お前の夢の中まで。 「はぁっ はっ あ、」 彼女の上下する肩を冬獅郎は強く抱いた。 こんなにも愛しい存在、初めてだった。 「と、しろ…?」 「…何だよ」 「…別に」 ふふっと彼女は微笑う。 何が不安なのか分からない、安堵とともにある不安。 彼女がこの腕からすり抜けていくのではないかと言う、漠然としたそれ。 「なァ、」 「ンー…?なァに、と」 彼女、が言い終わる前に冬獅郎はその口を塞ぐ。 「…っ…ん、は、ぁ」 そうして、二ィと笑ってやる。 その顔に不服そうに頬を膨らます、。 「なに」 「…別に」 今度はくつくつと冬獅郎が笑う。 堂々巡りする会話、それすら厭わなくなった。 こんなにも、彼女が愛しい。 「寝るっ」 「おーおー寝ろ、おやすみ、」 ポンポンとなだめるように頭をなでる。 それさえ不服と感じたのか、は背を向けてしまった。 「…」 背を向けても、しっかりと冬獅郎の手を握る。 それがとても愛しくて、幸福で、冬獅郎は頬を綻ばす。 そうして、冬獅郎もその手を握り返す。 離れないように、悲しまないように。 (おやすみ) 「…ぅ…ん、やぁ、!」 何事か、と冬獅郎は飛び起きた。 くんっと腕を引っ張られる感触、が未だに手を握っている。 「…?」 そっと呼んでみる。 それに応える声は無い。 「…やだっ、やめ…と、しろ…!」 「……寝言か?」 最大限に眉根を寄せる冬獅郎。 今までこんなこと無かった、寝ているときは大抵静かなのだが。 「…ぁっ、ちょ、や、だぁ…」 「…ったく、何の夢見てやがんだ、こいつっ…」 「…ひゃ、…ぁっあん…」 頭を抱える冬獅郎を尻目に、は寝返りを打つ。 (…他の奴に聴かれたらどうすんだ) 悩ましげな、艶っぽく色っぽい声音。 切なげに歪む、寝顔。 「…ぁっ………い、ち、ま…たい、ちょ…」 「…はぁ!?」 ガタっと、身を捩った。 思わず声が出た、口を抑えるが時既に遅し。 「…ぅん…?」 その瞬間にが目を覚ます。 (何なんだよ、市丸!?) おいこらちょっと、これはどういうお話ですか? あんな声出しといて、最後市丸って何ですか。 冬獅郎の脳内で壊れた何かが疑問を繰り返す。 ぐるぐるぐるぐると疑念だけが渦巻く。 「どうしたの、冬獅郎?」 眠気眼では小首をかしげた。 きゅ、と手が握り返される。 「…お前…」 「ン?」 「…いや…今、何の夢見てたか覚えてるか?」 きょとんとするに、冬獅郎は深刻そうに訊ねる。 これは由々しき事態なのだ、どういうわけか解釈しなければモヤモヤは消えない。 たかが夢、されど夢、だ。 「へ…?覚えてないけど…でも何と無くなら…」 それがどうかした?と逆に訊ねられる。 「いや、何でも…」 「無くはないでしょう?どうしたの?わたし何か…」 「何でもねえって!」 びくっとの肩が揺れた。 これは不安?嫉妬? (しかも何で市丸!?) 「冬獅郎?」 ゆらゆらと不安げに揺れる眸。 (しまった) 冬獅郎はがしがしと頭をかく。 「…悪い…けど、お前…」 「ん?」 「…市丸と、何か…」 「市丸隊長?がどうかしたの?」 三番隊所属の死神であるの直属の上司、市丸。 あの喰えない男が、に何をした。 ただでさえは男ウケする上に、勤務中となれば冬獅郎の目は届かない。 不安になるのも当然だ。 お互いがお互いを愛しいと思っていることは事実なのだが。 「いや、…いい」 「…?変なの」 苦笑していたの表情が変わる。 「思い出した!」 「は?」 「夢よ、夢!…確かねぇ、冬獅郎にくすぐられてて…市丸隊長に見られて…そこで目が」 「…は…」 「まさかわたし寝言でも言ってた!?」 「…言ってたぜ、馬鹿みてぇに」 笑いを堪える冬獅郎には首を傾げるばかり。 どんな寝言を言っていたら冬獅郎があそこまで狼狽するのか、彼女には分からないらしい。 「なッ!?何言ってた!?ねぇっ!教えてくださいな」 「うるせっ。でもな…」 冬獅郎はの耳に口元を寄せる。 「寝てるときでさえ俺を妬かせんじゃねーよ」 かぁっとの頬が上気するのが分かる。 それが可愛らしくて冬獅郎もふ、と笑んだ。 彼女を照れさせるためなら、素直になることも悪くない、と思ってしまうほどに。 夢の中でも俺のことだけ見てればいい。 そんな事胸張って言えやしないけど。 「…寝ても覚めてもあなたのことしか考えられないのに?」 「そうだな」 言葉ひとつで満足できる。 「…、」 ぎゅう、と抱き締める。 存在を確かめるように。 「冬獅郎?」 「……今度は、俺だけの夢見ろよ」 「…それができたら苦労しないよ、」 そう彼女は笑って、 「できることなら、夢じゃなくて現実でも冬獅郎のこと、ずっと見ていたいけどね」 夢の世界までも支配できれば、 (お前と一緒にいられたら、) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 大分前に書いた奴を修正してみました☆ でも夢って…こんなでしたっけ\(^o^)/ 寝言ひとつで動揺する日番谷氏が可愛いような、小さいような笑。 |