【桜蘭高校ホスト部】
「東宮って危なかったのか?」
環が鏡夜に尋ねる。
「いや?最近も大きな契約を成立させて、むしろ波に乗っている」
鏡夜も難しい顔をしながら答えた。
「政略婚約って訳では無さそうだねぇ〜」
光邦もいつもに増して真面目そのもの。
そして行き着いた答え。
「そうか、これがお前の“答え”なんだな、…」
鏡夜の冷め切った声で、周りも水を打ったように静まる。
「きょ、鏡夜…」
何の騒ぎか、と言うと。
昨日、この桜蘭高校ホスト部を尋ねて来た人物が一人。
それはホスト部1年、の、婚約者を名乗る桐生青という名の人物でした。
この異常事態に、環はじめホスト部2年3年は極秘に第三音楽室に集まったのである。
「なぁ、殿たち何やってる訳?」
「知らない、ま、大凡予想はつくけどね〜」
会議はモロバレである。
が。
そんな事は置いておいて。
「「姫に婚約者ねぇ〜…確かに面白くないかも」」
双子は締め出された音楽室の前で、こそこそ策を練るのでした。
【扉は開けられなかった】
「て言うか、青」
あたしは取り敢えず状況を把握しようと、話をまとめようとした。
「ん〜?どうしたの、」
あたしににこにこと笑顔を手向け続ける青。
思いっきり光邦とキャラがかぶっている…。
って、そんな事はどうだって良いのよっ!
ここは1年A組、あたしの席。
彼、青はあたしの前の席に座っている。
「どうしたのって、それはこっちの台詞だしね…」
「そんなの決まってるじゃない、を連れ戻しに来たんだよ」
「は?」
あたしは盛大に眉を寄せる。
だって、あたしを連れ戻す必要性が無さ過ぎるから。
時は既に放課後におよび、部活が始まっている頃。
「何でまた」
「気に入らなかったからね」
「…へ?」
「があの鳳とか言う野郎に呼ばれて、さっさと俺の元を去った事がさ」
本領発揮の青様。
彼、言わずもがなこういう性格なんです。
可愛い顔とは裏腹にそりゃぁもうブラックでいらっしゃる。
「…鏡夜の事を“野郎”呼ばわりするのはアンタぐらいだぜ、青」
「…がそんな言葉遣いしてるのも気に食わない」
「………」
このままだとバラされかねない。
あたしの背筋を冷たいモノが伝う。
ここでバレたら、あたしだけじゃなく、恐らくはホスト部のみんなに迷惑が掛かる。
特に、ハルヒに。
「あのさ「戻ってくるよな、」
ぐ、と言葉に詰まる。
真っ直ぐに見上げられる。
言いかけた言葉を飲み込むしかなくて、あたしは唇を引き結んだ。
「…強引に連れ戻す事なんて簡単なんだぜ」
「…青」
「3日待ってやるから、答えもってこいよ」
青はカタン、と席から立ち上がった。
「お前の部屋、一室借りるから」
強引だ、といつも思う。
我が侭だ、とも思う。
だけど嫌いにはなれない、自分がいる。
でも好きでもない、これもまた、自分だ。
「…」
今まで声を掛けにくそうにしていたハルヒが肩を叩いた。
「…大丈夫?」
「ん?大丈夫だよ」
にこり、と笑って返す。
「部活、先行っててくれないか?俺日直だからさ」
日誌を持ち上げ、苦笑する。
ハルヒはそれで静かに「分かった」と言って教室を出た。
既に教室には数人の生徒しか残っておらず、閑散としていた。
「やれやれ、だねぇ〜…」
あたしは背を椅子に預け、ぐーっと背伸びをした。
(3日、か…)
日誌に適当な事を書きつつ唸る。
「まずい事になっちゃったなぁ…」
鏡夜にでも相談してみようか。
そこまで考えて、喧嘩っぽい空気になった事を思い出しげんなりとした。
あぁ、こんな事になるならもっと素直に言っておけばよかった…。
あたしはそう後悔したが、時既に遅し。
日誌を職員室に置いて、あたしは部室に向かった。
「…夜先輩こそ、ちゃんと言ってあげないと駄目なんじゃないんですか?」
音楽室の半開きになったドアのノブに手を掛けて、開けようとした時。
中からハルヒらしき声。
話している相手は、内容から鏡夜のようだ。
「それとも鏡夜先輩、の事もメリットがあるから付き合ってるとか言うつもりですか?」
どくん、と心臓が鳴った。
確かに鳳家からしたら、あたしの家は良い取引相手。
でも、考えた事なんて無かった。
まさか、そんな。
「…そうだな」
暫くの沈黙のあと、鏡夜が静かに言ったのを、聴いた。
嘘だ。
あたしはそれ以上聴くのが怖くて、後ずさった。
一歩、また一歩とドアから離れていく。
何か、奥で話す声が聴こえるけどはっきりとは聴こえない。
頭の奥が、キーンとなって、何も考えられない。
あたしが今まで付き合ってきたのは、
そりゃ確かにメリット云々もあったけど、
少なくとも、鏡夜に限っては、そんな事、無かったのに。
独りで一方的に信じて、婚約者の事で相談しようなんて、思っていた自分が、
恥ずかしい。
それでもあたしはどこか鏡夜を信じていて、メリットがあるから付き合っていると
言われてもどこかで…そんな自分が馬鹿らしい。
鏡夜は、もう“鳳鏡夜”なんだ。
そしてあたしはその“鳳鏡夜”にとって“東宮”でしかない。
くるり、と向きを変え、あたしは走り出そうとした。
ばふんっ。
「ぶっ!?」
あたしは思わぬ障害物に混乱した。
ぶつかって、倒れそうになるのを堪えて。
「じゃないか!どうしたんだ、そんなに慌てて…」
「た、まき…」
見上げると、そこには環があたしを支えるようにして立っていた。
「…?」
あたしの様子がおかしいのに、環は気付いたらしかった。
真顔になって見つめてくる。
「…な、んでもない」
「何でもなくは無いだろう、そんな顔して」
「そんな顔ってどんな顔だよ、俺が男前だからって妬くなー?」
にやり、と返してみせる。
笑えていた、と思いたい。
「誰が妬くかっ、じゃなくてだな!!」
「…悪いけど俺今日部活休むわ」
環の肩をポン、と叩きあたしはその横を通り過ぎる。
そのまま全速力でダッシュした。
そこから、逃げるように。
後ろで環が名前を呼ぶのが聴こえたけど、あたしは、聴こえないふりをした。
もしかしたら、ずっと聴こえないふりをしていたのかも知れない。
何もかも、鏡夜の声も、全部。
TO BE CONTINUEDE!!
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急にシリアス志向になってしまわれた。
ギャグで通そうかと思ったんですが…。
でも恐らくこの流れもすぐに終わると思います。(ぁ)