【PEACE MAKER】   〜ビトウレンアイ〜



「烝〜?」

あたしは監察方、山崎烝の部屋の前で足を止めた。

返る筈の返事が無い。



はっは〜ん、さては寝てやがんな☆



あたしは意地悪く(何を失礼な!!)笑んだ。


「あれぇ〜?さんじゃないですか?

 どうしたんです、そんな気色悪い笑顔浮かべて。キモイですよ♪」



あんたヒドイよ…。涙。


爽やかな笑顔でそんな言葉吐くなよ…。


しかし、この黒い人に何を言っても無駄だ!!


「あ、沖田さんっ。(いつもに増して黒い)お褒めの言葉ありがとうございます」


ふふ、魔王・沖田の相手も慣れたものでしょ?


「あはは、褒めてるなんて、ヤだなァ。何違いしてるんですか?」


…あたしが甘かったか。


現実は厳しいものだね、お母さん。涙。


「ごめんなさい」

「?どうしたんです??」

おかしな人だなぁなんて微笑みながら、沖田さんは去っていった…。



あんたのが数百倍おかしいわっ!!←怖くて言えない。



いちいちあの人はあたしに絡んでくるんだよね…。

あの黒さに慣れるのに半年は費やしたよ…。

そしてあの様に言い返すまでに更に半年…。

あたしもまだまだだね。

そう、あたしはこの新撰組の“女隊士”。

隊士歴1年、

で、烝の彼女させてもらってマス☆★☆★



「さぁ〜て、烝の方はどうしよっかなぁ〜」


「俺が何やて?」


「ひぎょわ!!??」


急に障子戸が開いて、烝が姿を現した。


「…、お前煩いわ…」

「ごめん…寝てたの?」


沖田さんのせいで烝に怒られた。涙。


「あぁ…」

眠そうに頭をかきながら、烝はどうでもよさそうに言った。

そこまでは良い。

あたしは次の言葉に耳を疑った。



「すまん…今日はお前の相手しとれん、頼むから静かにしとってくれ」



“今日はお前の相手しとれん”


は!?


ちょっと、待って。


あたしは今何を聞いた?

て言うか、あたしの耳が腐っちゃったのかなー??

あはは。



そんな訳ねぇだろ。



?」

どないした?と首を傾げる烝に、あたしはただ茫然とするしかなかった。


今日は何の日だと思ってるのよ。


「約束…烝、約束、忘れちゃったの?」

「約束?」

怪訝に眉を寄せる烝に、あたしは更に茫然とするしかなかった。




『これからはどんな記念日も一緒に祝おうな』



って去年の烝の誕生日に約束したのに。

今日はあたしの誕生日。

女々しい事思ってる訳じゃない。

ただ、一緒にいれれば記念日も忘れてたって仏の心で許す。

だけど。

さっきのは。





何?





一緒にさえいれないわけ。


お互い非番で、今日はずっと一緒にいれると思ってたのに。


あたしはいつだって、烝と居たいのに。


烝はそうじゃないの?



「ほんなら、また後でな…」


そう言いながら烝は部屋に消えた。



うそ…。



「…哀れなさん、私と出かけませんか?」

「沖田さん…」

「誕生日に独りは寂しいでしょう?」

にこりと沖田さんが笑む。




初めてその笑顔が天使の様に見えました…。←末期。



「覚えててくれたんですか?」

「当たり前ですよォ」

「沖田さん…」


沖田さんと行こうかな…。


烝は約束忘れちゃってるし。


分からないよ、烝が。


歩き出した沖田さんの背を追うようにあたしは1歩踏み出した。


「待てや」


眠そうな声じゃなくて、いつもの凛とした烝の声。


「どこ行くんや?」

「烝!?何で…って、どこだって良いでしょ!!放っておいて!!」

「阿呆!放っておけるか!!折角の…」

烝が何か言いかけて、言い留まる。



「折角の作戦が台無し、ですねぇ」


沖田さんが続ける。



作戦?



「全く、あなた方を見ていると微笑ましくてつい意地悪したくなっちゃうんですよねェ」

くすくすと軽く笑って沖田さんは今度こそ去っていった…。


何がしたかったのかな。


「…烝?」

「う…何や」

「作戦って何」

「…」


出たよ、黙秘権。


「言え」

「…すまん、を悲しませるつもりはなかったんや。ただ…ちょっと驚かしたろ思って」

「何。じゃぁ約束とか」

「忘れるわけ無いやろ?」


ふっと困ったように笑うのは烝のくせ。


「な、によぉ…ひどいじゃない…」

「だから、すまんって。それにお前もお前やで?何で沖田さんについてくねん」

「…だって…」

「言い訳は聞かん」

「…ちょっと待ってよ、何かおかしくない?怒るべきなのはあたしでしょ?」


何であたしが怒られてんの!!


理不尽!不条理!



まゆなしっ!



「悪いのは烝なんだからねっ!!」

「はいはい、悪ぅございました」


ムカっ。


「もう知らない!!沖田さんのトコいこ!!」

「…ちょい待て。後生やから、沖田さんだけは止め」

「何よ、他の人なら良いって言うの?」

「…あかん」

烝が伏せ目がちに言う。


照れてるのかな。


その姿が可愛くてしょうがない。

そんなあたしは変でしょうか?




「全く、沖田さんのせえで計画が台無しや」



はぁ、と溜め息まじりに烝は呟く。


「で、計画って何だったワケ?」

「何でもあらへん、そや、これ」

手渡された物をあたしは見下ろす。

リンっと小さく鈴が鳴いた。

「…何、これ」

「見て分からんか?」

見て、って…何かは分かるけど。

「短刀なんて渡されても…切腹でもしろと?」


「アホ、それはお前の命奪うもんやない、お前の命、護るもんや」


呆れるように、しかしあの笑みを浮かべながら烝は続けた。


「俺がお前護ったる言いたいところやけど、隊士と監察じゃ行き届かんところもある。

 せやけど、もし危なくなってもその短刀が俺の変わりにお前を護ってくれる」


紅い紐に鈴のついた真新しい短刀。


あたしはただ、ボーっと短刀を見下ろす。

「…誕生日の贈り物に“短刀”なんて渡す人初めて聞いたわ」

やっと出てきた言葉はそんなのだった。

「!!…そうなんか!?」

ぷっ…。烝の驚く顔にあたしは思わず吹き出した。


「笑うなや!気持ちさえこもっとれば、何でもえぇんねん!」

「そ、そうね…」

笑いながらあたしは同意する。



不器用で、つたない行動、その全てが愛しくてしょうがない。


世間で言う恋人なんてそんな甘い関係じゃない。


そりゃちょっとは憧れるけど。


あたしには、“簪”より“この”短刀の方が綺麗に輝いて見えるから。




「誕生日、おめでとう」

「ありがとう」


「…これからも一緒に歩いて行こな?」

「当たり前でしょ」


生も死も、命さえも2人で。


恋愛関係。

あたし達は櫛や簪を贈られるような、そんな甘い関係じゃない。


けど、そんな甘い関係にも憧れる。


そう、そんな微糖恋愛(ビトウレンアイ)




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だから訛りがーッ!!
はぃ、誕生日おめでとうドリですw
未知さまへ。
感想くださいな〜ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー。