【鋼の錬金術師】 18 〜戦う事〜



「『鉄血の錬金術師』グラン准将がか!?」


は大佐の声で目を覚ました。


「軍隊格闘の達人だぞ!?」


はっとした。

スカーが、現れたのだ。



寝過ごしたァ!!



考えても、考えても、結局は眠ってしまうほど難しい事。


運命なんて知らない。

神なんて知らない。


(あたしはあたし)



自分のできる事を、するべき事を、したい事を、するまで。


神になんて譲ってやらないんだから。




そして。

忍としての本能が目を覚ます。




「ま。ここらで有名どころと言ったら、タッカーとお前さんだけだろ?」




バタン!!



「なっ!?!?」


名を呼ばれるのにも構わず、は全速力で走った。

風の如く駆け抜ける。

その姿を見送りながら、ロイ大佐は呟いた。


「まずいな…」

「え?」

「おい!」


「エルリック兄弟がまだ宿にいるか確認しろ。至急だ!」


「ぁ、大佐。私が司令部を出るときに会いました。

 そのまま大通りの方へ歩いて行ったのまでは、見ています」


「こんな時に…!」

「ちょっと待て、ロイ!!」

「何だ、ヒューズ!!後にしろ!」

「国家錬金術師を狙っているとしたら、あの子も危ない!」

ロイ大佐の動きがハタ、と止まる。


「どういう意味だ?」


「お前さんには黙っておいてくれと言われたんだが、こんな状況だ」

ヒューズ中佐が口篭もる。

「だから何がだ!!」

ちゃんだよ!あの子も国家錬金術師なんだ!!」




「何ィ!!!???」




「名を、影忍の錬金術師!!!




どん!




ロイ大佐がヒューズ中佐の襟首を掴み、壁に押しつける。

ぐっ!

「何故黙っていた…!!」

「…」

「大佐!今はそんな場合ではありません!!!」

中尉が制止する。

「チィ!!車を出せ!!手のあいている者は全員大通り方面だ!!」





どうか、間に合って。

後悔させないで。


は一心に走った。


時計台の下にくる。


そこにはすでに。



「遅かった…!!」


「アル!!…野郎ォォォォォ!!!!


エドが、スカーに向かって行ったところだった。


「止めろ、エドォォォォォ!!」


は精一杯で叫んだ。


雨が、降っている。


「遅いと言っている!!」

スカーの右手がエドの右腕を掴んだ。




バチィン!


ものすごい音とともにエドの体が弾き飛ばされるようにして、地面に倒れこむ。


くそ…どうすれば、どうすれば良い?



最善の方法を、探せ。


あいつは、人体を破壊する。


「…っくそ!」

エドははき捨てるような声で良い、水を吸って色の濃くなたコートを脱ぎ捨てた。

「機械鎧…なるほど。“人体破壊”では壊せぬはずだ」

あらわになったエドの腕を見て、スカーが呟いた。


考えているヒマなんて、無い。


助けなければ。



タ・ス・ケ・ナ・ケ・レ・バ。




「おかげで余計な時間を食ってしまったではないか」

とても淡々とした口調で、スカーが言った。


「それはちょっと困ったわねぇ、あなたにはもう少し、ここにいてもらわなきゃいけないの」



!!」


何でここに…とアルが呟く。


「何してんだ!!早く逃げろ、!!」


アルを遮ってエドが叫ぶ。


「それはこっちの科白だ、ばか!!喧嘩を売る時は相手見ろっての!!」


「俺等が売られたんだよ!!」


「同じだ、!!」


「豆って言うな、ボケ!」

背後から、パンと軽い音がした。

「とにかくなぁ、

「あぁ、分かってる、エド」


「「今の敵はあいつだ!!」」

エドの機械鎧が変形する。

「てめえの予定につきあってやる程、お人好しじゃないんだよ!」

「兄さん、、ダメだ。逃げた方が…」


あぁ、アル。


何て哀れな姿に。涙。



おねぇさん、悲しいよ。


そして、あいつ許さない。


エドがスカーと対峙する。


は視線をそちらに向けたまま、上着をアルへ放った。


「なっ?」

アルが驚いて声をあげる。

「目立ってるよ」


そう一言だけアルに言い、あたしは歩き出す。


「ふむ…両の手を合わせる事で輪を作り循環させた力をもって練成する訳か…


 ならば」


「っらあぁああああぁぁああ!!」

一端スカーが落ち着き払った言葉を切る。

エドが突進していく。


「はぁーい、お邪魔するよ」



バシィ!!


スカーの腕の軌道を空手の要領で変える。

同時にエドのタンクトップの後ろ襟を引っつかんで後ろに引き戻す。


3人の間に再び距離。



!!??」


「…貴様も邪魔するなら殺すまで」


「やってみなさいよ…」


「どっち見てんだよ…お前の相手は、俺だろうが!!」


エドが叫んでスカーに向かっていく。


ちっ。


何のために引き剥がしたのか分かりゃしないね。


パン!


は両手を合わせた。

そのままビルの鉄菅に手をつき、練成をする。


向かって行くエドの右腕にスカーの手が触れるその瞬間。



ザン!!


「2対1なの忘れてなぁい?スカーさん」

「…お前も錬金術師か」


言いながらスカーは腕に刺さったクナイを抜き、地面に捨てる。


「珍しい飛び道具だ」

「あら、忍者なら常備している道具だけど」

「ニンジャ…錬金術師じゃないのか」

「あたしは忍者…他にこんな武器もあるのよ!!」


言いざまには手裏剣を数枚投げる。

難無くそれは避けられるが、手裏剣の本来の力は“戻ってくる力”にある。


「ム…」


それもまた、難無く止められ避けられる。


しかし次に待っているのは。


手裏剣に気を取られているスカーの胸元に飛び込んだ

スカーの足を払うと、態勢を崩したスカーに言い放つ。


「はぁーい、こんにちわっ!」


がら空きの顎目掛け、は地を蹴り上げた。


「スピードも、パワーも、ワザのセンスも中々…だが…甘い!!


スカーの右手がの左足をとらえた。


やられる!!


「させるかよっ!!」

の視界にエドが入る。

「エド!!」

「甘いと言っている!!]


スカーの右手が、エドの右腕に当てられる。

左腕はの左足を力を受け流すように反転させ、フッ飛ばした。


「ぐっ…」


息が詰まった。


!!!」


「ゴホッ…ゴホ…エ…ド…」


苦しげに目を細め、は必死に空気を吸おうとした。



その瞬間。


カッと一瞬閃光が走り、エドの右腕がバラバラに崩れ落ちた。


「っエド!!」


「兄さん!!」


雷が聞こえる。

あとは雨の音。


目に見える情景。


その他に感覚に触れるものは無い。


「神に祈る時間をやろう」

やっぱり。

「あいにくだけど、祈りたい神サマがいないんでね」


俯いたままのエド。

それを見下ろすスカー。


「あんたが狙ってるのはオレだけか?弟…アルも殺す気か?」


運命は変えられないのか。

「邪魔する者があれば排除するが、今、用があるのは鋼の錬金術師…貴様だけだ」

「そうか、じゃあ約束しろ。弟には手を出さないと」



「兄…」



「約束は守ろう」


「何言ってんだよ……兄さん何してる!逃げろよ!!」


「そうだ、逃げろ。エド」


は立ちあがり、歩き出していた。


…来るな、来るなよ!!」


「スカー、あなたが狙っているのは国家錬金術師でしょう?

 だったら、あたしの相手をしてくれても良いんじゃないの?」


「…」


「あたしは、影忍の錬金術師よ!!」


はスカーを見据えたまま言い捨てた。


「お前が…最近採用された…」


「エドを殺したいなら、あたしの殺してからにしな!!」


カッと雷が轟いた。


!!!!」


「言われずとも」



ぐん!とスカーが視界に入ってくる。

だけど、それは作戦の内。


パン!


両手を合わせる。



ーーーーーッ!!!」



「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


エドとアルの叫び声を一切無視し、は地面にバン!と手をついた。


ドン!



一発の銃声と。


がくん!とスカーの動きが止まるのはほぼ同時。





「そこまでだ」




麻痺していた頭に、感覚が戻った。




―NEXT→

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長いですね、無駄に。
暗いよー。