【REBORN!】
10年後シリーズ。
ホラ、君は俺に届かない。
だって、気付いてるだろう?
生まれたこの感情でさえ、なぁ。
「また、君?」
俺は慣れた仕草で見上げた。
こうして暗殺者が送りこまれてくることは稀じゃない。
「ボスの家庭教師が煩くてね」
かちゃと鈍く光るトンファーを構えたヒバリ(確かそう名乗った)が、
俺の目の前にいる。
「君を殺してこいって」
「でも君は何度も失敗してるよね」
くっくっくと俺は喉を鳴らして笑う。
「煩いよ」
不機嫌そうにヒバリはトンファーを俺に突きつける。
この日本から来て間もない男は、可愛げもなく流暢にイタリア語を話す。
「無駄でショ」
俺は椅子に座ったまま、口の端を吊り上げた。
「…100回無駄でも、101回目は違うかも知れないよ」
「ヒバリにしちゃ、ロマンチックな事言うじゃないか」
「…」
「でもヒバリ」
俺はそこでやっと立ち上がる。
「…101回目も同じだよ、君に俺は殺せない」
ブォンとトンファーが空を切る。
「無駄だったね、やっぱり」
「…咬み殺す」
「ボンゴレもどういうつもりなのか」
やれやれ、と言いつつ俺はひらりとトンファーをかわす。
「邪魔、なんだよね。僕にとっても」
「…ふぅん?」
俺はくすりと笑う。
「何で?」
トンファーを次々と避けていく。
「…は?」
「だから、何で俺が邪魔なんだよ」
「………知らないよ」
ここはホテルの一室。
俺を取り巻くファミリーの奴たちはいない。
今日は、完璧なプライベートタイム。
ボンゴレのヒットマン、ヒバリと俺が戦うには狭すぎる部屋。
「げ」
着地先に障害物。
体勢が崩れ、俺はしりもちを付いた。
背後にはベッド。
身動きがとれない。
(やられる!!!)
振り上げられたトンファーが空を切る音がして、寸前まで迫ってくるのを感じた。
…?
だが、襲ってくる痛みは無い。
最後のときまで目を閉じてはいけない。
それが俺を指導してくれたひとの教え。
「…ヒバリ?」
怪訝に思って名を呼んでみる。
良く見たら俺の頭上数センチのところでトンファーが止まっていた。
「…何でか分かったか?」
にやり、と俺は笑って見せる。
“何で邪魔なのか”
それは“指令”に背きたいと思う心の矛盾が原因。
その意が分かったのか、ヒバリは不機嫌そうな顔をさらに歪めてトンファーを振り下ろした。
「…ったー…」
ツゥっと一筋紅い線が頬を伝った。
「…女にも容赦ないんだね、ヒバリは」
「…煩よ、」
フィッと踵を返すと、視線だけを俺の方へ向けた。
「…今日がその101回目の失敗でも、また来るから覚悟してよ」
言うヒバリを凝視し、俺は垂れる血を拭う。
「何度でも君を咬み殺しにくるから、そうして生きて、待ってることだね」
「ヒバリ、それ意味分かって言ってる?」
くすくすと俺は笑う。
「…何、は分かってるの?」
いつものあの鋭利な目をさらに細めて、ヒバリはその視線すら俺から引き剥がした。
焦る様子もなく、ヒバリは俺の取り巻きを殴り捨て、去っていく。
「分かってるに、決まっているでしょう」
呟く声はきっと聴こえない。
君は会いにくるんだろう?
今日、生まれて、自覚したその事実さえなかったことにしようと。
それがどれだけ残酷なことだとしても、君は俺に会いにくるんだろう?
分からせてやるさ、何度も。