逢いたくて
呼びたくて
叫びたくて
「あーあ」
降っちゃったよ、雨。降っちゃってるよ。
(まぁ、台風来てるってのに傘も持たずに出てきたわたしもわたしだけどさ)
はただ、屋根の下から空を見上げるばかり。
黒く淀んだ重そうな雲が、流れる空を、見上げるばかり。
「銀ちゃん、ひどい雨アルな」
一方こちら、万事屋。
「――…そうか?」
「そうアル、まるで定春の小便みたいアル」
「お前その表現止めねぇ?」
銀時は机に頬付き呆れ顔。
神楽は窓から空を見上げている。
(確かに、雨だな)
それに。
「ったく、遅ぇな…」
「アルか?この雨じゃ帰ってこれないネ」
「…」
ちらりと玄関先を見る。
立てかけられたままの傘。
神楽が退屈だからと呼んだ向かいの店で働くが、
所用で真選組の屯所に向かってから1時間。
「チッ」
しょうがねぇな、と銀時は立ち上がる。
「銀ちゃん?この小便の中、ドコ行くアル」
「うるせー、小便は小便でも神様の小便なんだよ、何でも天パが治るって噂でな」
「天パの誇りはドコ行ったアルゥゥウゥウウゥウ!銀ちゃん目を覚まして!」
「…はいはい、俺がバカでした」
「ついでに酢昆布買ってきて、一年分」
「バカ言うんじゃありません!!何その無茶なお使い!無理だし!
大体買ってもこの小便の中歩いてたら小便かかるよ!?
俺の甘ーい小便掛けちゃうよ!?」
「殺されたいアルか…?」
神楽の低い声に追い出される銀時。
傘を広げ、雨の降る地へ出た。
「っとに、冗談もわからねーガキはこれだから困るんだよな」
ぶつぶつと文句を言いつつ、雨の中をゆく。
足取りは穏やかで、急ぐ気は微塵も見せない。
「銀時ではないか」
声のした方を見て、銀時は傘を持ち上げた。
そこには一人の僧衣を纏った男。
「貴様こんな雨の中何をしているんだ、怪しい奴め」
「いや、お前こそなにしてんのよ、ヅラ。怪しさで言えばお前に勝てる奴いねーから」
「ヅラじゃない桂だ。其の傘を貸せ」
「何言ってんの、高いよ」
「どう見ても百均だろう」
「100円でも大金でしょ!!」
「其の通りだ。だが、この国の未来がかかっている、貸せ」
「無理だって、俺急いでるから!」
「銀時!この国の宝が風邪引いたらどうするんだ!」
「うわー、お前何様!?急いでんだよ、俺の世界の宝が風邪引いたらどうしてくれんの!!」
「お前の世界の宝…?」
「これでも大事に抱きかかえてる奴がいるんだよ」
「背にも背負って、胸にも抱いておるのか。本当に稀有な奴だな」
ふふんと満足そうに桂は笑う。
その様子が気に入らないのか、銀時は足を速めた。
「あー…」
もうここまできてしまったならしょうがない。
これ以上は酷くなるばかりだろう。
ここに居て雨が上がるのを待つには途方も無い。
いっそ走って帰るか、とがもう一度上を見上げた時。
「お嬢さーん、傘をお忘れですかー」
抑揚の無い、低い声。
「銀さん!?」
「やれやれ、帰ろうぜー、」
欠伸を一つ零し、銀時は背を向ける。
「迎えに来てくれたのは嬉しいけど、傘一つって…」
「あ」
あ。
って。
完全に気付いてなかったのか、とは呆然とする。
「…良いんだよ、俺たち2人が濡れねーのに、傘は2つも要んねーよ。
1つで充分だろう。…オイ、もうちょいこっちこなきゃ濡れるぜ」
そう言って、何気なく銀時はの肩を抱き寄せる。
「わっ…まぁ、万事屋に傘1つしかなかったもんね、買っていく?」
は一瞬驚いたようだったが、すぐにいつもの調子に戻る。
「要らねーよ、高ぇだろ」
ニィっと笑いながら銀時は続けた。
「これからも、こうやって一緒に行動すりゃ良いだけの話だろ」
傘を共有して、雨の日は、一緒に。
ほら、雨の日に一緒に居る言い訳ができたよ。
今度は晴れの日の言い訳を、考えようか。
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銀さん夢。
お粗末さまでした…。