まっすぐに生きてきた。

自己満足、つまり、自分の生きたいように生きてきたのだ。
人に褒められるようなことなんて何ひとつしてないし、
どちらかと言えば己の信念のままに歩いている。
信念のままと言えば、聞こえはいいが、“正義”とかそんなきれいな言葉じゃない。
そうさ、自分の人生、人に語れるような話は全くない。


「あ、新八!」

その後ろ姿を見かけては声をかけた。
ぱぁ、と頬をほころばせてこちらを振り向く。
新八の人生の中で、唯一の色と言える存在。

「あのねぇ、今日ね、サトイモの煮っ転がしだよ!」
「本当に!旨そうだねぇ」

顔を緩ませたのは、もちろん新八だけではない。

「あったりまえだろ、新八ィ!ちゃんの料理は世界一なんだからよ!!」
「え〜照れるなぁ」
「チョット、佐之、料理知ってるぐらいでいい気にならないでくれる」

「何だと、新八!」なんて怒鳴ってる佐之を尻目に、新八はに「後でね」と小さく微笑んだ。

「あ、新八、これから何かあるの!?」
「…幹部会だヨ、行ってくる」

それ以上何も訊けないように、新八は背を向けた。
後ろから、「行ってらっしゃい」って聞こえたから、そのまま歩きだす。
だから、(そのあと彼女がどんな顔をしてるかなんて)知らないふりをし続ける。
彼女の隣は心地がよかった。
新八の厭がる事は絶対にしなかった。
過去、仕事の内容、触れられたくない、汚い部分はすべて“見ないふり”をしてくれる。
それが彼女にとって幸福であるとは思わない。
現に一緒に背負って行きたいとか、きっと、思われてると思う。

「そりゃできねー話だよな」
「何がだよ?」

隣にいた佐之が覗きこんだ。

「別に」

にこっと笑ってはこっちの話、と片付ける。
幹部会での伝達によれば、明日の明朝、御用改めがあるらしい。
日ごろ不逞浪士が夜な夜な出入りしているという宿屋に、討ち入る。
(あぁ、今夜も言えねぇな、)
ふぅと溜息をつく。
明日は死番が当たっている。
サトイモの煮っ転がしを最後の飯と思って食べるのが忍びない。
目の前に座すに、見えないように溜息をこぼした。

「明日何かあるの?」
「ん?別に、普通に出回りがあるだけだヨ」

そう言葉を濁す。
こんなにおいしい食事と、愛しい彼女に囲まれて、(俺は幸せ者過ぎる)
自分に幸せになる資格がないとか、そんな自己嫌悪に満足する人間ではなかった。
ただ、彼女にやんわりと言葉を濁すことしかできない自分には嫌悪を感じた。
でもそれはしょうがない、しょうがないことなんだと、自分を納得させる。

「新八、楽しそーじゃねぇの、ちゃんと味わって食えよー!もしかしたら最期の飯になるかもしれねーんだからな!!」

佐之の言葉に固まる。
新八だけじゃない、も同様に、ぽかんとしていた。
どういうこと?とゆっくりと視線を向けられるが、新八には答える言葉も見せる表情も思い浮かばなかった。
別に隠していたわけじゃないし、左之もいつものテンションで言っただけだ。
どちらがどう悪いとか、そういう事じゃない。
だけど新八が少し黙るだけで、事態は悪化していく。

「…あー…っと、ちゃん、明日こいつ死番当たってんだよ、」

どうやら雰囲気を察したのか、佐之が口を開いた。
の肩をぽんと叩く。

「ま、そういうことなんだ」

(何がそういうことなんだ!?)
新八はツッコミたい衝動を抑えつつ、ちらりとの様子をうかがった。
佐之はそそくさとその場を後にしていた。
俺たちにとってはいつもの冗談で済まされても、この子はそうじゃない。
自分の事みたいに心配して、気遣っては、…気持ちを閉じ込める。

、?」

箸を置いて覗きこむ、はそれで我に返ったのか、「明日朝早そうだね!」と笑った。

「…うん、」

(俺はズルイ)また自分は、知らないふりをした。
新八はの頬に手を伸ばす、触れる寸でのところで、ぴくり、と手が、止まる。
ここで躊躇っては駄目なことを、新八は知っているはずだった。

「…新八、」
「なに」
「…怖いの?」

じ、と見つめられた。
思わぬ言葉に面喰ったのだが、分かっている、と新八は視線を落とした。

「新八、」
「なに」
「…私の事、大事にしすぎだよ。私もう、子供じゃない。あなたの事、…少しでも、分かってるつもり」

「全部は分かってなくても、」と口ごもる。
新八は途中で止めた手を、そ、との頬に寄せた。

「そうだね、…怖くないよ」

言うと新八は穏やかに目を細めて、小さく微笑んだ。
が、言い過ぎた言葉を恥じらってか、雰囲気に照れてか、頬を染めては新八を見つめる。

怖くなどない、

覗きこむように口づけて、こつり、と額を合わせた。
討ち入りを怖いなんて思ったことなかった。
死ぬかもしれないなんて考えたことなかった。
死んだらどうなるかとか、自分がいない明日はどうなんだとか、そんなこと浮かびもしなかった。
それはそこに、遺していくものがなかったからなんだろう。
(もし、俺が明日死んだら、この子はどうなるのかな)
そう考えると、見つめていた視線が、下へ落ちる。

「新八」

何考えてるの?が、ぼそりと訊いた。

「怖がらないで」

私の事、怖がらないで。もっとまっすぐに見て。
そう彼女の目が言っている気がして、新八はもう一度、薄く笑った。

「…怖くない、だから―…も、俺を怖がらなくていいよ」

この子はきっと、自分に求めている言葉があるだろう。
それを声にしてしまえば、何かが壊れる事を、新八は知っていた。
守れない約束など、する方が悪い。
ただの、弱さ、だった。それを認める事はできなかったけど。

「明日は炊き込みご飯が食べたいな」

にこ、と笑んでは体を離す。

「新八、」
「なーに?」
「私、強いあなたが好き、でも今のあなたのほうがもっと、好き」

ざわ、と心が騒いだ。
聴けない言葉も、言えない言葉も、あるだろう。
それでも伝わる想いがあるだろう。
(俺はこれからも、見えないふりをしていく)
彼女もまた、そうしていく。
それでも愛しくて、たまらない。
だけど誓おう、


命の限り、君を、愛すと。
(離したりはしない、それだけは言えるよ)



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リハビリ中なり。
眠たすぎて何書いてんのか不明なところが・・・あります・・・。