【PEACE MAKER】









「総司ィ―――――!!!!」






バシ――――ン、と盛大な音を立てて部屋の襖が開いた。





「「………」」





部屋に居たあたしと音の主、土方さんの目が合う。


「じゃ、邪魔したな…」


額を押さえ、相当参っている様子の彼にあたしはポカンとするばかり。

土方さんは振り向くと、呟くように言った。

…総司を「見てません」…だろうな…」




見ていたらあたしが放っておく訳無いでしょう!!



そんな楽しそうな事。

あたしは新撰組にあずけられている。

…江戸から、土方さんに呼び出されて。



「見かけたら俺に言いに…いや、何もするな!

「土方さん、何かあったんですか?」

「…何でも無い。総司の野郎…」


ゆらり、と立ち上がる土方さん。


一体何があったと言うのか?


訊ねる間もなく、彼は部屋を後にした。


サン、サン」


何故か、上から声。


見上げると、ダランと天井から髪の毛




「うぎゃぁああぁぁああぁああああ!!!!」




あまりにホラーな状況にあたしは叫び声を上げた。



サン、私ですって、私!!」

「お、沖田さん!?驚かさないでくださいよ!!」

未だ早鐘のように波打つ胸を押さえつつ、あたしは言い放った。

「土方サン、行っちゃいました!?」

「え?あぁ、行きましたけど…なにしてんです、そんなトコで…」

「いやぁ、土方サンから逃げていたら丁度頭上を山崎サンが通過中でして…」

「一体何をしでかしたんです、今度は…」


あたしは興味本位で訊ねてみる。


「ちょっと、コレ、拝借してきちゃいましたので、それで」


くすくす、と沖田さんは一つの冊子を出す。

「何です?コレ…」

あたしは差し出されたものを受け取ってみる。


「土方サンの趣味の世界が広がってますよ」


ぷふっと沖田さんが噴出すものだから、訳も分からずあたしは冊子を開いてみる。


「…『しれば迷ひ しなければ迷はぬ 恋の道』…なにコレ」


眉を寄せてみる。





「朗読すんな――――!!!」





バシーンと再び乱暴に開けられた襖。


…と言うか、襖の跡形なくなっています。




修羅の顔をした土方さんが部屋に飛び込んできた。



「そ、総司…いい加減にしろよ…」


「わァ、土方サン。凄いですねぇ、朗読しただけで分かっちゃうなんて」

パチパチ、と呑気に沖田さんが言う。

「今日と言う今日は許さねぇ…早く返しやがれッッッ!!」

槍を片手に土方さんは沖田さんに詰め寄る。

「やだなァ、土方サン。私は持ってませんよ♪」

「…誰が持ってやがる…」


沖田さんの視線があたしに向く。


修羅の顔した土方さんもこちらを向いた。


〜?」


「な、沖田さん!?」

「逃げますよ、サンっ!」

笑いながらあたしの手を取り、沖田さんは部屋から出る。

『人の世の ものとは見えず 梅の花』〜〜〜」

逃げつつ沖田さんがまたも諳んじる。



「総司ィ〜〜〜〜〜〜!!!!」



「アハハ、土方サンそんな慌てなくてもいいじゃないですかァ〜」

ッ!それを返せぇ〜!!」

「土方さん、どうしたんですか!?これそんなにも恥ずかしいものなんですか!?」

「ッッッ黙れェ―――――!!」


土方さんが伝説の韋駄天走りで追いかけてくる。

正直、怖い。


「て言うか、土方さんご乱心?」

サン、他人事じゃありませんよ〜?」

「この際だしからかってしまいましょう!」

「アハハ、さすがサン!!」

さすが、と言いたいのはあたしの方だ。

土方さんは必死の形相で追いかけてくる。

「これ見てくださいよ、サン」

「ぇ、どれです?」





「「ぷっ」」





声をそろえて笑い出すと、土方さんの怒号が聞こえた。


「てめぇ等、笑うんじゃねぇ――――!!!」

「良いじゃないですか、土方さーん。あたし土方さんの句好きですよ?…面白くて」




、黙れ――――!!!」




逃げていると、前から一番隊の隊士さんがやってきた。


「沖田隊長!巡察の時間ですよ!」


その言葉により、土方さんと沖田さんの追いかけっこは突如として終わった。



「よくもやってくれたな、…」

「ひぃ!土方さん、そんな心狭い事言わないでくださいよ…」

「これでも俺の寛大な心で言ってやってんだ…」

土方さんに詰め寄られ、あたしは苦笑する。

「ったく…二度とすんじゃねぇぞ!!」

何がそんなに見られたくないのか。


あたしは首を捻る。


その夜。



「土方サン、今日は激しかったなァ」

夕食の席。

くすくす、と沖田さんがあたしの横に来て言った。


ェ。



あたしは怪訝に眉を寄せた。


「あ、サン、今激しく勘違いしたでしょう?違いますよ?

 私が言っているのは昼の土方サンの韋駄天走りです」

「…?」

あたしがきょとんとしていると、沖田さんが話を進めた。


「コレ、無かったからだと思うんですよ」


そういって差し出したのは土方さんの句集と同じような冊子。







「それはですねぇ〜…幻の第零巻なんですよ」







「幻の第零巻?」

きょと、と言いつつ、あたしは冊子をめくる。

書き連ねてあるのはどうやら俳句のようだ。


「はい。裏豊玉発句集です!」


…何コレ。


「見ての通り、恋の歌ばかりですね」

くすくす、と沖田さんは笑う。

「きっと、それをサンに見られたと思ったんですよ」

やっぱり相手の事を慕って詠んだ句を読まれるのは気恥ずかしいでしょう?

と、沖田さんは口元に人差し指を寄せ笑う。


「え?」


それは一体何の事です?と訊ねようとするも叶わず。



「そ、総司ッッッ!!」


「あ、土方サーン」

「まさか…、アレを見せたのか!?」

「アレを見せました★」

「そ!!!」


わなわなと震える土方さんを尻目に沖田さんは超笑顔。


「さっさと告白したらどうなんですか、土方サン。肝心な所で奥手なんですから〜」


「………」


あたしは全く言っている意味が分からない。

「それじゃ、私は消えますねぇ〜。ドロン★

そう言ったかと思うと、沖田さんは席を外した。



土方さんは黙って、何も言わない。


「これ、誰にあてた歌なんですか?」


痺れを切らしてあたしが切り出す。


「………言わすのか、それを、俺に」


何を言ってるのか、この人は。


当たり前です、と言うようにあたしは頷く。


「お前だよッ!」


小さいが、確かに。


照れながら、確かに。




恋の道  しれば迷うぞ  君共に













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サテ、キリリク…ですが。

土方さんの句集を総司くんと一緒にからかう、と言う土方サン夢

むっずかしかったっす!

無い文才しぼって頑張った…これが限界だ!(黙れ)

遅くなってしまって申し訳ございません。

斬り番ゲッター、華音さまへ捧ぐ。

有難う御座いました!