だれか。

蝶々を捕まえて。

キオクに棲む、真っ黒な蝶々を。










ハザマ     〜物体と霊体と〜











「今日は十番隊で一通りの「いや〜ん、隊長、やっぱり連れ帰ってきちゃったんですねっ!」

先ほど眠らされていたソファに腰掛けて、は事の成り行きを見守った。
死覇装に着替えると案内された場所は最初の部屋。
十番隊首室、つまりは隊長、副隊長の執務室だ。
最初の関門は突破できたと言えるだろう、この場所に、戻ってこれたのだから。

「隊長のことだからきっとほっとけないんだろうとは思ってましたけど☆」

バチコーンと綺麗にウインクブチかましてる松本、の姿。
その彼女の行いに頭を抱える日番谷、の姿。
を、ごく近くから遠目に見つめる

「どっっっちでもいいけどな、松本」
「…なんです?」
「仕事し「あ、あたしお邪魔しちゃいけないし、ちょ〜っと八番隊まで行ってきます!」
「なァアアんで八番隊なんだ、仕事しろォオオオ!」

日番谷の怒号に松本がびっくーっと肩をすくませたかと思うと、それを合図にぴゅ〜っと執務室から消えていった。
その光景を、渦中に居ながらも傍観を決め込む。
恐らくは毎度の光景なのだろう、日番谷もやれやれと肩をすくめただけで、それ以上追いかけようとしなかった。

「ったく…」

がしがしと頭を掻いて日番谷は大きな溜息もついた。
あの様子ではしばらく戻ってはこまい。

「良いか、あれは悪い見本だ。見習うな」

松本の出て行った扉を指差し、びしっと言い切った。
本当に見習ってほしくはないのだろう。
眼が真剣だ。

「あいつに教えてもらうことも多いだろうが…大半は…悪い事だ」

もう一度溜息をつくと、彼はの前に座った。
何から説明しようか、頭の中で考えているのだろう。
この年端も行かない少年の域を出ていない男は、その背に一体何を背負っているのだろうか。

「…死神について知っていることは?」

彼にしたら長考だろう、しかし口を開いて出てきた言葉は説明でもなく、
(問い、)
はその真っ直ぐな視線を見返す。

「何も」

嘘は言っていない。
彼の求めるような答えは持っていない。
死神、虚を還す者。
それは神でも何でもなく、一様に魂を狩る者を指す。
一般的な知識であって、誰もが抱くイメージでしか、知らない。
だから、何も、知らない。

「そうか、なら…いい」

少し安堵したような顔。
知っていることは罪になることもある。
それを危惧していたのか?

「改めて言う、俺は護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ」

護廷隊、死神、十三、隊長、斬魄刀、取り敢えずそれらの何たるかの説明を受ける。
正直にとってはどうでも良いことだ。
護廷隊も、死神も、彼女には関係の無いことだから。

だな。…お前は斬魄刀が出せるな?」
「あれがそんな名前だなんて知らなかったわ」
「お前のがそうだとは頷きがたいが、そうかもしれねぇ。一回出してみたら分かりやすいんだが」

日番谷の目が、ジ、とに集中する。
大きな翡翠の目が、を射た。
ここで清明を出すのか、出さないのか、それが大きな分岐になるようにも思えた。
ただ、この少年には借りがある。

「良いですよ」

二人だけの秘密ですからね、とは小さく笑む。
それに日番谷は何か言おうとしたが、はそれを手で制した。

「“清明”」
『はい、』

隠してるつもりなどなかった、最初から日番谷が認識していなかっただけで、ずっとそこに居たのだ。
の斬魄刀の本体だ。
死神のそれとは違い、姿が認識できる。そう、意識したら、の話だが。

「お前が、斬魄刀か?」
『先ほどから聴いていれば、あなたは私たちのことを知らなすぎる』
「…それじゃ、お前が教えてくれんのかよ?」
『お断りします、…私はこの子の守り霊、ただ、刃にもなる、それだけのこと』

つーんと顔を逸らしては、清明は言葉をも突っぱねる。
どうやら機嫌が悪いようだ。
先ほどから口を出してこなかったのは、その為か。
日番谷は日番谷で訳が分からないと言った表情をしている。当然である。

「オイ、俺はこいつを怒らせるような事したか?」
「…さぁ、機嫌が悪いだけじゃないのかなぁ?」
『あー!また二人でこそこそ話して!!』
「…は?」
『何です何です、最初から私をのけものにして!』
「ちょ、清明…」
ですよ!何で死神に加担するんです!』
「加担してるわけじゃ、」

めそめそと隅っこで泣き始める清明に、は頭を抱える。
あぁやって拗ねられてはしばらく慰め続けなければならないことを、経験で知っていた。
日番谷は呆気にとられた様子で、何も言ってこない。
清明、頼む、後で慰めてやるから、今は立ち直ってくれ。

「せ、清明、」
、…良いんですか?ここは“死神”の世界ですよ』

こそ、と頭に響く声。
この声は実体を持たない。だけに聞こえる声だ。
(んな事言ったって、)

『いつまで大人しくしているつもりですか』

清明の声はそこで止まった。
日番谷が、我に返ったのだ。

「…確かに、俺たちのそれとは違うみてぇだな」
「はぁ、」
「斬魄刀の本体が刀であるように、お前のそれは本体が霊体という事だろ…?やはり根本的に違う、か」

だが、と日番谷は言葉を濁らせる。
それもそのはずだ、その専売特許は“陰陽師”なのだから。
(やはり末裔と気付かれた、か?)
隊首会中、そんな話をした覚えもないのに、誰かが「陰陽師の生き残り」と言っていた。
護廷隊は、わたしをそれと知った上で、わたしを引き入れたのだ。
そして、…恐らく、この少年は、
(わたしを守るつもりでいる)



「全く、狂気の沙汰ですね」











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お久しぶりです…!更新する気は満々なのよ…!泉です。
これからドタバタと戦闘モード突入していきます、お付き合いよろしくお願いします!