【PEACE MAKER】   例えばこんな逸話  SECOND STORY

  拾四   〜WAY OF SAMURAI〜




ッ」

名を呼ばれる。


意識が揺さぶられて、叩き起こされる。



「…ッこほっ…し、んぱ…?」



かすんだ視界に入ったのは、見なれた顔。



「…泣いてるの」


「バカっ!!」


「…何で」


「バカバカバカバカッ!!!!」


何ガキみたいなこと言ってんのよ、新八…。


虚ろな意識が段々はっきりとしてくる。




「何でッ、こんな…あんなに、無茶するなって…言っ…のに」



どんどん言葉の端がかすれていく。



初めてみる、新八の涙。



なぁんだ、やっぱり新八泣いてんじゃない。



「生きてて、良かった―――…」



あぁ、あたし、生きてんだ…。



手を目の前にかざしてみる。




真っ赤に染まった手が、視界に入る。




あぁ、生きてんだなぁ…。


その手を握られる。

同じく、真っ赤に染まった手。


「新八…?」

…本当に、死んじゃったかと…思っ…」

「泣かないでよ、生きてんだからさ」


ははは…ね?大丈夫だから。


「ごめん…ッ」

「どうして」

新八が謝るの?

「…守ってあげられなくて」

「良いんだよ、これはあたしの自分勝手な…」



あたしの為に泣いてくれる人。



、お願いだから…俺、を失いたくない」


だから、と新八は続ける。


これがあの新八だろうか?


信じられない、あたしはただ茫然とするばかり。


「死なないで…ずっと俺の傍にいて」


強い人、温かい人、優しい人、あたしを必要だと言ってくれる人。




あたしも、あなたが大好きです。




「死なないよ、あたしは」

きっぱりと言いきる。

「絶対」


死ねないよ、新八を、皆を残して。



、起きれる?」

新八があたしの肩を持ってくれる。

「あぁ…うん。そう言えばそろそろかなぁ…」

「何がヨ?」

「そりゃぁ勿論」

あたしは視線を戸口へ向ける。





「――――…お前らぁ……っ」


「暑苦しいのがね」

「あぁ…なるほどネ」

あたしの声に新八が頷く。


じりっと佐之があたしたち三人に詰め寄る。


近い近い。



「何ョ」

「文句ある訳?」

「はぁ…」


新八が佐之に腕を取られ、包帯の中を覗かれる。


「ぁ」


ぱっくり逝っちゃってる新八の右手の親指の付け根。


やれやれ…。



「お前らぁ……」



あ、泣いた。



「負傷なんかしやがってぇ―――――死んだらブッ殺すぞ、コラ――――!!」


佐之は思いきり2人を抱きかかえ、締め上げた。

ぎゃぁぁぁぁぁ!と叫び声を上げる2人。


元気な事で何より。


回りの隊士が必死に止めてる。


あ〜ぁ、あたしも結局倒せはしたものの、イマイチ実感が無い。


左肩口からはまだ血がにじみ出て、痛みはあるし、吉田に蹴られた横腹もずきずきと痛い。


でも、安堵感は確かに強い。


勝ったんだ、そう思う。


、大丈夫か」


後ろから低い声がかけられる。


「あ、土方さん。まァなんとか…」

「そうか、ご苦労。…すっきりした顔しやがって、よく、やったな」


そう言って土方さんはあたしの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。


土方さんにとって、それは最高の労いだと、わかった。


それが妙に嬉しかった。




「何笑ってやがる…」

「…何でもありませんっ。………総司なら奥ですよ」


「…そうか」




あたしは弱い。


だけど強い。


あたしは強くない。


だけど弱くない。



「いい加減降ろしてあげれば、佐之」

、おめぇは大丈夫なのか!?」

「…大丈夫よ」

傷口を見えないように隠す。

「お前等、怪我してんじゃねぇか…!!!しっかり守れこの野郎!!!!」

更に腕に力を入れる佐之。

いや、本当にもう。

「2人死んじゃうから」

苦笑と共に、あたしは言う。



笑顔、笑い声。






この場所がある限り、あたしはどれだけでも強くなっていける。







あたしは廊下を行き、庭に出る。

首の無い吉田の亡骸が横たわっていた。


「鉄」

「あ……大丈夫?」

「大丈夫よ、鉄こそ…耳斬られちゃったんだって?」

「…」

かぁっと照れた様に耳を押さえる鉄。

「すっきりした顔しちゃって」


乗り越えたな。


あたしはにこり、と笑った。


「俺、分かったんだ」


「うん」





「ずっと殺したいほど憎かったのは、無力な俺自身だって」





「そっか」


鉄の頭を撫でる。


「強くなれるよ、鉄は」


「……?」


「鉄は鉄の強さを、見つけられる、きっと。あたしや新八とは違う…殺すための刀じゃなく」


もっと、何かを必死に守れるような人に、なれるから。


その強い眸に、力が宿る限り。



「あたしも判ったんだ」


間違ってた、一命を顧みず仁義の為なら死ねる、それが士道だと思ってた。


だけど、違った。


新八は、あたしに『死ぬな』と言ってくれた。


その人の為にも、あたしは『生き』なきゃいけない。



それが、温かな手のお返し。



それがあたしにできる唯一の恩返し。




士道を歩むと言う事。



それは、殺すためじゃなくて、本当の意味で守るために刀をとると言う事。










―次→乞うご期待!!……←始―

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てか、主人公不死身……!!!

さぁーて、次で最終話です!!

長かった『たと逸』…やっぱり最後は笑いでしめたいですね!!