【PEACE MAKER】   例えばこんな逸話 THE THIRD STORY





「どういうことか、ちゃんと説明してくれるのよね?」


は眼を細めて、ルピンを睨み据えた。

うっ、と言葉に詰まるも、彼は飄々と口を開く。


「ま、はしょって説明するとね?」

「はしょるな」

「…死んだことにしてきたよ、今、君を」


くすりと悪びれも無く、極自然にルピンは言い放った。















〜   第八夜   Escape × A rabbit   〜



















「はぁ?!」


は派手に眉根を寄せた。


「居場所があるから戻りたくなる、だから僕がその居場所を壊してあげたのさ」

「余計なお世話よ、勝手な事言うんじゃない!!」

「勝手?でも僕は坂本さんと同じ意見だよ、あそこは狭すぎる」

「ね、一緒に“世界”を見よっ?」


袖を掴んで、上目遣いに「ね?」とミィネが言う。


「冗談じゃない」


(冗談じゃない)

にとって、“世界”とは広さを意味するのではない。

要は中身、狭くとも中身に意味がある。価値がある。



「あのひとたちのいない世界なんて、あたしの世界じゃない」


何度も言わせないで、とは続ける。

ついでに溜息もお一つどうだ。

じぃっと睨み据える。





「…怖い怖い」


暫くの沈黙に、耐えかねたのはルピン。

肩をすくめ、大袈裟に溜息をついた。


「どうするんです、坂本サン?」

「…困ったのぅ…クールガール、何とかならんのか?」

「なりません」

「どの道困るんだよね、僕は君を気に入ったし、僕に盗まれた君はもう僕のものだ」


(え、何勘違いしてんの、このひと)

は誰かのモノになったつもりは毛頭無い。

今も、昔も、これからだってなるつもりはない。

ふつふつと怒りがこみ上げる。


「いい加減にしてよ!何なの、あんた!国に帰れ!」

「…帰るとも、あと一つ、盗みが終わったら、故郷へね」


いったん言葉を切ると、ルピンは空を見仰いだ。


「そうしたら、この狭い日本ともお別れ。君には悪いけどね」

「は!?あたしを連れて行くつもり!?」

「最初からそう言ってるだろ」

「聴いてないし、そもそもいやだ!」

「クールガール諦めるぜよ!」


「諦められるかッ!」


やっと掴んだ平和なのに。

簡単になど手放せない。

(逃げ出すしかない)


周りは海。

ここは陸じゃないけど孤島。

得体の知れない奴が、目の前に3人。

順番に、は視線を合わせていく。


一人目、ルピン。

(こいつはほんとうに得体が知れない。何をするか、分からない)

二人目、ミィネ。

(ルピンにだけは従順な子、敵に回すと少し厄介だな)

それから、三人目、坂本リョーマ。

(このひとの目は盗めれそう、だけど絶対、ただでは帰してくれない)


さて。



(どうしたものか)




「逃げ出すつもりかい?」


ルピンが目の奥を光らせて言った。


「やってみなよ、必ず捕まえる」


自信満々に言ってのける。

それも何だかの癪に障った。

リョーマは何も言わないし、ミィネも席を外した。




「始めようじゃないか、鬼ごっこを」




「鬼ごっこ?」

「君が逃げ切れば君の勝ち、豊玉も君も諦める。だけど僕が君を捕まえたら…」


その時は。





「一緒に海を渡ってもらう」








それはひどく命令的で、いや、確実に命令なんだけど。

運命を決定付けるには充分で。




「ねぇ」




やるしかないんだと。


そう、目の前の異人が言い放つ。




「始めようか」




圧倒的な、文化の差を前に。




「逃げ切れるかな?」





鬼 ご っ こ の 始 ま り 。








次項。


〜   第十夜    オニと鬼   〜


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何だか妙な展開に。

ついてきてくださいね、みなさん!!