【PEACE MAKER】   〜真〜





コホッ…コホッ…ケホ…


遠くで、咳き込む声が聞こえる。


俺は襖を開け、廊下に出た。


月の高い夜だ。


コホ…ケホ…ゴホッ。


段々足を速める。


しかし、何かがおかしい。




似たような咳だが、これは、総司じゃねぇ。









柱に手を添え、座りこんでるのは新撰組唯一の女隊士、だ。




「ゴホッ、ゲホッ…コホ…ぁ、土方さん…ゲホッ」


「オイ…大丈夫か?」


厭な咳だな…。


俺は部屋へ戻り、湯のみと水を持ってきた。


その時、の咳は既におさまっているようだった。


「オラ…落ちついたか」

「ぁ、ありがとうございます…ちょっとムセちゃって」

苦笑と共には水を飲み干した。

「あとで洗って、お茶と一緒に返しますね」

「…構わねぇ、体調悪ィんなら早く寝ろ。お前明日早番だろ」

たしか、明日の朝の巡察は二番隊と六番隊だったはずだ。

「体調は万全ですぅー、副長ってば誰かさんとあたしをかぶせてみてない?」

くすり、と猫みたいな人懐っこい笑みを浮かべ、は言った。




「うるせぇ」




「はいはい」

「はいはいって何だ」

「ダメですか?」

「…いや」


沈黙が落ちる。


「そう言えば副長」

「何だ」

「今日、あたしが副長と会って2年ですよ」

「そうか」

「そうかって…何ですか」

「…ダメかよ」

「いえ」


また沈黙が落ちる。


2年、か。


を連れてきたのは、たしか総司だったか。


その頃から不思議な空気を纏った奴だった。


「…2年か…俺も年取ったもんだな」

「あたしも成長したなぁ」




「ア゛?てめぇのサボり癖は死んでも治らねぇだろうな」




「ひっど〜い、最近ちゃんと働いてるじゃないですか」


「そう言って、すぐサボるだろうが!!!」


「そんな事無いですよォ〜」


「…お前、まだ人を斬るのが怖ェのか?」

「まだ…って何ですか」

「前、お前に言ったな、お前の刀は人を殺めるモノじゃねぇってな」

「言われましたね…さすがにアレは凹みましたよ」

「本当かよ…」


そんな素振り全然無かったろうが…。






「今まで、お前は1人も殺してねぇだろ」






「…そうですか?でも、良いじゃ無いですか、別に取り逃がしてるわけじゃないんですし…」


「確かにな。だが、いざとなったらどうする気だ?」


「いざって?」

「…そういう時が、あるんだよ」

「人を、殺さなければいけない時?」

「あぁ…」









「まァ…躊躇いはしないと思いますよ」







信じられなかった。


の口から、そんな言葉が。



ちょっと面食らった。




「それがあたしの信条にしたがって引き出した結論なら」




は俺の顔を見据えたまま、言った。




「あたしを試すような事は、しない方が良いですよ?」


途端に、の目が細まり、笑みが戻る。



何だよ。



コロコロ表情が変わる奴だな…。



「殺し」も辞さないと言いきる女。

「信条」と男染みた事を言う女。

なのに、妖艶と女独特の笑みを浮かべる女。



やりづれェ…。


けど。


他の女とは違う色を持った、独特な奴。


こいつの一挙一動に心が動くのは。





そんな奴だから。