【PEACE MAKER】





「総司くん」


後ろから声をかけられて、私は振り返った。


「ハイ、何でしょう、さん」


やんわりと微笑むと、彼女もにへらと笑った。


「飴あげる」


どうぞーと差し出されたソレを素直に受け取る。


「有難う御座います♪」


隊務の後、決まって彼女は私に飴を渡してくる。

この動作に何か意味があるのだろうか。

いや、彼女が繰り返すのだから意味はあるのだろう。




「そうそう、これから皆さん誘って雪合戦でもしようかと思っているのですが、

 さんもどうですか?」




昨晩から降り注いだ雪が結構積もって、丁度良い深さになっている。


「こ、この寒い中ですか!?」


さんは驚いたように大きな目をさらに見開いた。


さん、寒いの苦手でしたか?」

「…えぇ、まぁ…」

「だーから、チャンは俺と部屋で観戦組」


急な声に振り向くと、柱にもたれかかった永倉さんがこちらを見ていた。

…出たな腹黒化け狸。

私はかすかにだが、苦々しく眉を寄せる。


「あ、永倉さん。いらしたんですか?」

「いたよー、そりゃもうずっと前からいましたヨー」


くすくす、と何か含むような独特な笑みを湛えて永倉さんはこちらに寄ってくる。


「ね、チャン、暖かい部屋で俺とみかんでも食べようよ」

「ずりーぜ、新八っつぁん!俺も総司と雪合戦やるんだから、やれよ!!」

「お!?どっから現れた、お前」


笑いながら永倉さんと平助さんが言い合いを始めた。

それをくすくすと可愛く笑ってさんが見てる。

私は心の中で平助さんを応援中。


「寒いのやだ」

「何、狸も冬眠する生物だっけ」

「天誅!!」


禁句を言った平助さんの頭にハリセンが命中。


やっぱり平助さんでは役不足だったようです。


「てな訳でサ、どう?」


「ん〜…でも」


「外寒いし、しもやけとかになったらヤでショ?」


話題が部屋でお茶から雪合戦否定に変わってる。

恐ろしい、永倉さんの笑顔の話術。


「永倉サン、そんな年寄りくさい事言ってないでどうですか、一緒に」

「総司、それ本気で言ってる?」


にこやかに続ける。


「うぉ!?何、寒い、寒いよここ!!ちゃん、逃げよう!!」


そう言って彼女の手を引こうとする平助さんに、サイゾーとハリセンが飛んだのは言うまでもない。

本日二度目の撃沈。

厄介なのに捕まってしまったな、と私は心中で溜息をついた。

確かに前々からさんへ好意を寄せているひとが多く居ることは知っていたが、

ここまで積極的にしてくるとは思わなかった。

でも。



自分もどうしても譲れない。




「ん…ご免なさい、永倉さん。私雪合戦したいんで」




「「え?」」



間抜けな声が出た。

こんな声久しぶりに出したもんだな、と自分でも思うぐらい。


チャン、それ本気?」


じぃっと永倉さんがさんを見つめる。


「はい」


真っ直ぐに彼女は肯定した。

それが、とても嬉しかった。

別に、彼女が自分に振り向いてくれた訳でもないのに。


「しょうがないねぇ、知らないヨ?」


永倉さんは溜息をついて踵を返した。


「なーにが知らないんでしょうねぇ」


くすくす、と笑ってさんは言う。


「でもよろしかったんですか?」

「はい?」

「雪合戦」

「…何ですか、総司くんってば誘っておいて」

「わ、そういう意味ではっ」


外には既に近所の子供達やらが集まっている。


「じゃぁ行きましょう?」


さんが私の手を引いて、外に出た。


「わ、さむっ!」

「これしててください」


そう言い私はしていた襟巻きを彼女の首に巻いた。


「あ、有難う。でも総司くんが」

「私なら平気です。こうして髪でも巻いておきますよ」


ぐるぐると長い髪を首に巻いてみせる。

そうしたらプ、と噴出し音。


「あはは、総司くんそれお化けみたいよ!」


珍しく声を上げて笑う彼女に私は呆然とした。

勿論それは…嬉しい驚き。


可愛いな、ぐらいじゃないもっともっと大きな感情。


「宗次郎〜!」


雪ん子たちがやってきました。(何その適当な説明)


「はい、何でしょう?」

「するんでしょ、雪合戦!!」

「しましょう、お姉さんもやってくれるそうですよ?」


目を輝かせて喜ぶ子供達にさんも笑みを漏らす。

彼女は優しい。


「宗次郎のコレかぁ〜?」

「な、そんなんじゃありませんよォ〜!!」


ニヤニヤして小指を立てる子供の問いかけにも照れてしまう。

いつもの私なら簡単に誤魔化せるのに。

近くにいると、それすらも躊躇われる。



本当にそうなれば良いと、思ってしまう。



私は、私でしかないのに。


私は、沖田総司なのに、期待を、してしまう。




「総司さん?」


「はい…、どうかしましたか、さん」


にこりと綺麗に笑えただろうか。

彼女にはもっと、そう永倉さんみたいな大人の頼りがいのある人とか、

藤堂さんみたいな明るい人とか、が似合うと思う。

彼女と彼らが話しているだけで焦る心。



だけど、それでも渡したくない。



譲れない。



彼女が私に笑いかけてくれる限りは。

彼女が私を選んでくれる限りは。


「始めましょうか!雪合戦!!」


「おっしゃぁああぁぁああ!は俺が守るぜぇ!!」


急な大声にびくっとする私たち。


「は、原田さん!?」

「おう、総司!お招きあずかり光栄だぜぇ!」

「佐之ソレ意味わかって言ってんのかぁ?」

「藤堂さん!」


私の気持ちをよそにわらわらと寄ってくる人たち。

相変わらずの漫才に、さんはくすくすと笑ってる。


「てか、佐之!!ちゃっかりちゃんの事呼び捨てんなよ!!」

「うらやましいか、平助〜」


わしゃわしゃと原田さんは藤堂さんの頭を撫でる。

その光景を苦笑して見てるとさんと目が合った。

にこり、と笑って返してくれる。





少し、勇気が出た。






「言っておきますが、藤堂さんと原田さんはさんとは敵同士ですから」






にこりと笑って言ってやると、果てしなく顔を崩したお二人が。

そのお二人に背を向け、子供たち「行きましょう」と促す。









「「何―――――!!!!!?????」」







そんな叫びを背中で聞いて、私はくすくすと笑った。





さんのあの笑顔がある限りは、私はどこまでも強くなれる。







この雪合戦、勝てたら飴の秘密でも訊いてみよう。










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参萬打のキリリクです!!!

お、お、お、おっそー!!!

申し訳ないです(ヘコヘコ)

こんなでよかったらドウゾ可愛がってくださると嬉しいデス。

捺稀さま、有難う御座いました!!!!