【PEACE MAKER】




「ぎゃーーーー!」

大凡、昼下がりの新撰組屯所内では珍しい女の叫び声が1つ。

主は分かりきっている。


「新ちゃん、助けてぇ!!」

駆け寄ってくる彼女の姿に、新八は目を見張った。

「な、ナニゴト!?」

言ってみて何だが、新八には心当たりがある。


「ま、待ってって!!」


その“心当たり”が、彼女の後ろからついてきた。


「あー!!また新八っつぁんに泣き付いて!!」




「聴いて、新ちゃん!!平ちゃんがあたしに“せくはら”してくるの!!」

「“せくはら”って何サ…」

「性的嫌がらせ!!」


「は?」


何処で覚えたんだ、と呆れる新八をよそに平助はそれどころではない。


「何が嫌がらせだ!」


「…平助、今度は何」

新八が溜息混じりに尋ねると、平助は関を切ったように口を開いた。



「それがさ、聴いてよ、新八っつぁん!」

「ン、聴いてるから、早く本題に入って」

「ガン!俺の話、すべて聴いてよ、新八っつぁんよー!」

「それ以上前置き長いと、俺行くヨ?」

「ゴメン、聴いてください、新八様!!」


新八に泣き付きながら、平助はチラリ、と彼女の方を見た。


びくっと、肩を震わせて、新八の背の後ろに隠れている。

小柄な新八の背に、隠れてしまうほどの彼女。


「で、何」

「それがさ、ちゃんが俺と手、繋いでくんねーんだ!!」

「そんな事か」

馬鹿らしい、そんな表情で新八は平助の訴えを流した。

「何、そんな事かって何!!」

「そんな事、じゃない?」

しれっと返す新八に、平助は意味もなく苛々とする。


ちゃんもちゃんだよ、何で俺とはつなげないのに、新八っつぁんとは繋ぐのさ!?」


そう、彼女の名前は、平助の…俗に言う“特定の女”って奴。


その彼女は平助とまだ、手をつながないらしい。

でも今、その手は…新八の手をひしっと握っているのだ。

平助の機嫌を損ねるには充分だ。


チャン、何で平助と手繋がないノ?」


新八の優しい声が、平助の神経を逆なでする。


「だって…」

「だって?」



「平ちゃんの手、汚いんだもん」



「「は?」」


平助と新八は声を合わせ、平助の手を見下ろした。


「綺麗、だよ?」


きょとん、とする新八と平助に向かって、はぽつりと言った。


「汚いもん」

「何で?」







「血で」







シ―――――――――ン…。







チャン、冗談にしちゃ黒過ぎるヨ!!!!!」





ずーん、と床割りかねないほどに沈む平助に気を使いつつ、新八はつっこむ。



「分かったよ、俺もう行くし」


踵を返す平助に、新八は慌てて口を開く。


チャン、冗談だよネ。ネ?」


新八が慌てるなんて珍しい、平助はフと立ち止まって聞き耳を立てた。


「本当だもん」


消え入りそうな声、だけどたしかに平助は聴いた。


(何で?)


何で。

その言葉は、平助の口から、出てこなかった。

何で?

その答えを聴いてしまえば、すべてが壊れると思った。


「平助?」

「新八っつぁんなんか大嫌いだ――――――!!!!」

「な、何―――!!??」


平助は脱兎の如くその場を去った。


何で。


「何で」

呟く声が、自分に染みた。

自分の方が、近い位置にいるはずなのに遠い。

本当はは新八を好きなんじゃないかって、時々思う。


彼女は平助が触れるたび、怯えた表情をするし、驚きもする。

自分から触ってくることなんて滅多にない。


信じてない訳じゃない、ただ、不安になる。


「何で、俺じゃないんだろ…」



「何が、俺じゃないって?」



フとした呟きに返されて、平助はビクッと固まった。

「し、新八っつぁん…」

恐る恐る振り向くと、そこにはあの新八が。

「行けヨ、平助。何いじけてンだ、らしくねーぞ」

「だって、あんな事言われたら…!」

「照れ隠しだろ、ガキじゃないんだから、察しろヨ」

やれやれ、と新八は言うけど。

(新八っつぁんに比べれば、俺はガキですよーだ)

言われるがまま、平助は来た道を戻る。


「平ちゃん…」


はまた怯えた目で、平助を見る。


ちゃん、俺等「平ちゃん…!」


遮られるようにして、呼ばれた名。


次の言葉を待つ平助の耳に、の声が届いた。



「ごめ、ごめんなさい!!」



「何で」

謝るの、それも、平助の喉を通ってはくれなかった。



「違うのー…違うのよ」


「何が?」


「平ちゃん、ごめんなさい―――…!」


「ぇ、え?」


平助には理解できない、頭が追いつかない。


「平ちゃんだから、手、握れなかったの」


泣きの嗚咽を含む、声。





「どうして?どうして俺だけダメなの?」




「…」

答えようとしないに少々ごうを煮やしつつも、平助は言葉を待つ。


「平ちゃんだから、駄目なのよ」


苦笑と、嗚咽が混じった声音。


「意識、してしまって」


と、いう事は。


(別に俺の事が嫌いなんじゃなくて)



「あなただから、照れて…身動きとれなくなってしまうの」



すきだから、握れなかった。


怖くて、握れなかった。




「か」




かの次に出てくる言葉なんて決まってるでしょ?



「可愛いッ!!!」


勢いに任せて抱きついた。


ひゃぁっと驚きつつもはすっぽりと平助の腕の中に納まった。


かなり照れ屋で、素直じゃない君。

だけどどうしようもなく、愛おしいんだ。


些細な事で拒絶されただけで凹んじまうくらい。


、ねぇ、手を繋ごう」


平助は笑顔で手を差し出す。


「…」


無言で俯きつつもはその手を取る。




そんな後ろ姿を見ながら、新八は呟く。


3日に1回は同じ喧嘩して、仲直りして、あいつ等はいつ学習すんのかねェ」







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これ、また微妙だネ!!

久しぶりの更新がこれかい、みたいな?

申し訳無いです…更新が滞っていて!!

休みにまとめてやるつもりが、暇が無くて!

でもちゃんとやるので!!

こんなもんですみません、いつもお世話になってます…蒼月さま。

ありがとうございました。