「え?ちゃん?」 三番隊舎へ行くと偶然市丸に遭遇した。 冬獅郎はしょうがないから市丸にの行方を尋ねる。 「帰ったよ?」 「は?」 何という早業!はもう帰宅したと言う。 頭を抱える冬獅郎を尻目に市丸は相変わらずの笑みで、こっそり尋ねてきた。 「何々、どないしたん?面白いこと?」 「面白くねぇ!邪魔したな!!」 どすどすと大きな足音を立てて冬獅郎は三番隊舎を後にする。 全く、無駄な時間を過ごした。 だんっと地を蹴ると屋根伝いに瞬歩での自宅へと急ぐ。 の出は中級貴族で瀞霊廷に屋敷を持っていた。 だが彼女は護廷隊に入るときに屋敷を出て、一人暮らしを始めたと言う。 渡されていた鍵を使って中に入る。 ふわりと甘い香りがした。 おそらく、チョコの香りだ。 「…冬獅郎、」 名を呼ばれ、誘われるようにの姿を探す。 案の定、べっこりと凹んだ空気をまとったが台所にいた。 「…、」 冷静に、冷静に、と冬獅郎はの名を呼ぶ。 「冬獅郎…?」 「ただいま、」 「…おかえりなさい」 返ってくる答えにいつも通りさを感じてほっとする。 冬獅郎は一歩、また一歩とに近づいた。 「…、「今年は、迷惑かけないから…十数年迷惑かけてごめん!!!」 言おうとしていた言葉を阻まれて、冬獅郎は深くため息をつく。 「あのなぁ、、勘違いすんなよ…俺は別にお前からのチョコが迷惑だなんて思ってねぇし」 頭を掻いて言葉を選ぶ。 間違えればまた惨事になりかねない。 女は面倒な生き物だなと思うこともあるが、それ以上にこの女が愛しい存在であることは確かで。 「でも、冬獅郎、」 「…愛を贈る日なんて言われたら、お前から受け取らねぇわけにはいかねぇだろ?」 ふっと笑って言葉をつむぐ。 出会ってから数十年間、のチョコを断ったことなんて一度もない。 「嫌々受け取ってたわけじゃねぇんだぜ、………すげぇ嬉しかった」 「…冬獅郎…」 「―・・・、来いよ」 言ってやるとがものすごい勢いで抱きついてきた。 (可愛い奴、) その様子に自分の頬が緩むのが分かる。 存外自分もバレンタインに浮かれる奴らをバカにはできないな、と冬獅郎は思った。 「おかしいと思ったんだ、冬獅郎、別に甘いもの嫌いってわけじゃないのに」 「は!?何で、それ」 「…子ども扱いされると思って嫌いなふりしてるだけでしょ?」 くすくすと見透かしたような目で笑う。 (くっ…!) なんとなくしてやられた気分の冬獅郎。 このままで終われる筈が無い。 「…あぁ、好きだぜ?甘い食べ物」 「やっぱり」 「お前みてぇな」 そう言って覗き込むように口付ける。 甘く溶けるような口付けに吐息が漏れると、その隙をぬって舌を挿れ込んだ。 「…っん、」 貪るような激しいそれ。 お互いの舌が絡み合って、ちゅっ、くちゅっと音を立てる。 数十秒間交わされていたそれが終わって唇が離れる。 「顔、真っ赤だぜ」 クスクスと冬獅郎は悪戯っぽい笑みをこぼす。 はその言葉にさらに顔を上気させた。 「もっともこれで終わるつもりなんてねぇけどな、」 を机まで追いやると覆いかぶさるように再び口付ける。 そのまま机の上に押し倒して、首筋、鎖骨へと紅い痕を残す。 「ぁっん、…冬獅郎!」 にぎゅっと抱きしめられ、頬を両手で包まれた。 温かな体温が伝わって、今度はから口付けられる。 ふわりと彼女の長い髪が揺れて、 (甘い香りがする…) その匂いに、温かさに、の唇に目を伏せる。 愛しい、愛しい。 「…甘いぜ、…愛してる」 その香り、麝香のごとく。 (チョコみたいに甘く溶け合って) **** はい、おしまい! 冬獅郎さんはきっと甘いものも普通に好きだと思われる。 だけど甘いものなんて女子供の食べるものだと決め付けて、遠巻きにしてそう。 |