【鋼の錬金術師】  41   〜REPEAT DOOM AGAIN〜




晴れることの無い暗闇。




「エンヴィー…」


相対するエンヴィーと変わらずの睨めっこを続けている。


中佐が握っている受話器の向こうでは、そろそろ大佐が応対しているころだろう。

呆然としている中佐はその事に気づいてない。



どうする。



あたしは脳内で自問する。






どうする。






今なら大佐に伝えられる。


だが、それに伴う幾分かの隙。

エンヴィーはおそらくその隙を見逃さない。

今、彼から視線を逸らす事は自分の首を絞める事になるのは確実。



「ねぇ、何なのさ。君は」



エンヴィーの思わぬ質問。

時間稼ぎには丁度良い。

中佐が受話器の向こうの大佐に気づくまでの。



「どういう意味よ」

「言葉そのままさ。君からは俺たちと同じ異物のにおいが、する」


何その妙な親近感。


「異物、ねぇ。確かに?」


あたしは納得したようにうなづいてみせる。

うそは言ってない、それは確かな事だから。


あたしは、この世界にとって、異物。



「君が持ってる“秘密”は、何?」



見透かすようなエンヴィーの目。


一瞬、あたしはその瞳に捕らわれた。







『ヒューズ!!!!』








我に返ったのはロイ大佐の声。

次の瞬間、あたしの意識を引き戻したのは…ヒューズ中佐が倒れた音だった。




「中佐!!!」






「あら、うまく避けたわね」






背後から声。

妖艶な笑みを浮かべ、暗闇と同じ黒い服をまとったナイスバディなお姉さん。







「…ラスト!!!!」







「こんな所まできてしまったのね、影のお嬢さん」

困ったような、だけど大して意に介してないような口調。

「全く、どうしてこう余計な事をしてくれるのかしらね」






時間稼ぎをしていたのは、エンヴィーの方だったのだ。





絶望的な状況だ。

エンヴィーだけでも手一杯なのに、ラストまで出てきては厄介過ぎる。




くそぅ、、、



どうしようもない諦めが、あたしを支配した。


でも助けなきゃ、だめだ。


「う…」


呻いた中佐へ視線を落とす。

確かに“うまく避けて”いた。


「中佐、大丈夫ですか」


案外、落ち着いた声が出たのに驚いた。


「あぁ…畜生、何なんだあいつ等!!」

「…それはあたしも訊きたいですよ、中佐」

「…、ちゃん…?」


そんな声出さないでくださいよ、中佐。


「つ…いってぇな…どうしたもんか」


そんな落ち着いてる場合じゃないんですって、中佐。


しかしこの手の冷静さは、中佐の強みでもある。


運命は確実に…変わりつつある。


考えれば、あるいは…何かできるかもしれない。


考えようと、あたしは前のラストに目を向けた。

後ろにはエンヴィー。

状況は五分。

むしろこちらが有利ですらある。

絶好の暗闇。

一瞬、一瞬で良い。

練成する隙が出来たら、彼等を捉えて足止めできる。

あとはヒューズ中佐を電話からひっぺはがして逃げ去るだけだ。


「影のお嬢さん?私たちはあなたを失う訳にはいかないの…どいててくれる?」


是とも非とも言わず、あたしはラストさんを睨み据えた。


「…強情は感心しないわよ」

「…あたしだって、殺させる訳にはいかないんですよ」


カツ、とラストが近づいてくる。


その様子をギッと睨む。


「そんな怖い目してたら駄目だよ、お嬢さん」




勝ち目が無かった訳じゃなかった。



だけど。



!!!!」



ぐらり、と視界が傾いた。



真後ろで聴こえたエンヴィーの声。


練成する隙も、反撃する時間も、無かった。




「またね、影のお嬢さん」




暗闇に堕ちたのは、あたしの意識だった。























『よう、影のお嬢さん。



 分かってないようだから、教えてやるよ。



 お前に運命をどうこうする力なんてない、権利も、ましてや義務なんて無い。



 お前にできる事は見守る事だけなのさ。



 永遠に、逃れられない未来の記憶と一緒にな』





それは真理の声であって、あたしの声であって、…神の声でもあった。



勘違いをしていた訳ではなかった。



だけど、運命をどうこうするには、あたしはとてつもなく。







弱すぎたんだ。










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無力と虚無。

〜 REPEAT DOOM AGAIN 〜   運命は繰り返す。