【PEACE MAKER】    〜例えばこんな逸話外伝〜




「平助さーん」

後ろから呼びかけられて、平助はくるりと振りかえる。


三段跳びの要領でバッとに抱きついた。




「きゃぁぁあああああ!!!!!」







【例えばこんな日常  藤堂平助 】





キィ―――――ン。




  「っ!?」   「どうしたノ!?」   「ゴキブリ!!??」


屯所が揺れるほどの叫び声に、総司・新八・鉄などが集まってきた。

慌てて平助はから離れた。



「わぁああぁあ!な、な、何でも無いって!ちょっと滑って…」



みんな凄い形相だ。


特に新八と総司の怖い事…。




平助、今夜悪夢決定。




「嘘は良く無いですよ?藤堂さん…」


総司の眼の奥がギラっと光る。


「俺たちにウソが通じるとでも思ってるノ…?」


新八の眼もギランと光る。


怖ぁ…。


「ご、ごめんなさい、あたしちょっと驚いて…」

がシドロモドロになりながら顔の前で手を振る。

その顔が真っ赤になってるのを、平助はちゃんと見た。


…新鮮な反応…。


前のではこんな事は無かった。

抱き付いても、流されるかかわされるかされるだけで。


「何でもないんですっ、ごめんなさい〜〜〜」


はペコリと頭を下げる。

それで総司と新八は渋々去っていった。

絶対納得してなさそうだが…。


「ごめんね、


あんなに驚くとは思わなかった。


「い、いえ…大丈夫です」


あたしってば大袈裟ですよね、と苦笑いを浮かべる


その様子がやっぱり新鮮で、平助は満足げに笑う。


「うん、今日も変わらず可愛い」


「へ…?あ、ありがとうございますっ」


照れた顔も、困った様な笑顔も、真っ赤な顔も、どれも前のには無かったそれ。


「あ、忘れてましたっ、あの、蔵の掃除を手伝っていただきたいのですが…」

「掃除?良いよ〜、俺そういうの得意だし〜」


平助は快く引き受ける。


だっての頼みだし♪と乗り気だ。


そう、あの紛れも無いの頼みだ。


「うわっ、すっごい埃…」


忌々しげに平助は眉を止せる。


「頑張りましょう!」


よしっと張り切って袖をまくるは、何とも初々しい。


可愛いなぁ…。


本当に。

前のも勿論綺麗だったけれど。




今のは、冷たく笑う事はない。


血に手を染める事も。


そして恐らくは、独り孤独を感じる事も。




「平助さ〜ん、手動かしてくださ〜い」

「あ、ごめんごめん」


何やら訳の分からない書物が沢山あった。


しかし、そんな物でも平助の知的好奇心は掻き立てられた。


「わっ、これ読みたかったんだよね!」


手に取った、某の句集を見て平助は目を輝かせた。


「平助さ〜ん?」

「ごめんって!あ、これも!!」


漫才三人組と言われていても、平助は教養もある方だ。


そんな事を言ったら新八や佐之に笑われるだろうけど。



そんなこんなで掃除は結構な時間を要した。



「終わったねぇ〜、本当つっかれたぁ〜」

「ありがとうございます、手伝っていただいて…」


忙しく、はペコリと頭を下げる。


その髪に、埃。


「あ、、ちょっと待って」

「え?」

「埃、付いてる」


平助はに近づいて埃を取ってやる。



ふわり。



甘い、良い香りがから香った。


抱き付いていた自分だから分かる。


いつもの、の香りだ。


「平助さん?」


だけど、呼ぶのはいつものじゃない。


顔を上げたと目が合う。



綺麗な白い指が、平助の額に伸びた。



「どうしたの?」



「…痛いですか?」


恐る恐る、は平助の額の傷に触れた。


それは、池田屋の時に斬られた傷。


ひんやりと、しかし温かい感覚が伝わる。


「痛くないよ」

「ウソ」

「いや、本当だって」

「でも痛そう」


何で泣きそうな顔してんのさ、ってば。


平助は混乱した。


だって怪我したでしょ?」

「…えぇ」

「…痛い?」

「…痛くない」

「一緒だよ」


、君が君自身の傷が痛まないというのなら。


「何で泣きそうなんですか?」


の問いに、平助はギョッとした。


「いや、それはでしょ?」

「平助さん、すごく切なそう」

「…俺、そんな性じゃないんだけど」

「でも、平助さんはとても優しいと思います」


日は半分傾いて、蔵に入ってくる光は頼りない。


殆ど薄暗い。


平助の額から、の手が離れる。


「本当は」


はポツリと呟くように切り出した。


「本当は、痛いんです。まだ、胸の奥が軋むように…

 人を斬った事、本当はすごく後悔してたりするんです…バカ、みたいですよね…」


泣きそうに、か細くなっていくの言葉。


頼りない、そんな声を聞いているうちに平助は何とも言えない想いに捕らわれた。



「…っ平助さん?」



一瞬強張ったの体を、優しく抱きしめる。


いつものように抱きつく、ではなく、もっと真摯に。


「ごめん…」


謝る事しかできなくて。


君が触れてくれた時、そこから優しさが伝わって、とても穏やかになれたから。


それを今、君にしてあげられるとしたら、これしか思い浮かばなかったんだ。



ふわり、との香りが平助の全身に広がったような気がした。



そのまま、は静かに泣いた。







翌日。


「ッッッ!平助ェ――――!!」


昨日蔵で見つけた本を読んでいた平助の部屋に、突然が乱入してきた。


「な、何事!?」


「き、昨日の事は、誰にも、言わないでッ!」


昨日?

平助はワザと首を傾げる。


「あぁ、俺の胸で泣いちゃった事?」


あはは、と能天気に笑って平助は禁句を言い放った。





「…黙れェ――――!!!」




「ギャ―――!!、落ちついて!!」


「もう、平助なんて知らないっ!」

ぷぃっと顔を背けるが、いつもより愛しく感じる。



「でもさ、俺は嬉しかったよ」


一端言葉を切って、本を机に置く。




が、俺に弱音吐いてくれて。嬉しかったよ」




こっちを向いて。



平助はの腕を取り、振り向かせる。



、君は俺に強がってばっかり。


 浪士に襲われて怪我した時も。


 池田屋の出陣前も。


 今も。


 ねェ、


 俺には本当のを見せて?


 強いも、弱いも、全部受け止めてあげるから」



ねぇ、、聞いてる?





「大好きだから」





平助が言い終わると、トンっとが平助の胸に顔をうずめた。





「ありがと…」



照れた顔を見られたくないらしい。




やっぱりそれは頼りなくて、どうしようもなく愛しくて。




平助はをぎゅーっと抱きしめた。


いつものの香り。




そして、いつもの



また、こんな日常が始まる。









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平助ヴァージョンです。

むずっ。

平助はそれに尽きますw

等堂さんの場合、愛情表現が素直な分、あたしには書きづらいデスw苦笑。

ハイ。

藤堂さんと付き合ったら、ずーっとイチャイチャしてんだろうなぁ…笑。

「たといつ」でも藤堂さんとの絡みはバカばっかやってた気が…w

でもそんな藤堂さんが好きなんですよ、あたしってばw



温もりを感じ合えるから、いつも2人でいたいね。