【PEACE MAKER】    〜例えばこんな逸話外伝〜




「永倉さ〜ん」


「なぁに??」


呼ばれて、何と無く振りかえって見たけど、本当に調子が狂う。

新八は読みかけていた本をパタンと閉じると、に向き直る。


「一緒に甘味処行きませんか?」


まるでなついてくる犬のよう、目を輝かせて尻尾を振ってる。


新八は何と無くげんなりした。




【 例えばこんな日常 永倉新八 】




「で?どこ行くノ?」

「こっちです〜」


そんなはしゃがなくても。


新八は後から付いていきながら、ふぅと息をついた。


「永倉さんってどうして非番なのに刀差してるんですか?」

「…へ?」

「沖田さんや原田さんは指してないのに」

「いや、それはネ…」


言い澱む。


新八は、決して自分の力量を測り間違えている訳でも過信している訳でもなかった。


刀を差していないと、不安になる。


俺は、佐之や総司とは違う。


体も小さいし、腕力には自信が無い。


刀を差していないと、何かあったときに何もできないんじゃないかと不安でしょうがなくなるんだ。


『新撰組 ニ番組長 永倉新八』


その名が持つ圧力を、新八は充分に知っていたし、


守らなければならないモノだって、ちゃんと持っていた。


だから。


刀は離せなかった。


刀なら誰にも負けないって自負してるし、他者から見てもそうだろう。


だけど不安だからだなんて、には言えない。


「刀はネ、俺の命だから」


「ふぅん…?」


そう言えば、平助に刀見てきてって頼まれてたんだっけ。


鍛冶屋ぐらい自分で行きなよ、武士の魂デショ、刀は。


全く。


ついでに寄っていこう。




「なぁに?」


くるりと振りかえる君。


前の君からは考えられない行動に、ちょっと可愛いナ、なんて思ってしまう。


「…永倉さん?」

「あ、ごめんネ、そこの店にちょっと寄ってもイイ?」

「はい!構いませんよ!」


イイ子だなァ…そんな風に思ってしまう。


店に入ってしばらく、主人と話してたら、道で大声。


「ちょっとぐらい付き合ってくれても良いんじゃねぇの!?」


「ちょ、本当に離して下さい!」


「生意気な事言ってんじゃねぇぞ!?」



何が起きたのサ!?


新八は店から顔を出すと、店先でが3人の男に囲まれてた。



何してんノ…。



は腕を掴まれて、ドンっと突き飛ばされた。




あんな相手イチコロでしょ!?何なすがままにされてんノ!!??




「げっ」


そうだった、は前のじゃない。


喋り方だけじゃなく、性格も変わっちゃってたんだ。


「オラ、立てよっ!」


ぐぃっと腕を掴まれ、立たされる。


やば…。


新八は駆け出すと、男の前に立ちはだかった。


「ちょっと、その手、離してくれる?」


刀に手をかけて、新八は睨み上げる。

勿論、相手のが背が高い。

を後ろに庇う。


ちっ、どいつもこいつも、木偶の棒みたいに。


「なんだ、てめぇ」


「離せって、言ってるのが聞こえないのカナ」


「こいつかぁ?女、お前の連れってよォ」


耳障りな下卑た声。


「この痣も、奴につけられたのかよっ」


ははっと嘲笑に似た笑い声。


新八の怒りは噴火寸前。



「あんたらじゃあるまいし、女に手を上げるような事はしない」

新八が言いきると、男もちょっとかちんときたようで。

「チビに用はねぇんだよっ!」

肩に手が掛けられ、押し退けられそうになる。


新八は瞬間に刀を抜き、相手の首元に付きつけた。




「聞こえなかった?」




胎の底から絞り出す。


「ひっ…な、何だてめぇっ!」


言葉に訛りは無い。

長人では無さそうだ。


「な、永倉さんっ!」


後ろのが小さく叫んだ。


分かってる。


右の死角から攻撃。


それぐらいの攻撃じゃぁ、俺はやれないヨ?


新八はそれをかわすと、スパっと相手の着物のを切り裂く。


「て、てめぇ、新撰組のっ!」


「ハーィ、永倉新八デス」


にこり、と笑って刀を向ける。


それで充分。


長人でなければ、かかってはこない。


京にいる限りでは、こんな不良青年に出遭っても斬りあいにはならない。



「大丈夫?

刀を終いながら言う。

「は、はい…」

そう言って、は差し伸べられた手をとった。

「すみません…」

「どうして謝るノ?」

「だって…永倉さんに迷惑かけちゃったし…」

シュンっと頭を垂れる

「そんな事無いヨ、。大丈夫大丈夫。行こう?」

ポンポンと頭を撫でて、新八はの手を握る。


「でも、本当にお怪我は無いですか?」


「それはこっちのセリフ。ヘーキ?」

「大丈夫です…前の私なら、こんな事にはならなかったんでしょうね…」

「まァそうだけど…そんな必要無いヨ…が危険な目に遭う必要なんて、ネ」


「永倉さん…?」




「大丈夫、どんなでもだから。いつだって守るヨ」




途端にの顔がかぁっと赤くなった。



可愛い…。



前のなら見られなかっただろう表情。



ふにゃっと頼りなく笑う君も、きりっと凛々しく笑みを浮かべる君も。



(俺はどちらのも、大好きなんだ)



素直にそんな事言え無い。


けど。



「行こうか」


差し伸べた手を、握り返してくれる。


そこから気持ちが伝わる。


「ありがとうございます…」


照れたようには言うけど、それさえもとてもこそばゆく感じるから。








次の日。


「新八…?」

「ん〜?なぁに、


って、ってば今『新八』って呼んだ!?


「戻ったノ!?」

「ん〜、戻ったって?」


悪戯っぽくは笑む。


この笑顔は…新八は嫌な予感を覚えた。



「かっこよかったなぁー、永倉さん」



何かを含むような、面白がってる声。


…それ以上俺をからかうと…どうなっても知らないよ?」


口だけ笑いの形に歪めて、新八はわざと言い放った。


「でも、本当かっこ良かった…」


今度は面白みを含まない言い方。


「それに嬉しかった」

「え?」

「あたし守られるタマじゃないけどさ、新八の背中すごく頼もしかった」


何急に言い出すのサ…。


「ありがとう…あたしなんかを守るって言ってくれて。嬉しかった。


 …あたしも、絶対にあなたを守る。


 大好き」


強いからふにゃっとした笑顔。


優しい、穏やかな笑み。



かぁっと耳が熱くなる。



「新八…?耳赤いよ」

「…」


だって。


仕方無いデショ。


「タヌキみたい…」





「何だって?」





全く…雰囲気もへったくれも無いんだから!!





「可愛いって事」


「褒め言葉には聞こえないケド?」


「愛しいって事」


そう言い放っては廊下を曲がっていった。






まぁったく。




あれは天然なのか、謀ってるのか。



どちらにしても、新八の幸せには、が必要らしい。



まだ人知れず火照っている耳を触って、新八は「敵わないなァ…」と呟いた。



こんな時は、本でも読んで幸せをかみしめようか?



独りほくそえみ、新八は本を手に取る。




「新八っつぁーん!」




見事に新八の幸せは邪魔された。


これはお仕置きだよね?平助、覚悟しときなヨ?


今日もこんな日常が始まる。







■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

新八ヴァージョンです。

どうでしょうかw

新八だけ二種もエンディングが…苦笑。

永倉さんはとても繊細な方だと思いマス。少なくとも、PMの永倉さんはw

原田さんのように感情的でもなく、藤堂さんのように素直でもない。

だけど根はすごく優しい人。

それ故に、『弱さ』や『強さ』に確固たる信念抱えてたりするのではないでしょうか。

弱音を誰にも吐かなかったりする所とか、刀を常に差してたりする所とか。

切ないっス。



何処までも行こう、2人なら何処へでも行ける。