【PEACE MAKER】    〜例えばこんな逸話外伝〜





「山崎さん!」

「何や、か。どないした?」


何や、と言った割に、驚いた表情もなにもない烝。


パタパタと走り寄ってくる…と、次の瞬間。




ズデン!!




こ、コケた―――――!!!!








【例えばこんな日常  山崎烝 】



前のめりになって、は派手にコケた。


「だ、大丈夫か?」


急いで走りより、を起こす。


「痛い…」


半泣きの


前のからは考えられない。





「どんくさい奴やなぁ…」





烝は思わず呟く。


「だってぇ〜…」


目に涙を浮かべて、は肩をさする。


「打ったんか?」


こくん、と頷くもんだから、烝はまた頭を捻る。





どうやったら前にコケて肩打つんや…?





神秘だ、ある意味。



「ったく、ちょぉ見せ…」



そう言われ、は渋々肩を見せる。


何恥ずかしがっとんねん、今更。


そう、今更だ。


以前、烝はの横腹の切り傷を治療した事もあるので裸は見た。


も取り立てて拒否(してなかったよな…?)しなかったので、


気まずくもならなかったのだが。


肩を見せるだけで、赤面されちゃぁこちらも気にせずにはいられない。


烝はやりにくさを感じ、の手を引いて部屋へ向かう。



「入り、手当てしたるから」


何やら得体の知れない物が詰まった箱を取り出して、烝はに座るよう言う。


「肩」


赤くなっているところに触ると、びくっと震えた。


「そんな怖がんな、何もせぇへんから」


いつもなら、ここで小憎たらしい言葉が返って来る所だが、今日は違う。


「す、すみません…」


謝られても困る。


本当に調子が狂う。


烝は黙り込んで、手当てを着々と進めた。


その間、はずっと俯いたままで、何も言わなかった。



新八たちには聞かされていたが、こんなにもやりにくいものだとは思っていなかった。

人が変わる、ってこんな事なんだ、と納得したりもしてしまった。



「これでまぁ何とかなるやろ」


粗方の手当てを終え、烝はやっと口を開いた。


「ありがとうございます」

「…構わん。これからは気ィ付け」

「はい…」


はぁ、と小さな溜め息。



「幸せ逃げちゃいますよ?」



その言葉に、烝はバッと顔を上げると、それに驚いてか、は目を見張った。


言い回しや声はそっくりなのに、全然違うものだな、とちょっとイラついた。


本当に、性格が変わってしもたんやな。


「幸せか…」


前のの方が楽やったな、と思う。


今のも、なのだが、やっぱり違う。


あのの性格でなくなったなら、もうそれはではない。


別の人間だ。


「俺の幸せにはあいつが必要やってんけどなぁ…」


試しに呟いてみる。

しかしはきょとっとしたまま、小首を傾げた。

何とか治らない物だろうか、自分のかじった程度の医学知識を動員して考えるが無駄だった。


歳が近いせいか、冗談ばかり言い合っていた頃を懐かしく思い出す。




もっと、ちゃんと伝えておけば良かった。



色々と。




「山崎さん?」

「あ、何??」

「手当て、ありがとうございましたっ」


大袈裟に頭を下げられる。


そんな懸命な姿を見ると、なんかイラだってたのが阿呆らしくなってきた。


「構わへんって」


苦笑にも近い笑みが込み上げてきた。


それを見て、は。


「山崎さん笑ったぁ……何かすごく嬉しいかも…」


そりゃ笑わん人間なんてただの人形や、と考えるが今日は口には出さない。


嬉しい、と言っては本当に嬉しそうに笑っている。


そんな健気なに、愛しさが込み上げてくる。


を抱き寄せて、烝は耳元で呟く。





「俺も、の笑顔見れて幸せや―――…」





それが厭にはっきり自分の耳にも残った。



でも、本当の事なんやで?


冗談なんかやないから。


日常の何気ないやりとりが、とても愛しく感じんねん。



はかぁっと顔を赤くして、耳を押さえてる。




新鮮な反応。



照れられると、こっちも照れる。

烝はから体を離す。




「私は…とても幸せ者ですね…」



ほぅっと息をついて、は言った。


「ありがとうございます」


にこりと、満面の笑み。


かぁっと烝は体温の上昇を覚えた。



何て顔すんねん。



必殺笑顔やん。



可愛すぎて、いてもたってもいられない。



「きゃ」



烝はを抱きしめる。


やっぱりは驚いて小さく叫んだけど、ぎゅっと背中に感触。


返してくれる。




「絶対離さへんから」




誓うよ、今度は亡くさないって。


は言ってくれたから。


『生き残りなさい』


姉上の伝言。


いつも言っていた。




大切なモノは守らないといけない。




烝はそのままを押し倒す。


腕の中の温もりが消えない内に、全てを。



「ちょ、ちょっと山崎さん!何するんですか!」


「厭か?」


「厭とか…そういう問題では無くて…」


激しく頭を振って、拒絶される。


無理矢理って言うのも、烝の信条に反する。


仕方無い、烝は渋々との上からどく。



「ごめんなさい…」

「俺の方こそすまんかった。せやけど、これが俺の素直な行動やから」


「…」


かぁっとが赤面する。


「やっぱりあたしは一番の幸せ者です…」


言いながら、は部屋から逃げるように出ていった。













「すーっすむ♪」

げんなり、と烝は肩で息をつく。


戻ったみたいやな…。


、もう肩は平気か?」

「うん、ありがと♪


 …それより、烝ってば案外積極的なんだね★」


悪戯っぽい笑みと共に、は言った。


それにちょっと烝はムカっとする。


「あんなにあたしには興味無いって言ってたのにぃ〜」



「な、何やねん!えぇやろ…別に」


烝は顔をしかめて言い放つ。


「うん、良いよ」


「あ?」


「ガラ悪いよ、烝ってば〜。でも、本当よ」


が目を伏せる。

そして、ゆっくり瞬き。


「烝ってば、あたしに全然興味無さそうだったから…


 怪我を手当てしてくれる時も、二人で屋根に昇った時も。


 あたしはすごくドキドキしたのに」









、お前は本当に気付いてなかったんか?」


「は?」


「俺は、ずっとお前を見とったんやで?いつも、いつも、お前だけを見てた。


 姉上が死んだ時、初めてお前が見えなくなった」


本当に、目の前がかすんで歪んだ。


だけどその時、が現れた。


「それでもお前は俺の前に現れて、傍にいた。


 周りはかすんでたけど、お前だけははっきり見えてたんやで?


 この意味、分かるか?」


満足そうに、は笑む。


自信満々なお前は見なれたわ。


だけどそれはいつものお前で。


それが妙に嬉しくて。



、お前が特別なんや、も俺が特別になればえぇ」





「そうね…ずっと烝があたしだけを見ていてくれるなら、考えても良いわ」



そうお前は言うけど。


言って、烝の横を通り過ぎ、振り向かずに一言。



「あたしにはずっと前から、烝、あんたが特別に見えてたわよ」



烝はを振りかえる事もできずに、茫然としていた。


そして、しばらくしてにやっと不敵に笑う。





こんな日常が始まる。






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烝ヴァージョン。

なんかすごく違和感がw苦笑。

山崎さんはとても自分に素直な方だと思いマス。

それを上手く表現する方法が見つからなくて、直球になっちゃうんじゃないかなぁ。

不器用で、だけどとてもクールな人。

終わったなぁ、外伝もw

感想お待ちしてますヨ?

こなかったらやる気無くしちゃうんですからw笑。

今度は鋼を書かなきゃなァと、思案中。



2人の視線がぶつかるのは、お互いに見てるからだよ。