【PEACE MAKER】 〜例えばこんな逸話外伝〜
「沖田さんっ!!」
向こうからパタパタと走ってくるのはさっきまで鬼気迫る死合を繰り広げていた相手。
全くもって気色が悪い。
【 例えばこんな日常 沖田総司 】
総司は何とも言えないような表情をした。
に『沖田さん』などと呼ばれたのは何年振りだろうか?
「何ですか?」
「あのですねっ、ちょっとお買い物に付き合っていただけませんか?
…井上さんに大福を頼まれて…次隊務らしくて」
困りましたねぇと、苦笑いを浮かべながらは告げる。
『お買い物』 『付き合っていただけませんか?』 『井上さん』
「…」
呟いてみる。
すると、総司の沈黙に耐えかねてか、が口を開いた。
「やっぱり私おかしいですか…?本当に前の私がどんなだったとか覚えて、なくて…ごめんなさい…」
「あ、いえ、が謝る事なんて無いんですよ、元はと言えば私が無理矢理…」
そう、は全てを忘れたわけじゃなかった。
字の如く、人が変わったのだ。
喋り方から、性格がそっくりごっそり。
だから仕事の事とか、総司やその他の人の事とかは覚えてる。
「い、いえ、沖田さんは悪くなんかないですっ!私が意地になったりしなければこんな事には…」
ごめんなさいっ、とは深深と頭を下げる。
本当、可愛らしい方だ。
前の彼女を知らないならばそう思ってしまう。
勿論、前の彼女も美しかったけれど。
全く印象が違う。
「大福でしたよね、いつもの店で良いんですか?」
「は、はいっ!」
「では行きましょうか」
並んで歩く。
会話がない。
総司はこう言うのが最も苦手だ。
前のならば、このような事は無かったのに。
「沖田さん…」
「何です?」
「つまりませんか」
「…え?」
の思いがけない言葉に、総司は面食らった。
「私といても、つまりませんか」
「そんな事は無いですよ」
どんな形であれ、と出かけられた事は、総司にとっては嬉しい事。
言葉にした事は無いけれど、
狂おしいほど愛しくて、
壊してしまいたいほど求めてしまって、
その度に自分の身がどれほど血にまみれ汚れているかを思い知らされて、
だけどその血にまみれた手を握ってくれるを、
命の限り守りたい。
このある種の歪んだ想いが、総司の心をぐるぐると回っていた。
「私、帰りましょうか」
「え、どうしてです?」
「沖田さん、私といるのが不快そうですから…」
どうしてそんな事を思うんですか。
くるりとは向きを変えた。
「ま、待ってください!!」
総司は急いでその袖を掴む。
「そんな事無いですからっ…待ってください…すみません…」
「どうして沖田さんが謝るんですか…止めて下さい」
「時間が、無いんです」
ぽつり、と総司は呟いた。
「え?」
「時間が無いんです、惜しいんです、一瞬の間も」
「お、きたさん…どうしたんですか?」
の袖を掴んだまま、総司は俯く。
お願いですから。
今、私の顔を見ないで下さい。
「沖田さん…?」
怖いんです。
あなたは優しいから、私の事も全て背負い込んでしまうでしょう?
だけど、あなたはそんなに強くないから。
袖を掴んだ手を、温かな手が包まれる感覚。
「沖田さん、大丈夫です。私はずっとあなたの傍にいますから」
弾かれた様に総司は顔を上げた。
そこには優しく笑むの顔。
何も言っていないのに、には伝わってしまう。
「ごめんなさい…」
弱くて、ごめんなさい。
、臆病で、ごめんなさい。
「沖田さん、私早く元に戻れるように頑張りますね」
「ごめんなさい…、違うんです。
こんな弱い私、見られたくはなかった…」
「沖田さん…?」
「でも、上手くは言えませんが、あなたになら何でも言えそうです」
それは、『言えそう』ではなく『言ってしまいそう』なのだ。
総司にとってそれは絶対に避けたかった。
でも、全てを言って、楽にもなりたかった。
言った結末が楽になるかどうかも判らないのに。
「でも、沖田さん前に私におっしゃいましたよね。
全てを背負い込む事は無いと、少しぐらい周りを頼っても誰も文句は言わないと」
は一端言葉を切った。
「今、私はあなたにそっくりそのまま言い返しますよ、沖田さん。
あなたはそんなに強くないじゃないですか、私をもっと頼ってくれても良いんじゃないですか?」
総司は言葉に詰まった。
前のとは全く違う強さ。
前のを柳に例えるなら、今のは大樹の様。
さぞ自信たっぷりに笑っているかと思いきや、目の前の線は悲しげに笑っていた。
「私は沖田さんの力になりたいですよ…だって…私は沖田さんが好きだから」
「は…い?」
「私、沖田さんが好きなんです」
言いきって、は顔を真っ赤に染める。
「き、急に言われてもって感じですよね!すみませんっ!!」
「本当ですか…?」
「え…」
「本当ですか、それ」
がこくんと頷いた。
あぁ。
自分はなんて臆病だったんだろう。
「私もです、、あなたを愛しています」
ぱぁっとの表情が明るくなる。
しかしすぐに沈んだ顔に戻る。
「どうかしたんですか?」
その様子があまりにも深刻そうなので、総司の不安は大きくなる。
「でも、沖田さんが好きなのは前の私なのでは無いですか?」
な。
「なぁんだ、そんな事かァ!」
あっはっはっは、と総司は大きな声で笑った。
はきょとんとしている。
「今のも、昔のも、同じように愛してみせますから」
大丈夫ですよ、と総司は笑う。
安堵したようには笑った。
可愛い。
愛しい。
「さっき本当は、私はが元に戻った時記憶がなければ良いのに、と思っていました。
だけれど今は違います。
覚えていてもらわないと困りますよ?…」
どんなあなたでも、あなたはあなただから。
優しくて、強くて、だけど弱くて、太陽のような人。
。
私が花なら、あなたは太陽だと、前に言いましたよね。
今、その太陽が手に入りました。
闇が私たちを隔つ事の無いように。
次の日、はけろっと元に戻ってました。
「あ、総司おはよー!」
あまりの明るさに、ズルっと総司の肩袖がズレた。
「お、おはようございます、。大丈夫ですか…?」
「なぁに言ってんの??全然快調よ★」
思いっきり言うものだから、総司ははぁ、と珍しく溜め息をついた。
昨日の事なんて忘れてしまっているのかもしれない。
「あー、幸せ逃げちゃうぞ?」
「いいんですっ」
「なぁに拗ねてんのよ…あ、昨日があまりに幸せだったからその反動?」
「は?」
「は?じゃないわよ…忘れちゃったの?ひどぉい、泣いちゃう」
あたしを泣かせるなんて、ひどぉ〜い、とまたも嘘なきをする。
「覚えて、いるんですか?」
「当たり前じゃない、あたしがあんな総司を忘れる訳が無いでしょう?」
とびきりの笑顔。
「嬉しかった、あたしも大好きだよ。どんなあたしでも愛してくれるんでしょう?」
不意討ちだ。
頬に触れるだけのくちづけをされた。
が「あ、新八〜」と廊下の向こうに消える。
総司は惚けたまま、くちづけされた所に触れる。
「ははは…やっぱり、敵わないなァ…」
幸せ過ぎて、どうしようもないや。
素直で真っ白なあなたも、ちょっと影があって素直じゃないあなたも。
同じあなただから。
大好き、同じように。
嬉しい。
打ち明け所の無いこの想い、どうしたら良いだろうか?
「そうだ」
太陽の光を浴びたあとは、やっぱり水ですよねっ!
総司は土方の部屋へ足を向ける。
今日もこんな日常が始まる。
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総司ヴァージョンです。
如何でしょうか?苦笑。
楽しんでいただけたら幸いですが。
あたし自身も沖田さんが好きなので、やってやった!って感じですかネw笑。
勿論永倉さんも好きなんですがw
個人的解釈なのですが、沖田さんは本当に大切な人には自分の気持ちを打ち明けないような気がします。
それはとても切ないんですけど…PMの沖田さんにはそれが何と無く似合ってるっていうか…
大切にしたいからこそ、近づきたくない。
それは本当に歪んだ想いで、相手もつらいんでしょうけど…
闇が2人を別つ事の無い様に。