【BLEACH】
好きだと言ってるじゃないの。
「なぁ、」
「ん〜?」
それはいつもと同じ調子で。
「悪ィ」
「………ェ?」
いつもと同じように自然に。
「死んでくれ」
襲ってきた死への快楽とあなたへの情動。
「な、に」
言っているの、と言おうとした口を塞がれる。
口を覆う手が鼻まで伸びる事は無い。
背もたれにしていたベッドに押し付けられて、とにかく。
身動きは取れない。
冬獅郎、そう呼ぼうにも舌で止まる。
ベッドの上に引きずり上げられ、冬獅郎があたしの上に跨る。
いつも真面目で、真摯な目がこんなにも怖い事を知らなかった。
口から手が外れ、あたしは積もる言葉を言おうとした。
その瞬間。
「ひゅッ」
口から出たのは言葉じゃなくて、ただの空気。
認識するまでに結構な時間を要した。
あるいは一瞬だったかも、知れないけど。
あたしは息苦しさに眉を寄せ、目を瞑る。
手はもがき、虚しく宙を舞う。
本気だ。
冬獅郎は、あたしを、殺す。
すぐ近くにある刀でなくて、彼が彼の手であたしの首を締め上げてる。
ぐぐぐっと徐々に力が入っているようだ。
冬獅郎ならあたしの首捻るのも簡単だろうに、と思う。
いっそ一思いに、骨まで捻折ってくれれば楽なのに。
苦しい。
何、コレ。
「〜〜〜ッ!!」
ばたばたと暴れて、兎に角逃れようとするけど。
無理な事だとも分かっては、いるけど。
彼の袖を掴み、うっすらと目を開ける。
何で。
真っ直ぐあたしを見下ろせるの…?
確実に気道を塞ぐ、彼の手。
もう、駄目。
どうしようもない諦めがあたしを支配した。
いつから?
いつから?
あなたの殺意はいつからあたしに向いていたの?
いつから?
いつから?
あたしはこんなに諦め早くなったの?
あるいは、彼になら殺されても良いとでも、思ってた…?
あぁ。
これが原因か。
するっと彼の袖を掴んでいた手を離す。
苦しい。
苦しいよ。
もう、駄目だ。
空気が肺に行かなくなっていく。
徐々に締められてるものだから、余計に苦しい。
絞殺が、こんなに時間が掛かるものだなんて、知らなかった。
「」
呼ぶ声がするけど、もう朦朧として何が何だか分からない。
目だって開けちゃいるけど、かすんで見えない。
大好きな彼の顔が、かすんで見えなくなる事なんて無いと思ってた。
生理的か、それとも情動的にか、涙が頬を伝う。
「」
駄目なんだってば、もうあなたの声には応えられない。
「」
駄目、、、、、、、だ。
ぎりぎりと締まっていた首が、一気に解放された。
「ッッッ!!ごほッ!」
げほ、と咳をするけど、空気は一向に肺へは入らなくて。
身体を丸めて必死に息を吸おうとする。
吐きそう。
何十回かの咳を繰り返して、あたしは冬獅郎を見上げた。
相変わらず彼はあたしに跨ったまま、静かに見下ろしてる。
何で、なんて恐くて訊けない。
布団が涙やら唾液やらで汚れるけど、あたしは視線を彼から剥がした。
「」
呼ばないで。
未だ足りてない酸素を吸おうと大きく上下する肩に、何かが触れる。
「」
耳元で囁かれる大好きなひとの声。
冷たくて涼しくて、だけど誰よりも甘くて大好きだった声。
「これでも本当に、俺になら殺されても良いと、思ったか?」
あぁ。
あたしはなんて、愚かだったんだろう。
ふるふる、と首を横に振る。
「悪かった」
そう言って彼はベッドから下りる。
一気に来て去って行った死への快楽と死からの解放。
どうして。
彼になら殺されても良いなんて思ってしまったのだろう。
「ご免なさい」
ご免なさい。
きっともう彼の顔をまともに見る事なんてできない。
きっと彼もあたしの顔をまともに見ようとしないだろう。
彼は試したかったのだろうか。
殺されても、死んでも良いと言うあたしを。
たったソレだけの理由で。
狂い出した情動と決定付けた動機。
あれだけ、好きだと言っていたじゃないの――――…‥。