【PEACE MAKER】 例えばこんな逸話 THE THIRD STORY 例えば、世界が暗黒に堕ちるとして、 視力を奪われた私たちは、何を頼りに生きていく? 空は明るかった。 星は影に潜み、月に隠れる。 荒れ切ったあばら家、は静かに息を殺す。 膝を抱えてはじっと闇を見据えていた。 静かすぎる。 呼吸を闇にまぎれさせる。 息をするたびに膨らむ肺の気配さえ、わずらわしかった。 久々に直面した闇は、昔を思い起こさせる。 〜 第拾弐夜 Escape × Regrets 〜 『結局のところー・・・は奪っただけだったね?』 何も守れず、何も得られず、ただ、奪っただけだったね? 過去から声が聞こえた。 鞘に仕舞い込んだ愛刀に触れる。 (あたしは何から逃げているんだろう) ルピンか?鈴か?新撰組か?リョーマか?・・・それとも、過去から?自分から? かさ、と小さな音がして、びくりとの方が震える。 目の前には黒い猫。 金の目をした、真っ黒な猫だった。 『結局は、独りじゃないか』 くす、くす、と小さな笑い声。 猫は何も言わない。動かない。 月が、隠れる、暗闇が空間を支配した。 「・・・一睡もできなかった・・・」 は大きくうなだれた。 睨みあいを続けていた猫は、夜明けとともに去って行った。 真っ黒の、とても特徴があるとは言えない猫ではあったが、見覚えがあった。 鈴の猫だ。 これは自分を疲弊させるためなのか、だがそんな事をしても意味がない、 結局は何だったのか解決の糸口を見つけられないまま、は立ち上がる。 刻限まであと少しだ、ルピンたちがどんな手を使ってくるかは分からないが、とにかく動かねば。 チュン、とスズメが鳴き出す頃、はあばら家を出た。 新撰組に入る前、自分がどうやって生きてきたのか、あまり覚えがない。 夜を超える術も、感情を抑える術も、生きるために奪う術も、覚えてきたはずだ。 その時、どうすればいいかを考えたことなんてなかった。そうするしかなかったからだ。 「走るか」 でも後悔はしていない。弱くなった、強さを失ったとは思わない。 (だって、行くべきところが分かる) もう何も持っていないあの頃とは違うのだ。 『俺は何年も待ったからサ』 あなただけのわたしになった。 あなたの傍にいる、あなたの傍に行く。 この一日の出回りで得た情報は一切的を得ぬものばかりだった。 盗んでいるのは数十点の美術品。 人を殺したり、盗んだりするのはこれが初めてだった。 どこをねぐらにしてるのかも、どこから現れるかも、そしてどこに去っていくかも。 「でもよー新八」 隣に座った佐之が話を切り出した。 「今まで人をどうこうしてこなかった奴が、何でなんだろうな?」 「・・・さぁ?」 新八は団子を一つ、口に放り込んだ。 解せないのは誰もが同じだ。 (何故が?) 特別美人というわけでもないし。(山崎君の方がよほど美人に化けるし) 特別腕が立つというわけでもないし。(俺たちの方が強いのは決まってる) とすれば、自分たちが知り得ないことが、原因? そうなると、もう過去しかない。 だが、自分たちが知り得ないことをルピンたちが知っていると? (そんなこと有り得ない) 「・・・でも俺たちも、一緒だよねぇ・・・」 ぼそ、と新八は呟いた。 新撰組に来る前のの事を、よく知らなかった。 どういう経緯で新撰組に来たかとか、それまでどこでどうやって暮らしてきたかとか、 は言わなかったし、新八も聞かなかった。 語ろうとしない過去など、聞いても仕方のないことだからだ。 だが、何故年ごろの女が新撰組に? 土方さんなら知っているかとも思ったが、尋ねる気にはなれなかった。 (くだらない男の意地だ) の過去。 自分だって過去は語らない、なのに彼女のは知っていたい。 他の男が知っているのに、自分が知らないのが気に食わない。 ただの独占欲だ、過去を知らなくても人は愛せる。 だが、そのくだらない男の意地が足を引っ張る。 「どこ行くんだ?新八ィ」 「ちょっと外、出てくる」 新八は立ちあがると、部屋を出た。 外は良い天気だった、新八の気持ちとは裏腹に、晴れ渡っていた。 鴨川のほとりに腰掛けては、ぼんやりと川を眺めた。 静かに、川はせせらいでいた。 (、どこ行ったんだ?) 人一人消えて、尋常じゃないぐらい動揺している自分に気がつく。 いつの間に、がこんなに大きな存在になった? いつの間に、他人がこんなに大事になった? 「浮かない顔してどうしたが?」 「んー・・・?ちょっと悩み事・・・って、ェエ!?」 ばっと新八が顔を上げると、そこには思いもよらぬ人物がいた。 「おんしに、びっくちゃーんす!!・・・ぜよ☆」 次項。 〜 第拾参夜 駆引と取引 〜 ----------------------------------------------------------------------------- さてと!! やっと更新できましたー!! すみません遅くなって・・・っていうか、読んでくださってる方いるのか・・・。 よければわたし読んでるよーって方、パチパチしてやってください笑。 |