドが鳴いた。
「…冬獅郎?」
「お前はどう思う?」
不意に近づいた距離に、わたしは驚きを見せはしない。
「だったら、もし、冬獅郎がその言葉を信じるなら、わたしはいつだって冬獅郎の傍にいて、
何歳になっても、数え切れないほど年をとっても、その日その場所にいたいと思うよ」
それで信じ続けることができるなら。
あわく、はかない、だけど鮮明な、花火のような一瞬の思い出を。
「守るよ、必ず」
じ、と冬獅郎の目を見返す。
わたしの言葉に面食らったのか、彼は身を引いて、ベッドに体を預けた。
肩が小刻みに震えているのは笑っているからだろうか。
「ちょ、え、何笑ってんの」
「お前が俺を?…逆だろ、普通」
「…冬獅郎こそ何言ってんの、ボロボロじゃない」
細い腕を取って、両手で包み込む。
じんわりと、温かみが伝わって何だか泣けてきた。
「…心配、かけて悪ィ」
「いいのよ、べつに。わたしは冬獅郎の心配しかしてないもの。でも、あなたは違うでしょ?」
「あ?」
「…あなたは真面目すぎるのよ、自分のこと、もう少し考えてくれないと…」
その背に背負うものは身の丈に合わぬモノ。
「…俺だって守るぜ」
「………あなたが守るべきなのは、わたしじゃなくてわたしとの約束」
「何でだよ」
「自分の身も守れない人に、背中は任せられないわ。自分を守るという約束を守れたら、
わたしを守らせてあげる」
きゅっと手を握る。
そこから小指を絡ませる。
「約束です」
「………断る」
「…なんで!!!」
「約束は守ってやる、だがな、俺はお前も守るぜ…」
にやりと彼は口の端を上げた。
あぁ。
絡ませた小指だけで、満足できる。
あわく、はかない、だけど鮮明な一瞬の花火のような約束。
消えゆく運命でも、構わない。
******
あっれ、意味不明だ。
企画サイト「36℃」の1.冬の花火。
冬は冬獅郎、花火は誓いという約束。
そういえば、このお話で冬獅郎さんめっちゃ喋ってる。(笑)