それは似合わない光景だった。
突かれた膝、紅く染まる肌、歪む顔、そして、崩れ落ちる。
それが夢であったらいいのに、
そしてこれが現実であったらいいのに。
「何をしてるんですか?」
ひょこりと顔を覗かせた相手に、わたしは思わず奇声を上げた。
「可愛げのない声ですね」
にこやかに奴は可愛げのない言葉を口にする。
まるで英国貴族のお屋敷の庭のような、芝生がいっぱいで、薔薇が綺麗に咲いているところに、
一人。
「…むくろ、」
「そうです、僕ですよ」
クフフと奴はいつものように軽やかに笑う。
白い靄がかかった、湿気の多い空気がわたしを取り巻く。
「あんたわたしの夢で何してんのよ」
「別に何でもいいじゃないですか、僕の勝手です」
「誰があんたの勝手だ。ここはわたしの夢だ!不法侵入だ!」
「おやおやつれないですねぇ、折角僕が会いにきてあげたというのに」
全く心外だとでも言うように奴は肩をすくめた。
独特の藍色の髪が、靄に揺れた。
「会いにきてあげた、じゃないわよ!何勝手に…」
「何です?」
「勝手に、」
勝手に、わたしの前に現れるのよ。
「………死んだかと、おもった、」
驚くほどか弱い声が出た。
俯く、こんな顔、見せたくない。
「…仕様のない子ですね。僕が死ぬわけないでしょう」
あの独特の、困ったような、だけど綺麗に作られた微笑でわたしを覗き込む。
「見るなばかっ!へんたい!」
「変態とは何ですか、今更」
何が今更だ、胸を張って変態を誇るなバカ。
死んだかと思ったんだぞ、こっちは本気で心配したんだ。
そしてそして、
「本気で泣いたのに」
何日も何日も泣いて、枕をびしょびしょにして、やっと眠りに就いたのが、数時間前だ。
ともかくも、その涙を返せ!
そうキッと奴を睨んだ。
それでも骸には効果は無かったらしい、やはり同じように困ったような笑顔で、
「…それはそれは嬉しい限りですね、僕のために泣いてくれたんですか?」
何が嬉しいんだ、理解ができない。
わたしを泣かせて何が楽しいんだ!
骸は笑んだまま、頬に触れてくる。
温もりの欠片もない、冷たく、実感のない手。
「触るなバカ、冷たい」
「…今更ではないですか、」
そう、いつも通り、体温の通わない指先。
骸はその冷えた指先をわたしの首筋に這わす。
思わず声が出そうになった、
もっと骸を感じたいって、
「…、
すぅっと靄が濃くなる、わたしの視界から骸を消していく、
「…む、くろ…っ」
「、あなたは、僕のものです」
クス、と笑い声が言葉に乗る。
あぁ、どうか終わってしまわないで(夢から覚めたくない)
行かないで、置いていかないで。
だけどそれは言葉にできない。
「…あなたが生き続ける限り、僕は死にません」
白けた夢に潰える
(ただもう、夢に生きるしかない道化のように、夢の中で夢の中であなたに会えるなら、ずっと眠り続けたい。だけど君はそれを許しはしないんだね)
あなたの為に生きよう、
だから僕の為に生きなさい。
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骸たんでした。
ボンゴレの中で、本気で誰かのために生きれるのは骸だけ。