【銀魂】






空が一気に近くなった気がした。







地を這いずっていたのはついこの間で。

俺はまだ、この世界に、いた。

俺の体は、原型が無くなるほどに燃やされて、灰に変わった。



少しは天に届いただろうか、あの風に乗って。









「総悟」










ぽつりと呟いた声だけが、天へと昇って行った気がした。

相変わらず俺は地上にいるんだ。






もう聴こえないことは、百も承知だ。(そこまでバカじゃねェ)

あんなに涙もろかった奴が、葬式の日に限って泣かなかった。

水分の一つも、俺に手向ける気は無かったらしい。

(それが、充分な餞だ)

ただ、俺の棺の前で。


(近藤さんが泣いてる)は佇んで。

(土方さんが泣いてる)は拳を握った。


「総悟」


真っ白な俺の顔に、触れて。


「…ばかみたい、何でこんなに綺麗なの?」


刀傷の無い体に触れて。


「ばかみたいだよ、総悟」


震える声でそうポツリと零しただけで。


“俺だって病で死ぬなんて思ってもみませんでしたぜ”

「…お別れなんだね」

“あぁ”

「変だな、涙がね、出ないんだよ」

“おかしな話だな”

「きっと総悟が死ぬまでに、流しすぎちゃったからだよ」

“俺が泣かせたって言いたいんですかィ?”

「何も、できなかったね……こんなに、虚しい気分になったのは、初めてだ」

“悲しい、んじゃなくて?”


棺が閉じられる。

何もできなかった、なんて言葉知ってたんですかィ?

…アンタはいつだって全力投球してたはずだろィ。


「そ、うごっ」


手を伸ばすを抑える、土方さん。

“俺のに触らないで欲しいんですがねェ”

実体の無い手を伸ばして、無駄だと実感する。


、てめェは帰れ」

「や、やだっ。何で!」

「………骨カスになったあいつが見てぇのか」


遠回しに、“見てやるな”とでも言うような言い方には黙った。






灰 に な っ た 俺 を 、 ア ン タ は 抱 い て く れ ま す か ィ ?






墓なんかに入れてくれなくて良い、それならせめて空へ撒いて土に還して。

だけどアンタは俺を抱いただろう、サラサラと地に落ちることを厭わずに。


「………」


は無言のまま、火葬場を去る。

俺はここから離れられない。

その背を見送って、土方さんを軽く睨んだ。


「…どうせ、いるんだろうが、あのバカ」


呟いた声に俺はさらに眉を寄せる。

(礼なんて言いませんぜ)




立ち上る白い煙、恐ろしいほどに、白い。




人を焼くと、こんな色の煙が出るんだ、知らなかった。




はこの煙を見ているだろうか。

俺の片割れが空へと還って行く。


納骨とか良く分からないが、俺の遺骨はどうやら四十九日を待たずに墓に入れられた。

姉と、同じところだ。

その日も憎らしいぐらいに空が晴れ渡っていて、今日と同じぐらいに。






「総悟」






墓の前に立つは、いくらか痩せたような気がした。

幽霊と言う奴は、心残りがあっても思い入れがなければ遺骨から離れられないものらしい。

(少なくとも俺はそうだ)


「ね、総悟…」


何が言いたいんでィ。


「まだ、そこにいる?」


あの時、土方さんと同じように。


「どうせ、上手く成仏できないんでしょ」


あんた、不器用だったから。

そうは続ける。


「あたしね…」


声が、言葉が、止まる。


「………総悟がダイスキだよ」


泣きそうな声で、だけどその目はもう涙が枯れてしまって。


流れていても俺にはもう拭えなくて。


「置いていかないでって、あんなに頼んだのに」


眉を寄せて笑う。

(無茶言うなって言っただろィ)

約束した覚えは、無い。


「…あれが最初で最後だったね、総悟が…あたしの願いを聞いてくれたなかったのは」


何だかんだ言って、あたしに甘かったもんね。






「………独りにしないでよ」









「何故、あたしを離したの…?」









!”











いくら声を枯らしたって、届きゃしない。

(何だってんでィ、糞野郎ッ!)

反則だ、何で今更そんなこと口にする?




「総悟」














少しでも良いから。








「独りに、しないで…」







目を覆う、もうそこは枯れてしまっているのに。















見えないだろィ。

どうせ。

だったら、せめて大人しくそこに立ってなせェ。

エゴでも、俺は幸せだった。

一人に愛されることが、何よりの幸せだった、ん、だ。。。






















俺はふわりとを抱き締める。





























見えないこの腕は、アンタを抱き締めることがきないかもしれない。

だけど、

は何もできなかったわけじゃない、自他共に呆れるほどに認める不器用な俺が。

空へと舞い上がることができる。

憧れであった空は、いまや憎らしい。

もう少し、地を這いずっていても、よかった。

だから、




“なにもできなくて、悪ィ”




どうか、































“どうか、幸せに”

































サヨウナラ、

届いたか?俺の最後の言葉。

































「そう、ご…?」

































「グッバイ、マイラバー」







































あいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてる。





























(伝わらないと分かっているけど、言わずにはいられないんだ)
















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どうしよう、めっちゃ自己満足。

総悟さんはね、最後までSでいたらいい。

彼女さんはね、そんな総悟さんをSのままで死なせてやればいい。

初めて、キャラが死んだ夢を、書いたなぁ。