【PEACE MAKER】 〜強〜
強さなんて、そんな形の無いモノ、確かめようなんて。
「隊長〜」
「何サ、」
「退屈」
「…隊務している時の台詞?それが」
呆れてモノも言え無いネ、と俺は呟いて見せるけど。
「だってぇ〜」
横で頬を膨らますを、愛しいと感じてしまう。
蒼い空色のだんだら模様、その隊服に身を包む。
「じゃぁ、これが終わったら出かけようか」
俺がサラリと提案する。
「わっ♪本当?楽しみ〜」
2番隊の伍長にして、副長助勤を務める彼女は、俺の横で嬉しそうに笑んだ。
と初めて会ったのは、道場だった気がする。
道場から、庭に立てられた掲示目掛け、矢を放つ。
その姿がまだ眼裏から消えない。
初めの頃、彼女はこんな風ではなかった。
いや、悪い意味じゃなくてネ。
喋らなかったし、笑わなかった。
厄介なモノ拾ってきたネ、と思った。正直。
でも日が経って、誰もがを見るようになった。
女中ではなく、隊士にしてくれと土方さんに頼んだら、
『お前の刀は人斬りのそれじゃねぇ』と言われた時。
たしかに、の刀は強いと言うわけじゃなくて。
上手い。
綺麗なのだ、剣技が。
『あたしは、人を斬るために刀を持つわけではありません。人を守るために刀をとるのです』
と言いきったの顔が頭から離れない。
屯所について、報告終わって。
俺は着替えて、縁側に出た。
すはもうすでに庭に出ていた。
紫の、桔梗が良く映える着物。
「サテ、行こっか」
「うん!」
歩き始めて、俺はまた昔を思い出した。
が二番隊に入れて欲しいと言ってきた時は、すごく嬉しかったのを覚えてる。
俺を選んでくれた。
平助でも、佐之でも、総司でもなく、俺を。
そう思った。
だけど、それは違った。
その頃からできた、埋める事のできない溝。
「隊長?どうしたの、ぼーっとしちゃって」
「チャーン?俺を呼ぶときは?」
「う…ごめん、新八」
焦るから。
みんなは呼び捨てなのに、俺だけ『隊長』。
新撰組と言う、絶対的縦社会で、俺はの『隊長』で、は俺の『部下』。
こんなに近くにいるのに。
俺との間には、溝がある。
「そいやさ、前に新八言ってたよね」
「ん?何の話?」
「…強さがどうのこうのって」
「あぁ…言ったネ」
が何か思い悩んでいる風に見えたから。
珍しく。
出会った頃から、いや、1年前から、は我武者羅に強さを求めていた気がする。
稽古は嫌がるくせに、独りで訓練してた。
「それ、聞こうと思って」
「…えー?自分で考えなヨ」
「えー!教えてよっ、新八ぃ〜」
「じゃぁ訊くけどサ。は何でそんなに強くなりたいの?」
「…護るため」
「何を?」
「全部」
「…全部?」
「うん、全て」
は俺を見据えて、そう言い切った。
の身長は俺と同じくらい。
そんな強い眸で俺を見ないでよ。
「大丈夫だヨ…は強いから」
「そんな事無い」
「…強さは自身の中にあるんだヨ」
「へ?」
「自分だけの強さを信じなサイ」
俺がそうだから。
俺は俺だけの強さを求めてる。
だから。
「忘れないで、」
自分だけの強さは、何にでも勝ててしまうから。
その意味を、その意志を、貫いて。
俺は、すぐ傍にいて、いつでも支えてあげるから。
「そっか…そうだよね、あたしはあたしの強さを見つけるよ」
強い眼差しで、は俺を見据えた。
そんな君だから。