【PEACE MAKER】   〜花〜



「わっ!!」

襖を開けた私は思わず叫んでしまいました。



「あ、総司〜♪」



そこには、沢山の金木犀と、が立っていた。


「どうしたんです?その金木犀」


草履をはいて、庭に下りる。

は無邪気に笑って、金木犀の香りをかいだ。


「すっごいでしょ!!あの甘味処のサキさんがくれたんだ〜」


サキさん、とは、私のお気に入りの甘味処の看板娘さん。


この前、をつれていってあげた。


いつのまにそんなに仲良くなったのだろうか?


「全く…ってば、また稽古サボって甘味処行ってたんですか?しょうがないなぁ」


副長助勤の名が泣きますよ〜、と私は冗談めかして言う。


「やだよ、稽古は。疲れるもん」

「うわっ…その台詞、土方サンに言っちゃおっかな〜」

「本気で止めてーッ!!」


金木犀を抱えたまま、困った様に笑み、は私の腕をとる。


「冗談ですよ…それにしても、本当に見事な金木犀ですね」

「でしょう?…金木犀ってさ、コスモスとか桔梗みたいに、一輪で咲いてるんじゃなくて、

 いっぱいの花が1つの茎に咲いてるってのが良さなんだよね」



まるで、あたしたちみたいじゃない?


はそう言って、笑いかける。





その笑顔が大好きなんです。





「桔梗も、コスモスも、大好きだけどね!!」




「…私もです」


「総司も桔梗好きなの?」


いえ、ですよ。



そう続けられない自分に腹が立つ。


私は一体、何に遠慮しているのだろう。


「総司って花似合いそうだよね〜…そう言えば、侍ってよく桜か何かに例えられるよね」


「…何かって何ですか、そうですよ。士道は良く花に例えられます」

「一時パって咲いて、潔く散るから?」

「…そう、ですね」


潔く、散る。


そんな事、できるわけ無いのに。

ヒュっと喉が鳴った。





………ッコホッ、コホッ。…ケホっ…。





「だいじょうぶ?」

「…あ…ごめんなさい、匂いきつくありませんか、これ」

「もー…総司ってば、趣がないんだから…」

から趣なんて言葉が出るとは意外でしたよ」


咳が止まると、私は口から手を離した。


「本当に大丈夫?」


離した手を握られて、私は少したじろいだ。

見上げて、猶も眸で問う。






大丈夫ですから。


あなたを悲しませるような事は、しませんから。


「大丈夫ですよ」


にっこりと、笑んで見せる。




ねぇ土方サン。

私、何か間違っていますか?

から目が離せないんです』と言った私に、

『それは病じゃねぇのか』なんて笑えない洒落言ったあなたなら、

答えてくれますか?

これが例え恋だとしても。

いくらを愛しく思っても。


手を伸ばして、抱きしめる勇気の無い私は。





「私が花だとしたら…は太陽ですね」


「へ?」

「だって、花には太陽が絶対必要なんでしょう?」

「そうだけど…」

「私には、絶対が必要ですから」


今はこれが精一杯。


いつも太陽を見ている花のように、私にはが必要で。


どうしても暗くなってしまう私の心を、どうか照らして。


「でも、私が花で、が太陽なら、…さしずめ土方サンは水ですかね」


そんな事を言ってみる。


「厭よ、そんなの」

「え?」

「花と太陽なんて遠過ぎるわ。あたしはいつも総司の隣にいるんだから」


そう屈託無く綺麗に笑う


金木犀の匂いが見せた、幻想かと思うほどに。


そんなあなただから。