誰だ。

目の前を横切る蝶は何の報せか。

キオクに棲む、真っ黒な蝶々は。










ハザマ     〜真と偽と〜











「ったく…何だってんだ!」

十番隊舎に戻りながら冬獅郎は毒づいた。
随分とイライラしていた。
報告に一番隊舎に向かって、そこでこんな会話が為された。

「日番谷や、用件は分かっておる」
「はい」
「して、任務の方じゃが、確保じゃ」
「確保?…ですか?」

余り予想していなかった応えに冬獅郎は寄せた眉間の皺をより深くする。
今まで処刑や討伐や、何たら言っていて、ここにきて確保とは。随分甘い決定だ。
目の前に佇む老人は威厳たっぷりにそう言い放った。
山本総隊長だ。

「そうじゃ、つれてこい。それが中央の決定じゃ」
「分かりました」

冬獅郎はそう言い残すと踵を返す。
そう言うことしかできないのだ。
隊長とはいえ、一隊長。異論を述べる権限などない。

「おぉ、言い忘れておった。そやつ…眸の色は金色では無かったか?」

呼び止められて振り向きつつ、考える。
(暗かったし、印象に残っていないって事は恐らく)

「黒かったと思いますが」
「そうか…なら良いのじゃ」

訳が分からず冬獅郎は首を捻る。
どうしてそのような事を聞かれたのだろうか。
瞳に印象はなかったが、闇夜にもよく見える漆黒の髪だったことを思い出す。

「行っていいぞ」

言われるままに隊舎を後にする。
半ばあの言葉に追い出されたようなものだ。
(金眼…だと?)
記憶の糸を手繰り寄せてみる。
金眼には異端児を意味するところがある。
それ以外に、何かあったはず。
(オンミョウジ)
糸の先に引っかかっていたのはその言葉。


“陰陽師”

“滅却師”“死神”に並ぶ“虚”を討つ者の名だ。


“滅却師”は虚を“滅殺”する。

“死神”は虚を“救済”する。

“陰陽師”は虚を………“従属”させる。


虚の従属化を可能にする人間。
たしか、そう学院で習った。
大昔前(そうは言っても1000年ほど前だが)に活躍した“鬼”退治を生業とする人間。
それが“陰陽師”。“鬼”が“虚”だ。
森羅万象・陰陽五行を理解し、霊子を固め武器を作り、斬魄刀さえ持ち。
虚を滅することも、救うことも、そして従わせることすら、できた人間。
それが総じて金眼だった。


「まさかな」

小さく自分の考えを否定しつつ、冬獅郎は十番隊舎の扉を開ける。

「…何してる、松本」

開けるなり自分の目を疑った。

「何って、バランスボールですよ」
「何さらりと言ってやがる」
「ダイエットに最適で、今現世で大流行らしいんですよ」

(だからッ!俺が訊いてんのは何で隊舎でンな事やってるかだよ!!)
空気が入った大きなボールの上に座ってバランスを取っている乱菊に目をやり頭を抱える。

「隊長もやります?」
「やらねぇッ!!行くぞ、松本。仕事だ」
「えー?今からですか?」
「あぁ…あいつを捕らえにいく」

冬獅郎の深刻そうな顔に圧されてか、乱菊も黙る。
何か、変な予感がする。

「とにかく準備しろ」

それだけ言うと地獄蝶を放す。






「解錠」






(あいつの正体を見定める)
冬獅郎は羽織りを翻し、門をくぐった。
後ろから乱菊が続く。

「隊長、彼女なんだったんですか?」
「分からん。上が連れて来いっつーからソレに従うだけだ」

腑に落ちなさそうに冬獅郎は呟く。
指示だから従う。
それは冬獅郎自身が答えあぐねている証拠だ。
今、進まねばならないこの状況で迷っている場合、判断材料になるなら人の意見にも従う。

「…どう思う」
「どう思うって…彼女が何なのか分からないと…」
「そうだよな」


(まさか陰陽師だとしたら)
捕らえるどころじゃ済まされない。
その昔、死神と陰陽師は戦争をして、陰陽師を撲滅したはずだ。
その生き残りということは、それ自体が罪と認識される場合が多い。

「隊長何か知ってるでしょう」
「…そうじゃねぇ、知ってるっつーか…ただの」
「勘、ですか?」

走りながら二人は会話する。
標的のところまであと少し。
乱菊の問いに答えられなかった。
確かにそうなのだが、そんな不確かな物を口に出すべきかどうかも分からなかった。

「松本、あいつの眼しっかり見ておいてくれ…金眼の可能性がある」
「金眼…ですか?」
「そうだ、一応で良い」
「はい、気をつけておきます」

乱菊は頷く。
彼女も馬鹿ではない、その意味するところが分かったのだろう。
前を走る冬獅郎が、走るのを、やめた。

「いた、あいつだ」

視線の先にはこの間の少女、

「囲まれてますね」

その周りには多くの虚。

「…どうします、隊長」
「仕方ねぇ、様子みっぞ」

ギリっと拳を握る。
(何で俺がこんなイラついてんだ?)
自分の情動さえ分からない。
自分たちの仕事は何だ?


その時、彼女、が動いた。






―次→

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相変わらずの戦闘好きだな、あたし…!

書けもしないのに良くやるよ…(遠い目)

サテ、ヒロインの設定は分かっていただけたでしょうか(汗)


ポイントは3つ。

1、死神化しなくても斬魄刀が使える。
2、虚を殺すこともプラスを送ることも可能。
3、特殊能力として虚を自由的従属をさせることが可能。

以上!!