頬につめたい床の感触。
苦しい、わたしこれ、死ぬんじゃないかな。
くすり、どこ置いたっけ、やばい思い出せない。
これは尋常じゃない、やばい、死ぬ。
助けて、助けて、

「とう、」

あぁ、駄目、なんだ。
もうあなたは、いないんだ。



数週間前、確実に拒絶されたことを思い出した。

「ね、お願い、大切な話があるから、今夜は帰ってきて」
「…今言えねぇのかよ」

四番隊舎の中(そう彼はあのひとの病室に行く途中)
もう一ヶ月と帰ってこない夫を前に(あのひとの病室には暇さえあれば顔を出すのに)
あなたは呆れた顔をしていた、(早くあのひとに会いたい?妻は、わたしなのに)
今まで我慢してきた言葉を、一言だけ、(もう長くないと言われたの、)
おねがい、不安なの、今夜だけは傍にいて。

「…おねがい、」
「ちっ…今夜は帰れねぇ、また今度な」

イライラしているのだろうか、握りこぶしを握ったまま、目も伏せ目がちで。
もう笑ってはくれないのだろうか、あの、あのひとに見せるみたいな笑顔で。

「…ごめん、なさい、」

わたし、こんなの初めてだった。
愛してくれた時もあった、だからまたその時みたいに愛されるかもしれない。
そんな期待が、一瞬で消えた。
言いたいことはいっぱいあったの、だけど言えなかった。
(愛していてくれなくてもいい、あなたの幸せの一端であれたら)
そう思って毎日毎日、料理を作ってあなたの帰りを待っていたの。
掃除も洗濯もまじめにやった、仕事だってあなたに恥じないように精一杯やったよ。
だけどもう、わたしはあなたのお荷物でしかない。
あの、舌打ちの時の、顔がわたしの中をぐるぐると回っていた。
(所詮わたしは欠陥品、あと少ししか生きられない)
こんなの初めてだった、そうして、これで最後になる。

「…顔色悪ィぞ、?」

視界が一気に赤くなって、びっくりした。
目をぱちぱちと瞬くと、に、と笑った彼の顔があった。

「阿散井くん、」
「副隊長、だろ」

ニヤニヤと笑って、わたしの揚げ足を取った。
もう、と困ったように笑う。

「日番谷隊長と話、聞いてきたのか?」

今日卯ノ花隊長に説明聞きにいくって休んでたもんな、そう首をかしげる。

「えぇ、」

わたしは小さく頷いた、ここで違うと言っても立場が悪くなるだけ、
簡単な算数だ。
(わたしの話なぞ、詮無きこと)
目を瞑ると、阿散井くんが動いた気配がした。

「ま、また明日から仕事がんばれよ!」

阿散井くんはわたしの頭をわしゃわしゃっと撫でた。
(明日なんて、)

「わたし、夜を越える自信がないわ」

そう綺麗に微笑み返して、わたしは踵を返した。





あなたの居ない夜を、幾千と超えてきた。

「とう、しろ」

今夜も、同じ夜だった。
呼んだけれども、当然返る声なんて無くて。
わたしの虚ろな視線の先、倒れて割れた写真立ての中で、二人が微笑んでた。
零れた涙は何の涙?
苦しいんだ、痛いんだ、そう、これは彼のせいじゃない。
(わたしが悪いんだ)
もう、彼がわたしをどんな風に呼んでいたか、忘れてしまった。
耳が、脳が、心が、忘れてしまった。
あぁ。

「…ごめんなさい」

わたしあなたを幸せにできなくて。
疎まれることしかできなくて、ごめん。
でもわたしは幸せでした。
あなたのためにいっぱいやった、勝手に、その優越感に浸りながら、
その行為を否定されることもなく、

「…冬獅郎」

どうか幸せに。





呼吸が止まる

その一瞬のラブコール







(きっとわたしは見つかることがない、このまま一人、消えて逝く)
だけどわたしは見つけたい、だからもう、瞳は閉じない。







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きっと誰も某少女に勝てるはずもない。
目を逸らさない。
あ、名前変換ないや←