「何を怯えているんですか、」
眉をやや寄せて、口をゆるく弓張りの形にし、目を細めて、笑う。
彼独特の微笑が、序所にわたしに近づいてくる。
ボンゴレ、イタリアの本拠地。
すでにここはもぬけの殻である。
十代目が何者かに奪われて、イタリアでのボンゴレの力は完全に衰えていた。
その現状分析を任されたのが、わたし。
一人ボンゴレのアジトで探索を行っている。
敵であるミルフィオーレも抜け目のない奴らで、何一つ残されては居ないけど。
「…怯えてなんていない」
ボンゴレの霧の守護者、実態はどこで何をしているのかさっぱり謎であり、
その仕事の内容も、ひいてはプライベートもすべて謎に包まれた闇の男。
その男が目の前に現れたのだ。
わたしにとってはよく知れた人物、だけど掴めない、どこまでも謎の男。
「怯えてるじゃないですか、あなたの心が軋んでますよ」
クフフ、と怯えられてると分かっているのに楽しげにのどを鳴らしてそう笑う。
(分かってんなら止めりゃいいのに!)
この男はわたしの心をいつも見透かしている。
おそらく、わたしだけに限ったことではないのだけど。
「…何しにきたの?」
「会いにきたんですよ、いけませんでしたか?」
即答する、いつもそうだ、この男には行動に迷いというものがない。
だが言葉の奥に、いつも真意を隠していることに、わたしは気づいていた。
「誰が、誰によ」
「勿論、僕が君に、ですよ」
「嘘を言え」
「…おやおや、つれませんねぇ」
ショックですよ、と大方思っていないであろうことを笑いながら零す。
十年前から変わらない、いつも余裕綽々の様子で、わたしを翻弄する。
「に会いたくてダッシュで来たんですよ」
「…嘘を、つくなってば」
「…嘘じゃ、ありません」
今度は少し微笑みに翳りがさす。
切なげに見つめられ、少したじろいだ。
「会いたかったのは本当ですよ」
あなたは違うんですか?と返され、ふわりと抱き締められる。
誰が、と反論する言葉を消すんだ。
わたしはこの男の、そういう小さな弱さに弱い。
骸は“自分が死ぬ”なんて予想は絶対にしない、それだけの強さがあるから。
負けるなんて思っちゃいない、危険だなんて知ったことじゃない。
だけど、わたしたちが“危険”と判断する仕事のときには、何を思ってかこうして会いに来るのだ。
十年前も、それからも、何度も何度も。
一抹の不安、それはとても些細なことなのだろうけれど。
いつも余裕ぶっていて、大方感情を露にしないこの男の小さな心の動きに弱いのだ。
大人しく抱かれてやると、骸はわたしの頬に触れて、また切なげに笑う。
包むように、ゆっくりと撫でられる。
(何でそんな顔すんの、)
わたしは得も知れぬ感情に支配されていた。
「…骸」
「…なんですか?」
「今度は何やろうとしてんの」
「…企業秘密です」
くすくすと笑って、骸はわたしの言葉を無かったことにする。
息がかかるぐらいの距離で、見つめられる。
彼の妖艶な色っぽさは相変わらずだ。
年をとって、余計に増した気さえする。
「…変なの、同じボンゴレなのに」
「同じじゃありませんよ」
「…また、そういう風に言って」
ボンゴレのために働くくせに。
自分の感情には素直なくせに、変に意地を張る骸が可愛く思える。
(わたしも大分末期かな、)
そう目を伏せると、唇に生暖かい感触、ふと薄く目を開ける。
「…覗き見ですか?」
少しだけ唇を離されて、呟かれる。
骸は目を閉じているというのに、何で分かるんだ!
「…感心しませんね、」
そう言って、彼はまた、わたしに優しく口付けるのだ。
この男は変態だ。
発言も何もかもが、そのくせ人にはものすごく優しく触る。
この男は卑怯だ。
わたしがこの男に弱いことを知っていて、するりと触れてくる。
愛されてると、思わされる。
(ほんとうに?)
「…ん、…むくろ、」
そう名前を呼んだ瞬間、体を抱かれていた感覚が消えた。
「…卑怯だよ、まったく…」
そうしてまた、何も言わずに消えていくんだ。
温もりと切なさを残して、
(またふっと現れるに違いない、今度はわたしから抱き締めてやろう)
*****
骸VS白蘭の前、みたいな感じで。
骸今何してんだ!!
萌える登場してくれよ!