【PEACE MAKER】   例えばこんな逸話 THE THIRD STORY




「制限時間は、3日」


船が陸へ近づく。

勿論正規の港なんかには停まれない、ここは。


「大阪の端だよ」


心を読むかのように、ミィネがを見上げた。


「3日逃げ切れば君の勝ち」


にこりと厭味ったらしくルピンは笑う。

その後ろで、少し複雑そうなリョーマが口を噤んでいた。


「その内に捕まえれば、僕たちの勝ち」


さ、とルピンはの背中を押す。

こんな、きたこともないような場所に降ろされても困る。

が、船に乗っているのも気に触る。

は取り敢えず踵を返す。


取り返した刀の鍔が太陽の光を反射させて煌めいた。


「鬼は、1日時間だけ君が隠れるのを待つとするよ、それが鬼ごっこのセオリーだもんね」


くす、と笑う。

ルピンは眩いばかりの金髪を、かきあげた。















〜   第八夜    A cold−hearted  × It   〜


















「ここは大阪、1日で歩いて…」


京都まで帰れるだろうか、とは歩きながら思案する。

堺やら有名な港が多いこの大きな都市、大阪。

それでも地方の衰退、頽廃は激しい。

のどかな田んぼ道を行くも、横の雑木林からいくつかの視線を感じる。

(敵は外より内にありってか?)

は鬱陶しそうに溜息をつく。



キィン。



一瞬、空気が張り詰める感覚。

試合をするとき、“初め”の号令が掛かった瞬間に似てる。


(来る)


は反射的に、刀を抜いて、間合いに入った“何か”を斬った。


「なッ!?」


驚いて、声を上げたのは野盗。

ざっくりと切れた縄状のものを凝視し、次いでを睨んだ。


「…女のくせに、刀なんて上等なモン持つんじゃねぇよ!」


下衆が、とは心の中で毒づく。

10名ほどの野盗に囲まれ、しばし睨み合う。

しかし、いくらと言えど武装する10名相手に無血勝利はできない。

が、勝てないことはない。

じりっとは利き足を踏みしめる。


「…っらァ!!!」


殴りかかってくる奴をするりとかわし、鳩尾に一発。

久しぶりの感触に、膝が悲鳴を上げた。


「ッ」


衝撃に耐えられず、顔をゆがめる。

それを見計らってか、もう一人が斬りかかってきた。


(まずいッ!!)


引いた足ごと、そのまま後ろへ身を引いてしまった。





「駄目だね」





まったく、と溜息交じりの声。

ザンッ。

数回の太刀音の後、の顔に血飛沫が掛かる。


「な…ッ!?」


「お久しぶりですね、、新撰組副長助勤」


(この、声は)

は目を見開く。


「何を、驚いてるんですか?」









「鈴…北村、鈴…!?」










クス、と真っ赤な口が笑う。

(何で)

違う、との頭が警報を鳴らす。

でも、あれは、あの銀髪に褐色の肌は、紛れも無く、以前に見た北村鈴だ。

黒い毛皮を身にまとう彼は、クスクスと笑い続けている。



「今は、大和屋の主人をやってる…けどね」

「冗談じゃないわよ、あんた…誰?」

「鈴だよ、…さん」


呆然と鈴を見据えるに、鈴はあぁ、と手をポンと重ねる。


「こっちはヒカガミって言うんだよ」


紹介される大男の目が、ギロンとを捉える。

ぞわり、と背中を冷たいモノが伝う。


さん、何て顔しているのさ。ところで大阪で何してるの…?」


でも何故、彼は。

(わたしが新撰組隊士だと知っていた?)

どこで、どう、知ったというのだろう。


「何かに追われてる、とか?まぁ、会いに行く手間が省けたってことにしようか」


クス、と笑う鈴を見て、は後ずさる。











「会いたかったんだよ…?















次項。


〜   第拾壱夜    奪う側と奪われる側   〜


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鈴出てきたよー!!!