だれか。

蝶々を捕まえて。

キオクに棲む、真っ黒な蝶々を。









ハザマ     〜任務と眠気覚ましと〜












気付いたら囲まれてた。
(ったく、何だってのよ)
は頭をかきつつ溜息をつく。
確かに無防備で公園で寝ていた自分も自分だが、こんなに霊を呼び集めてしまうとは。
そしてそれが原因かは知らないが、あの“異形”をも呼んでしまった。
最近何なのだろう、流行かな?

「さァて、誰から相手してほしい?」

挑戦的に笑む。
後ろには普通の霊たち。
すでに何人か虚に食べられてしまった。
(無差別、か)
は頭を捻る。
(確か、“鬼”ってものだったかしら)
遠い昔、叔父であったひとに教えられた事を思い出す。
“異形”の形をした“幽霊”より性質の悪い“鬼”というモノの存在。
巡る魂を、食べて、終わりにしてしまう。

「わたしね、そんなに優しくないの」

にこ、そう口の端を吊り上げて笑うと、それを合図にしたように周りの“鬼”が霧散した。
弱い”鬼”はの霊圧にあてられて、消滅してしまうのだ。

「来ないと殺しちゃうよ…?」

口元には笑みを、しかし空気には殺意を。
その空気に触れ、3匹程の“鬼”が一斉にへ向かってきた。

「さ、て勇気のある君達に救いを」

言うとはニヤリ、と笑った。
右手に集中する。
(久しぶりだから、できるかな)
などと、呑気に考える。
すぅっと息を吸い込むと静かに呟いた。







「急急如律令 晴らせ 清明」







右手に現れたのは反りの無い直刃、その刃に沿って左手を掲げ滑らせて呟くと光が溢れる。
その光に当てられて、また、弱い”鬼”が吹き飛んだ。

「今日のあたしは機嫌が良い…一刀両断にしてやるから、きな!!!」

挑戦的に笑み、向かってくる虚をばっさばっさと倒す。
虚を斬るのは、簡単だった。
…これをしている限りでは、自分たちは生き残れていたんだが、と叔父が言っていた。
“死神”か。
はこの間会った二人を思い出す。
(確かに刀は持っていたわね)
やっぱりアレは“死神”だったのか、とは思考をめぐらす。
その間に、”鬼”との戦いは終わってしまったようである。




「随分派手な立ち回りだったじゃねぇか」




男にしては高い、しかし女にしては低い、男の声。
気付いてない訳じゃなかった。
あんなデカい霊圧、そう簡単にうまく消せるもんじゃない。
ましてや、の前で。

「そろそろ来る頃じゃないかなァとは思っていたのよ」

はくるりと向きを変える。
変えた先にはいつぞやの突然変異コンビ。

「何の用?」

今度は困惑の色なんて見せない。
見据えて、はっきりとは言った。

「俺達と一緒に来い」
「お断りね」
「…これはお願いじゃねぇんだ、命令なんだよ!」

そう言うと、冬獅郎がの視界にぐんっと入ってきた。

「な、に!?」

は言いつつ反射的に半身横にズレる。
恐ろしく速かった。
それでも彼は本気なんかじゃない、それだけははっきり分かる。

「冗談じゃないわよ、死ねって言うの!?」
「死ぬかどうかは向こうでのお前次第だ。今は取り敢えずお前の魂魄を体から抜くだけだ」

(それって幽体離脱って事?)
あっさりとそんな事言わないでもらいたい。
向こうでしくじったら戻って来れないなんて。

「大人しく捕まれよ、そしたら痛い思いしなくて済むんだ」
「何、その脅し。知らないわよ、厭なものは厭」

きっぱりそう言うと、彼もさすがにイラッときたらしい。

「言ったろ、お前の意見なんざ訊いてねぇんだ」

さっきの倍は速い。
目で追うのが精一杯。
気付いたら、の目の前に、冬獅郎が、いた。

「ッッッ!!」

向かってきた切っ先を間一髪で避ける。

「甘ェよ」

その避けた体さえ狙って、彼は斬り込んできた。
(冗談じゃない!!)
死ぬのなんて勘弁してほしいし、ましてや殺されるなんて厭過ぎる。

「うっさいのよ、ちびっ子が」

ギッと冬獅郎を見据えると、は刀を振るった。

「っと…軽いぜ、こんなの」
「知ってるわよ」

格の違いなど最初から分かってる。
経験の違いだとも、分かってる。
だからって。

「大人しく死んでやる気なんて無いわ!」
「面倒くせぇな、お前が早くすりゃこっちも早く済む問題なんだよ!」
「知るかッ!何であたしが死ななきゃなんないの!」
「上の命令だ!」
「…だったらその上がこちらにこれば良い!!」
「無理だ、老体だから」

「………………あ、そう」

知らないわよ、そっちの都合なんて、とは愚痴る。
も相当のすばやさと格闘センスを持っているはずだ。
幼いころより仕込まれたそれらは、今まで役に立つことはなかったけれど。
初めてはそれに感謝した。


その間もと冬獅郎の追いかけっこを続けている。

「たいちょー、あたし帰りたいんですが」

挙手をして乱菊が主張する。
彼女、何もしていない。
高みの見物だ。
それに気づいてか冬獅郎もめんどくさそうに顔をゆがめた。

「おまッ…チッ。しょうがねぇな!」

俺もこれ以上付き合ってられねぇし、と冬獅郎は呟き地面を蹴る。

「力ずくでも連れて行くしかねぇんだよ」

へ?と、が足を止め、冬獅郎を見る。
(やばい!)
何か分からないが、危険だと、の第六感が訴えている。
(逃げるか!?)





「逃げるなよ…?お前の足じゃ、逃げ切れねぇ。無駄に逃げると、痛ぇぜ…!」





冬獅郎が刀を構え、を見据える。



(ヤバイ!!!)



動けなかった。
何だ、これは。
全身から噴出す汗が、じんわりと感じられる。
反対に、周りの気温は下がっていると言うのに。
目を逸らせない。筋の一つも動かせない。






「 霜 天 に 坐 せ !  氷  輪  丸  ! ! ! 」







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やってしまわれた…ヒロイン、最強が好きなんですが。
さすがに隊長より強いのは面白くないかな、と思いまして(てへ★(消えろ)
シロ隊長に始解してもらいました←