【BLEACH】     〜途切れた声を〜





切っ掛けは些細な事で。

お前がそんなに怒ると知らなくて。

ただ、終幕へと転がりだした会話は止める術を持たなかった。








「…最低」


しばらく些細な会話をして、どんどん雲行きが怪しくなって、

今のの言葉で冬獅郎はハッとした。


「あ、」


何かを言いかけようと、口を開くがの呆然とした顔を見ると言葉も詰まる。

信じられない、そんな表情の彼女を冬獅郎はきょとんと見る。


「日番谷くん、そんな風に思ってたの?」


「そんな風にって、お前」


怪訝に眉を寄せる。

何でがそんな顔をするのか、冬獅郎には見当も付かない。

彼はただ。


『待ってなくて良かったのに』


と言っただけだ。

その日の経緯を説明すると、冬獅郎はその日は急遽残業で。

その日は冬の寒さが厳しい日で。

その日は彼女であるは非番で。

その日二人はこの十番隊舎の休憩室で会う約束をしていて。


冬獅郎は待ち合わせにおおよそ2時間ほど遅れた訳で。


それをは根気良く待った訳で。


だから。


“この寒い中、待ってて風邪引いたらどうするんだ”という意味を込めて言っただけで。





「オイ、お前何か勘違いして…」


冬獅郎は焦っての腕を掴む。

それでも彼女は立ち上がり、帰ると踵を返す。


「何だよ、折角来たんだろ?」


困惑の色を隠せないまま、言葉をつむぐ。

何かを言わないと、駄目な気がして。


「…日番谷くんには、私の気持ち分からないよ」


ぼそり、とが言った言葉に、いい加減冬獅郎もイラッとした。

これだけ言っているのに、気持ちを分かってないのはお前だろう。

その思いを、そのまま言ってしまった。


「それはお前だろ?」


元々気の長い方ではない。

言った後で、しまった、と思った。

だがもう遅い。


「いつも待っているのは、私なんだよ…?」

「それは悪いって思ってる、厭だったら帰れば良いだろうが」

「…帰るわよ、、、帰るわよ!


半ば涙目のが、腕を振り払う。



何かを言わなければ、と思うものの言葉が浮かんでこない。



ッ…!」


呼んではみるものの、その後に言葉は続かない。

勿論、も振り向かない。

冬獅郎に背を向けたまま、歩き出す。


…ッ!」


もう一度、呼ぶ。

何かが変わる事を願って。




「さようなら」




そう言ったまま、背を向けたままのは休憩室の扉を開け、扉を閉めた。

彼女の背を見送る事なんて、もう無いと思っていた。

決めたその日から、一緒に帰る事を怠った事なんてなかったし。





「…くそっ!!!」




ぶつけどころのない憤り、それが冬獅郎の心を支配していた。

これは誰に対しての憤り?


「知るか…ッ!!!」


知るか…?


(俺は何を知らないんだ?)


冬獅郎はそこで一気に冷静になった。



忙しさにかまけて、忘れていたのかも知れない。


『待っているのは私なんだよ』


『私の気持ちわからないよ』


当たり前と思っていた、が待っていてくれる事。

それで、考える事を止めていたのかも知れない。



「ちっくしょう…」



自分が悪いのか、しかし、だって冬獅郎の気遣いが分からなかった。

バツが悪くなり、ガンと軽くガラスを殴ると、

そのまま額を腕を枕にするようにガラスに付ける。




「?」



ガラスに息がかかると、当然の如く曇るのだが。


妙な模様が見える。


冬獅郎ははぁ〜っと息を吹きかけ、ガラスを曇らす。


模様は見た事のある物だと分かる。


文字、だ。



「………くそッ!」



その文字を見た瞬間、冬獅郎は休憩室を飛び出した。



速く、速く、できるだけ速く。



冬獅郎の足なら、追いつけるはずだ。


だが、そんな自信が無いのはどうしてだろう。


(追いつく)


夜中の静かな隊舎内を駆け抜ける。


(追いついてくれ)



ッ!!」


見えた背中を呼び止める。


(止まってくれ!!)


冬獅郎は、の名を叫ぶ。





今度は呟くように、呼ぶ。


「何よ」


驚くほど素っ気無い応え。






「…悪かった」






知らなかったんだ、と冬獅郎は言葉を吐き出す。


「ねぇ、日番谷くん」

「…何だよ」

「私が何であなたを待っているか知ってる?」

「…」

「分からない筈無いよね?…私、一時でも長くあなたといたいのよ」


背を向けたまま、は言う。

冬獅郎は黙ってそれを聞く。


「それなのに、あなたってば“待ってなくても良い”ですって?さすがの私も怒ります」


「だから、それは」


言いかけようと口を開くが、の言葉は止まらない。


「あなたが言葉足らずなのは知っています。

 不器用で、言葉を選ばないところも知っています。

 だけど、今日だけは譲れなかった」


はゆっくりとそう言い、少しだけ首を傾げて冬獅郎を見る。


言っている意味が分からず、凝視する冬獅郎。




「御誕生日、おめでとうございます」


まだ幾分ある距離、暗い廊下。


その向こうでは淡く微笑む。


冬獅郎は今、ここで言える事なんて何一つ思い浮かばなかった。








「………だいすきです」








微かに動いた唇、届かない声。

聴こえないだろう、とそう踏んだのか、はまた冬獅郎に背を向ける。




「バカヤロウ…それはこっちの台詞なんだよ…!」



冬獅郎は後ろからを抱き締めた。


いつも温かく柔らかかった感触が嘘みたいな程冷えた身体。


「お前、本当馬鹿だろ…」


ぎゅうと力を込め、抱き締める。

折れそうなほど細く、冷え切った身体を包むように。


「…知ってます」


ぽつりと呟かれた言葉。

抱き締める手に添えられるひんやりとした感触。


「日番谷くんって、温かいんだね」


苦笑まじりには言う。


「…バカヤロウ、お前が冷てェんだよ」


いつも俺の手冷たいとか言いやがって、と言い返す。






「追いかけてきてくれて、有難う」






(バカヤロウ、有難うはこっちの台詞だってんだ)


「…バカヤロウは、俺か…」


苦笑をもらすと、の「その通りです」と言う声が、返ってきた。










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ハイ、長――――い!!まとまりきれないー!(自己嫌悪)

まァいつもの事なんですが。

…サテ、ヒロインさんはガラスになんて書いてたんでしょうねぇ。

そして日番谷くんに包まれるほどって、ヒロインさん身長いくつー!?(黙れ)

そんな理由で“ような”をつけました☆(消えろ)



と言うか、とある理由で日番谷くん目線が書きづらいんですが。

何かすごく照れるんですよ…!!!!(お前)