俺はいずれ、お前を殺しちまうんじゃねぇかって、
「冬獅郎、起きたの?」
ひょこりと顔を覗かせる。
寝室のドアの向こうは居間、台所だ。
開けられたドアの隙間から、朝食の芳しい匂いがする。
「あぁ、おはよう、」
「ん、おはようございます」
ドアを開けて隣の部屋を覗きこむ。
はすでに朝食の用意を終えて、お弁当を包むところだった。
「早ェな、」
くぁ、と欠伸一つ。
昨日、いや、今日と言うにふさわしいが、遅くまで愛し合っていたというのに、
は大変爽やかな様子で、笑った。
「何となく癖で、早く起きちゃうんです」
どれだけ激しく攻め立てて、失神するほど犯しても、の朝は爽やかだ。
そうでなければ、冬獅郎より早く寝ることはほとんどないし、
冬獅郎より遅く起きることはほぼない。
休日は家のことをしている、仕事がある日は普段どおり忙しく走り回っている。
昔から身体は丈夫な方ではない、今だって見るに、顔色は良くないし、
昨日抱き合った感触では、だいぶ痩せているんじゃないかと思う。
「食べましょう、いただきまーす」
「あぁ、いただきます」
まだ眠気眼のまま、冬獅郎は箸を運ぶ。
眠りから覚めない頭は、の体調のことまで考えは及ばない。
まだ眠りを欲する本能と戦いつつ、もぐもぐと口を動かす。
その様子を見て、はくすくすと笑む。
「今日は遅くなる、」
そう言って家を出てきたはずなのに、明かりが灯っている。
どうやらはまだ起きているようだ。
「ただいま、」
「おかえりなさい」
お疲れ様、とが微笑む。
冬獅郎が脱ぎ捨てた羽織を拾い上げると、洗濯に向かうようだった。
「、」
「はい?」
振り返ったの腕を取る、
「細ェ」
「…いや、あなたには敵いませんが?」
真顔で返されて、カチンと来る。
「…俺は真面目に言ってるんだが」
「わたしだって真面目ですよ?あんなに頑張って料理しているのに…!」
無念、とは唸る。
どうやら自分のせいで冬獅郎が成長しないとでも思っているらしい。
「…あのな、」
「あぁ、でもいいの、まだまだこれからよ!見ていなさい、あなたを太らせてみせるんだから!」
「お前は何に挑んでんだ、違ェよ、お前が、「あなたのために頑張るわァ」
遮られた言葉。
困ったように、だけど相手が自分のためにと言ってくれるのが嬉しくて、笑う。
「わたし時々ね、あなたのために生まれてきたんじゃないかって、思うときがある」
「…?」
「だからね、頑張らせてね、冬獅郎」
お前は十分頑張ってるじゃねぇか、何が不満なんだ。
そう口から出そうになったが、何とかとどめた。
“わたし、あなたのためなら、死ねる”
が愛してくれている、
「…ありがとう、」
頑張りを無碍になんてできるわけない、
「俺も頑張るな、」
そう言うと彼女は冬獅郎と同じように、困ったような微笑で、
「あなたは十分頑張ってるじゃないの、家でぐらいのんびりしたら」
あぁ、
「愛しているんだ」
どうかこいつが俺のために死にませんように、
俺のために生まれてきたと言うのなら、
俺のために生き続けてくれ。
もう失いたくはない、