護廷隊、始めの仕事はほとんどが書類整理だった。
日付順に並べたり、製本したり、押印したり、時々お茶を淹れて、気が向いたら掃除をする。
その繰り返し。
隊首室から出ることはなかった、隊首室と自室の行ったり来たり。
それはまるで、

『囚人のようですね』

清明は退屈そうに頬を膨らませた。
現世にいたときだってそう変わらなかったと思うが、ともかく不満そうだった。
それが死神の世界だからか、それとも単に退屈しているだけか。
その間、日番谷はから目を離さなかった。
の監視は甚く簡単であっただろう、何せ彼女には逃げる気も、抵抗する気も、ないのだから。
その視線は、監視、というよりは、見守り、に近かった気がする。
遠巻きにも、を守っていたのだ。
副官である松本はよくの面倒を見てくれた。
分からない事があっても、聞く前に教えてくれるのだ。
性格こそ違うが、二人は根幹がよく似ている。
人の気持ちに敏感で、優しく、自分は強く美しく在ろうとしている。
実際十分強く美しいのだろうが、さらに上を見る事を忘れない。
そしてもう一つ分かったことがある―…

、」

ふと書類に陰が落ちる。
が見上げると日番谷が立っていた。
…―この人は、すべての死神に認められているというわけではないということを。
大層難しい顔をしていたので、何事かあったのか、とは筆を置いた。

「何ですか、日番谷隊長」

彼は自分を日番谷隊長、と呼ぶことを強いた。
他の死神同様に、呼び方を統一するためだ。

「今夜、空いてるか」
「………はぁ」

あまりにも突飛な発言に面喰って、間が空いてしまった。

「暇ですが」
「松本がだな、…お前の歓迎会をすると煩くてな」

その言葉に、は真向かいに座す松本へ視線をやった。
日番谷の後ろ、やったー!と喜ぶ松本の姿が見えた。
そして、日番谷の表情はさらに怒気帯びる。
「ただし今日の仕事は終わらせろよ!」と松本に檄を飛ばす。
一気にテンションの下がった松本だが、よほど歓迎会がやりたいのか、もさもさと仕事を始めた。

「…そろそろお前も仕事に慣れてきた頃だろうし、他の死神と話してみるのも悪くねぇだろうと思ってな」

日番谷はそう言って、ほんの少しだけ、優しく笑った。








誰だ。

目の前を横切る蝶は何の報せか。

キオクに棲む、真っ黒な蝶々は。










ハザマ     〜歓迎と嫉妬と〜









松本が歓迎会をやりたいと言い出したのは今日昨日の話じゃない。
が隊に来てから、ずっとそれだ。
さすがに突然やってきた謎の“一番隊特席”を紹介するわけにもいかず、
(それにまだ様子見の段階、)
の動向を探るため、監視を続けていた。
結局のところ、は怪しい行動、むしろ無駄な行動一つなく、隊務をこなしていった。
退屈そう、という印象すら、彼女からは感じられなかった。
ただ、一言あてるとすれば、“孤独”だった。

「…まぁ、大抵はこんなんだ」

冬獅郎は額を押さえながら、を輪へと促した。
宴が始まって間もないというのに、吉良は檜佐木に絡んでるし、阿散井と一角は何やらお猪口片手に語り合っている。

「あれ、飲んでる?」
「いえ、あの、わたし、」
「何だ!上司のついだ酒が飲めねーのか!」
「ちょっと吉良!!いきなり驚くでしょ!!」
「松本さん全然飲んでないじゃないですかぁ〜、俺つぎますよ!」
「修兵はちょっと黙ってて!」
「阿散井〜」
「ちょ、檜佐木先輩くっつかないでくださいよ〜」
「アレッ、たいちょーも飲んでます?」



「そもそもこれは十番隊の歓迎会じゃねぇのかッ!!」



何で阿散井や吉良や、檜佐木、とにかく他隊の奴までいるんだ!
だから場がごちゃごちゃになるんだろうが!!
冬獅郎が声を張り上げると一だけシーンとなる会場。
十番隊の隊士もちらほらいるが、自隊の隊長と副隊長だけでなく他隊の隊長格まで参加している宴に
気の休まる間などなく、大半は早々に帰って行った。
(中には―…そうでない奴もいるが)
ちらり、と視界の端でとらえたのは十一番隊の席官だ。
どうやら、冬獅郎のことも、一番隊特席のことも、気に入らない様子だった。

「ささっ、隊長も飲みましょうよ!」

松本が冬獅郎のコップに酒を注ぐ。
宴の席で断るのは無粋というもの、注がれた酒は、飲むしかない。

「ったく、しょうがねぇな」

注がれたそれを一気飲む。
酒は弱くもないが、強いわけでもない。
大体そんなに好きなものじゃない。
飲みほして一息つくと、わっと場がにぎわいを取り戻す。

「隊長も一杯行ったし、アンタも飲みなさい!」
「ちょ、まっ」

は抵抗している様子だったが、次第に観念してちびちびと飲み始めた。
そのころには松本を中心に、宴の真ん中に、加わっていた。
仲間を作っておくことは悪い事じゃない、冬獅郎は過去の経験からそう思う。
しかもあの輪にいるのは隊長格だ、いざという時に味方になる。
冬獅郎は一人離れたところに座っては様子を見ていた。
松本にしてはなかなか、うまくやった。
そう小さく含み笑っては酒を口に運ぶ。

「高みの見物ですか、日番谷隊長」
「…誰だお前」
「ひどいですね、十番隊の隊士ですよ」
「………」

せっかくの気分が台無しだ。
目の前には先ほどの十一番隊士。
たとえ自隊であっても上官に向かってその口のききようは、ない。
はぁ、と小さくため息をつく。

「俺は自分の隊の隊士は全員把握しているつもりだ。今、嘘だと謝るなら、許してやるが?」

じ、と見上げる。
すると観念したように、目の前の隊士は肩をすくめた。

「さすが隊長ですね、すみませんでした」
「どういうつもりだよ、楽しむつもりもねぇのにこんなところ来やがって」
「…別に、上のお気に入りの日番谷隊長が連れてきた、これまた上のお気に入りの小娘の面をよく見に来ただけですよ」

まったくもってドストレートである。
だが、隊長就任、いやもっと前、霊術院に入ったころから言われ続けていた事だ。
勝手に言わせておけばいい、その結果、冬獅郎には友人と呼べる友人はいなかくなったわけだが。
それでもやってこれたのは、数少ない理解者と、自分の能力のおかげだった。
にそれがあるとは、言いきれない。
ひとつの綻びが、破滅につながる事もある。

「で?どうだった、その上のお気に入りたちの感想は?」
「…大した事ない、ですね」

にこやかに言い放ってはさらに続けた。

「まったく、呆れかえりますよ。あの人たちも何ですか、隊長格の威厳もありゃしない」
「それには同意するけどな…お前にんな事言う資格あんのか?」

冬獅郎はむっすりとしながらも、冷静な対応を続ける。
これだからいやだったんだ、を外へ出すのは。
こうした的は内からも、外からも、少なからずやってくる。
つまりは羨ましいのだ、自分の力に自信があるやつは、認められるために必死だ。
自分のやりたいように事を成すには、上にあがらねばならない。
そう思うのは悪いことじゃない、上を目指すのは酷く道理染みている。
だが、それに利用される気は全くないし、ましてやを踏み台にしようなんて奴を放っておく気も更々ないのだ。

「ないですよ?……ただ、見てくださいよ、…あなたはあの輪にも加われない」

くす、と笑んでは相手は言い放った。
だから何だ、と冬獅郎は視線だけで威嚇した。
睨み据えられ相手は圧倒されたようだったが、踵を返して去って行った。
ざわ、と遠くの方で木々が騒いだ。





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コメディ路線を完全に見失ってますwww
ただわたしの中に構想は見えている<●><●>カッ
ブリコンにキャッキャ言ってる泉でした!