捧ぐ祈りをも奪う支配者よ




祈っても、誰も救われない。

懺悔しても、何も変わらない。

奪っても、何かが止まることはない。


だけど、祈ることを止めやしない。

懺悔することを止めはしない。

奪うことを、止めはしないのだ。



そうして、世界に抵抗を続ける。










、」

ふとあいつの名を呼ぶ。
間違いなく、例外などなく、それにはこう返ってくる。

「はい」

穏やかな声音に、穏やかな微笑み。
ゆるやかに伸びた長い黒髪。
細く長い手足に、端整で綺麗に整った顔立ち。
爪の先から、心の内側に至るまで、綺麗な女だと思う。
勿論そう思っているのは冬獅郎だけではなく、みながみな、そう感じていた。

「何ですか、冬獅郎?」

漆黒の大きな瞳にひょこりと覗き込まれる。
冬獅郎は一瞬だけ面食らって(自分が呼んだのにな)上半身を僅かに引いた。
十番隊舎、日番谷冬獅郎の自室。
外は既にどんよりと影を落として、闇が全てを飲み込まんとしていた。

「…髪、乾かさないと風邪引きますよ」

くすくすと笑っては淹れたてのお茶を机に置いた。
あの天才児隊長の部屋に、女、とは聞こえが悪い。
見かけは成長しずとも、中身は少なからず成長するものだ。
冬獅郎は十番隊の隊長を務め、は五番隊の第五席を務める。

「悪い、」

言って冬獅郎はが差し出した手拭を取る。
それを見て、にこりと彼女は笑んだ。
の笑顔を見ていると安心する、冬獅郎は最近そう思う。
今日は現世での虚討伐の任務があり、思わぬ悪天候に見舞われ、
ずぶ濡れ泥まみれになって帰ってきた冬獅郎を、は部屋で迎えた。

「…、」

渡された手拭を置いて、覗き込むように口づける。
きょとりと目をぱちくりさせ、は冬獅郎を見た。

「…久しぶり」

に、と笑う。
最近中々会えなくて、声すら聴いてなくて、冬獅郎にはもう、我慢をする理由も、余裕も、なかった。
座るの上から抱きすくめる。
と出逢ってから流れる時間が長くなるほど、自分に残る理性がすり減っていく。
彼女を自分の腕の中から出したくない。
そんなこと、間違っても声には出せないけれど。

「ぁっ、ん…はぁ…、んっ、」

の全身を楽しむように愛撫する。
細くて白い指先、首、腰、足、そして豊かな胸に口づける。
乱れた死覇装から覗くそれぞれに欲情した。
激しく何度も何度も突き上げ貫き、揺さぶる。
この時ばかりは、大切に、大切に愛してきた彼女を壊したいと思う。
本能のまま、乱れ喘ぎ求める彼女を。



その日は特に寒い日で、現世にもこの瀞霊廷にも雪がちらついていた。

「…くっしゅ!」

そんな中、裸で抱き合っていた二人は案の定。

「…無理をしないで、今日は寝ていてください」

(最悪だ)風邪を引いたのはではなく冬獅郎で。
歩くことはおろか、立ち上がることもままならない状態だ。
は身支度を整え、帯を締め、髪を縛る。

「わたしは勤務に就きますけれど、終鐘の頃には帰ってきますから」

後ろ髪を引かれるように、は心配気に冬獅郎の額に手を添える。

「…お前の、手…冷てェ」

掠れた声で、感じたままを述べる。

、お前も休めよ」
「ばか、駄目に決まっているでしょう?」

なぜ自分がそう引きとめたかは分からない。
は困ったように微笑んで、

「…必ず来ますから、大人しく寝ていてくださいね」

そう言って襖を閉めた。